更新日: 2024.02.15 国民年金

年金を70歳から「月15万円→月21.3万円」で受け取っても生活は楽じゃない!? 繰下げ受給の「落とし穴」について解説

年金を70歳から「月15万円→月21.3万円」で受け取っても生活は楽じゃない!? 繰下げ受給の「落とし穴」について解説
老後の生活において老齢年金は重要な収入源です。老齢年金の受給額を増やす方法として「繰下げ受給」があります。仮に、老齢年金の受給開始を65歳ではなく、70歳まで繰り下げるとすると受給額が42%増額されます。そのため、70歳頃までは働いて年金を繰下げ受給し、老後の資金を多く確保しようと検討する人も多いのではないでしょうか。ただ、繰下げ受給には見落としがちな「落とし穴」もあるため注意が必要です。
 
本記事では、70歳までの老齢年金の繰下げ受給を検討するときに見落としがちな、社会保険料や税金による手取りの変化を検証します。

年金を70歳まで繰り下げると受給額が42%増えるが負担も増える

老齢基礎年金と老齢厚生年金は受給開始時期を1ヶ月単位で繰り下げることができ、1ヶ月繰り下げるごとに受給額が0.7%ずつ増額します。繰下げは原則75歳まですることができ、増額率は最大84%になります。65歳から70歳までの60ヶ月間繰り下げた場合だと42%増額する計算です。
 
例えば、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて月15万円を受給予定だった人が、仮に70歳まで繰り下げした場合、受給額は月21.3万円となります。
 
しかし、受給額が上がると社会保険料や税金の負担が大きくなり、思ったほど手取りが増えない可能性があるため注意が必要です。70歳の時点で支払うべき社会保険料と税金は、次のとおりです。

・国民健康保険の保険料
 
・介護保険料
 
・所得税
 
・住民税

これらの保険料や税金は各市町村によって金額や税率が異なり、基本的には年金から天引きとなります。
 

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65歳受給開始と70歳受給開始で手取りを比較

ここでは、65歳から老齢年金を受給開始した場合と、70歳まで5年間受給を繰り下げた場合の、税負担と手取り額について計算してみます。

<計算の条件>

・東京都武蔵野市に在住
 
・70歳、1人暮らしで他に扶養親族なし
 
・65歳から受給の場合、老齢年金は年間180万円(月15万円)
 
・収入は老齢年金のみで、基礎控除と年金控除以外の控除はなし

年間180万円の老齢年金を65歳から受給開始したときの手取り

繰り下げずに65歳から老齢年金を年間180万円受給した場合でも、年金受給額が年間158万円(基礎控除と公的年金等控除を合わせた額)を超えているため所得税が課税されます。それでは、2024年度の武蔵野市の例で見ていきましょう。年間で支払う保険料や税金は次のようになります。

・国民健康保険の保険料:4万1500円
 
・介護保険料:2万1000円
 
・所得税:8040円(復興特別所得税を含む)
 
・住民税:非課税

保険料と税金を合わせた7万540円が老齢年金から天引きとなるため、年間の手取り額は172万9460円となります。月にすると約14万4121円となり、月6000円程度差し引かれて振り込まれます。
 

70歳まで繰り下げたときの手取り

次に70歳まで受給を繰り下げた場合を見ていきましょう。年間180万円の老齢年金は42%増額され年間255万6000円になります。先ほどと同じく2024年の武蔵野市の例で計算すると、年間で支払う保険料と税金は次のとおりです。

・国民健康保険の保険料:11万9900円
 
・介護保険料:8万8400円
 
・所得税:3万9191円
 
・住民税:8万2520円

保険料と税金の合計は33万0011円となりました。255万6000円から差し引くと、実際に受け取れる金額は222万5989円となり、月にすると老齢年金の受給額は約18万5499円です。年間受給額から考えて当初20万円以上受け取れるようにも見えますが、実際の手取りは18万円程度となり想定したよりも少ないと感じるかもしれません。
 

二者の手取りの差は月4万円

年間180万円の老齢年金を65歳から受給した場合と、70歳まで繰り下げた場合の比較を図表1で確認してみましょう。
 
図表1

図表1

武蔵野市のHPより計算し筆者作成
 
年間180万円の老齢年金を65歳から受給した場合は、手取りの金額は約172万円となります。一方、70歳まで受給を繰り下げた場合、年間255万6000円の老齢年金は手取りが約222万円となります。
 
もともとは年間で約75万円の差がありましたが、手取りでは約50万円の差です。月ごとでは6万3000円増額の見込みでしたが、手取りにすると約4万円の増額となります。
 
このほか、年齢や所得によって負担割合が変わる医療費負担については、70歳以上75歳未満では双方2割負担と同じです。ただし、75歳以上の後期高齢者になると、65歳から受給した場合の受給額だと1割負担であるのに対し、70歳まで繰り下げた場合の受給額では2割負担となる可能性があります。
 
また、加齢とともに通院の頻度が増えたり、入院の必要が出たときには高額療養費の限度額に差が出ることが考えられます。65歳から受給した場合の受給額では外来の自己負担限度額が8000円、外来と入院を合わせた自己負担限度額が2万4600円です。一方、70歳まで繰り下げた場合の受給額では外来での自己負担限度額が1万8000円、外来と入院を合わせた自己負担限度額が5万7600円となるため、支出に2倍以上の差が出そうです。
 
なお、現時点では介護が必要になったときの、介護保険の自己負担割合はいずれも1割です。
 

まとめ

年金の繰下げ受給により受給額を増やすことができますが、年金額が増えるからと安易に繰り下げを選ぶと、せっかく数年我慢したにもかかわらず税負担や医療費負担が増え、手取りが思ったより増えない可能性があります。
 
繰下げ受給を検討する際は、ねんきん定期便などで将来の受給額を確認しながら、見落としがちな社会保険料や税金についても考えてみましょう。
 

出典

日本年金機構 年金の繰下げ受給
武蔵野市
国税庁 No.2260 所得税の税率
 
執筆者:古澤綾
FP2級

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