更新日: 2024.01.23 その他年金

物価高が続いていますが……令和6年度の年金は増えるの? 減るの?

執筆者 : 辻章嗣

物価高が続いていますが……令和6年度の年金は増えるの? 減るの?
公的年金は、インフレに強いといわれています。その理由は、物価の変動率に応じて年金額が調整される仕組みになっているからです。物価高が続いている昨今ですが、令和6年度の年金は増えているのでしょうか?
 
今回は年金額改定の仕組みの解説を踏まえ、厚生労働省が発表した令和6年度の年金額について確認していきます。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

年金額改定の仕組み

個人が任意で加入する私的年金の年金額は、年金保険であれば一般的に契約時の予定利率で、投資型の個人年金であれば運用益に応じて決まるため、物価高によって年金額が変わることはありません。
 
公的年金は私的年金とは違い、原則として物価などと連動して年金額が調整される仕組みとなっています。賃金や物価が上がった場合は年金額が増えることになるので、モノやサービスなど物価の上昇が続くインフレ時に強いといわれることがあります。
 
その一方で、少子高齢化時代において制度を安定的に持続させるため、賃金や物価の伸びよりも給付を抑える仕組みとして「マクロ経済スライド」が導入されています。
 
●年金額改定
公的年金の年金額は、物価変動率や名目手取り賃金変動率に応じて、年度ごとに改定が行われることになっています。
 
この際、物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回る場合には、年金制度を支えている現役世代の負担能力に応じた年金給付とするために、名目手取り賃金変動率を用いて年金額を改定することが法律で定められています(※1)。
 
●マクロ経済スライド
持続可能な公的年金制度の構築と、制度に対する信頼性の確保を目的として、平成16年(2004年)に大幅な制度改正が行われました(※2)。この改正の大きな柱として採用されたのが、マクロ経済スライドの導入です。
 
マクロ経済スライドは、年金制度を支える力と給付のバランスを取る仕組みで、賃金や物価による改定率から「スライド調整率」(公的年金制度の被保険者数の減少率と平均余命の延びに応じて算定)を差し引くことにより、年金の給付水準が調整されます(※3)。
 
賃金・物価の上昇率が大きい場合でのマクロ経済スライドによる調整、年金額の改定は図表1のようになります。
 
図表1


 

令和6年度の年金額はどうなった?

それでは、厚生労働省が令和6年1月19日に発表した「令和6年度の年金額改定」について確認していきます(※4)。
 
令和5年の消費者物価指数(生鮮食品を含む総合指数)の変動率(物価変動率)はプラス3.2%で、名目手取り賃金変動率のプラス3.1%(*1)を上回りました。
 
そのため、年金額改定では名目手取り賃金変動率を用い、令和6年度のマクロ経済スライドによるスライド調整率のマイナス0.4%(*2)を反映して、前年度から2.7%の引き上げとなっています。
 
図表2

    

名目手取り賃金変動率(*1)
実質賃金変動率 -0.1% 令和2~4年度の平均
物価変動率 +3.2% 令和5年の値
可処分所得割合変化率 ±0.0% 令和3年度の値
名目手取り賃金変動率 +3.1%

 
図表3

    

マクロ経済スライド調整率(*2)
公的年金被保険者総数の変動率 -0.1% 令和2~4年度の平均
平均余命の伸び率 -0.3% 定率
マクロ経済スライド調整率 -0.4%

(※4)を基に筆者作成
 
令和6年度の国民年金(老齢基礎年金)の年金額(満額)は、令和5年度の年金額に対して図表4のとおりです。67歳以下の新規裁定者で1750円増の月額6万8000円、68歳以上の既裁定者(昭和31年4月1日生まれ以降の方)は1758円増の月額6万7808円となりました。
 
図表4

裁定者区分 令和5年度(月額) 令和6年度(月額) 増減額
国民年金 新規裁定者 6万6250円 6万8000円 +1750円
既裁定者 6万6050円 6万7808円 +1758円

(※4)(※5)を基に筆者作成
 
また、厚生年金の改定は図表5のとおりとなっています。平均的な収入(賞与を含む月額換算の平均標準報酬43 万9000円)で40 年間就業した会社員の夫と専業主婦の夫婦が受け取る例では、老齢厚生年金と2人分の満額の国民年金(老齢基礎年金)を合計した給付水準は月額23万483円となり、前年度と比べて月額で6001円の増額です。
 
図表5

令和5年度(月額) 令和6年度(月額) 増減額
厚生年金 22万4482円 23万483円 +6001円

(※4)(※5)を基に筆者作成
 

まとめ

令和6年度の年金額改定では、新規裁定者が受け取る国民年金(老齢基礎年金)の満額は月額で1750円の増加となっています。厚生年金では、平均的な会社員と専業主婦の夫婦2人が受け取る老齢年金の給付水準は月額6001円の増額と、いずれも改定により年金額は増えましたが、物価の上昇率から考えると実質的には減額ともいえます。
 

出典

(※1)日本年金機構 物価スライド
(※2)厚生労働省 平成16年 年金制度改正のポイント
(※3)日本年金機構 マクロ経済スライド
(※4)厚生労働省 令和6年度の年金額改定についてお知らせします
(※5)厚生労働省 令和5年度の年金額改定についてお知らせします
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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