更新日: 2024.01.20 その他年金

「モデル年金」の基になる世帯構成が見直されると聞きました。何が問題なのでしょうか?

「モデル年金」の基になる世帯構成が見直されると聞きました。何が問題なのでしょうか?
年金の標準的な給付水準として、長く使われてきた「モデル年金」。実態に即していないとの判断から、見直される方向になりました。本記事で、働き方や世帯構成の変化も確認しながら解説します。
伊藤秀雄

執筆者:伊藤秀雄(いとう ひでお)

FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員

大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。

モデル年金とは?

現在、標準的な年金(モデル年金)として示されているのは、1985年に「男性の平均的な賃金で40年間就業した場合の老齢厚生年金+夫婦2人分の老齢基礎年金」と設定された年金額で、妻は厚生年金にまったく加入したことがない専業主婦をモデルとしています(※1)。
 
2023年度のモデル年金(67歳以下の場合)は、次のとおりです。
 
〔9万1982円(老齢厚生年金)+6万6250円(老齢基礎年金)×2〕=22万4482円/月
 
2023年11月の厚生労働省社会保障審議会では、標準的な年金水準は、より多様なライフスタイルを想定して提示することが望ましいとの意見が多く出されました。
 
たしかに、40年近く前に定義されたモデルですし、男女の働き方も大きく変化してきていることは容易に想像がつきます。では、実際どのような変化が今回の見直し方向につながったのでしょうか。
 

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片働きから共働きへ

現在のモデル年金では「妻の勤労所得」が織り込まれていませんから、この有無が老後の世帯年金額に直結します。図表1はモデル年金のベースとなる片働き世帯数と、共働き世帯数の推移を調べたものです(※2)。
 

図表1

出典:厚生労働省「令和4年版 厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保- 図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移」
 
1980年に、片働き世帯が1114万世帯、共働き世帯が614万世帯だったものが、2015年には片働き世帯687万世帯、共働き世帯1114万世帯と入れ替わる形となり、その後も差が開き続けています。
 
このように、すでに30年近く前に世帯数が逆転していたにもかかわらず、老後の標準的なモデル年金額は片働き世帯を使い続けていたということです。
 
また、国がこのような夫婦の役割分担を推奨していると受け取られかねないことも、今回の見直しの動きにつながったと考えられます。ただ、1985年から継続している指標であることから、長期的に比較可能な数値として今後も算出されることとなっています。
 

新モデルは3つ?

実は、同審議会では20年以上前から年金の給付水準の示し方について、世帯構成の多様化に対応すべきとの議論が重ねられてきました。以下は、記録されているコメント事例です(※1)。


・若い世代では共働き世帯が急増し、モデル年金のリアリティーが薄れている

・モデルとして共働き世帯を想定し、女性の一定の厚生年金加入期間を前提としたモデル年金を想定していくことが妥当

・女性の被保険者について、その厚生年金加入期間や賃金をどのように考えるか

・単身世帯を想定したモデルについても併せて検討すべき

これらの意見からも、ひとつの新しいモデルに置き換えるのではなく、「片働き」「共働き」「単身」の3つのパターンで示す方法がありそうです。その際、女性全体平均だと男性より低くなる賃金の設定がポイントになるでしょう。
 
男女雇用機会均等法施行年に新卒入社した女性が60歳を迎え始めたこともあり、定年まで正社員のケースと、いったん退職しその後非正規雇用で社会保険加入したケースの2つがあってもよいのではと考えます。
 
単身世帯は、共働き世帯の男女それぞれをモデル年金とみなせますが、男性も正社員以外の雇用形態を追加できると、多様なライフコースをモデルに取り込む趣旨に沿うのではと思います。
 

「標準世帯」が残っている

モデル年金の根拠となった世帯の考え方と同様に、実は総務省の「家計調査」においても、1970年代に「標準世帯」という考え方が採用されています(※3)。
 
「夫婦と子ども2人の4人家族」で、有業者が世帯主1人だけの世帯を指します。現在は標準世帯という用語を使っていませんが、今でもさまざまな統計でこの世帯構成が使われています。
 
モデル年金は有業者数の変化ですが、世帯の構成自体が当時から大きく変化していることが、次の図表2から分かります(※4)。
 

図表2

出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」
 
児童とは、18歳未満の未婚の子を指します。2022年には、児童2人の世帯は6.9%に過ぎません。世帯の構成と有業者数の双方で、もはや「代表的な単一モデル」は存在しないといえます。
 
「標準」や「モデル」が実態とかけ離れていると、政府や自治体が施策を誤ったり、多くの人にとって使い物にならなかったりする恐れがあります。実態を映し出したモデル年金が示されることを期待しています。
 

出典

(※1)厚生労働省 年金局 多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方
(※2)厚生労働省 令和4年版 厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保- 図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移
(※3)総務省統計局 家計調査 用語の説明
(※4)厚生労働省 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況/結果の概要 I 世帯数と世帯人員の状況
厚生労働省 社会保障審議会(年金部会)
 
執筆者:伊藤秀雄
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員

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