夫が亡くなり、52歳で「遺族年金」を受け取っています。今後「5年で打ち切り」になると、途中から“支給なし”になるのでしょうか…?

配信日: 2024.08.28

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夫が亡くなり、52歳で「遺族年金」を受け取っています。今後「5年で打ち切り」になると、途中から“支給なし”になるのでしょうか…?
会社員や会社員だった人などが亡くなると遺族が受け取れる「遺族厚生年金」制度。その制度の見直しが進んでいます。2024年末までに改正法案がまとめられる見込みですが、「現在受給中の人も途中で打ち切りになるのか」「経過措置はあるのか」などを心配する人もいるようです。
 
本記事では、2024年7月末時点の公開情報を基に、改正案の要点を解説します。
福嶋淳裕

執筆者:福嶋淳裕(ふくしま あつひろ)

日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)

リタイアメントプランニング、老後資金形成を得意分野として活動中の独立系FPです。東証一部上場企業にて、企業年金基金、ライフプランセミナー、DC継続教育の実務経験もあります。

https://www.fp-fukushima.com/

遺族厚生年金の概要

はじめに遺族厚生年金の概要を紹介します。
 

支給要件

遺族厚生年金は、亡くなった人が次のいずれかに該当すると支給されます。
 

・厚生年金保険加入中に死亡
・厚生年金保険加入中に初診日のある病気またはけがが原因で初診日から5年以内に死亡
・障害厚生年金(1級または2級)の受給者が死亡
・老齢厚生年金の受給者または受給開始を待っている人が死亡(加入期間などが25年以上あること)

 

年金額

遺族厚生年金の額は「亡くなった人の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3」です(受け取る人自身の老齢厚生年金との調整や、加入期間25年未満で亡くなった場合の計算方法などは割愛します)。
 

支給対象者

亡くなった人に「生計を維持されていた」遺族のうち次の優先順位で支給されます。
 

・子のある配偶者、子(この第1順位のみ、遺族基礎年金も支給されます)
・子のない配偶者
・父母
・孫
・祖父母

 
注意点は次のとおりです。
 

・「子」は「18歳になった年度の3月31日までの未婚の子」「20歳未満で障害等級1級または2級の状態の未婚の子」に限られる
・「配偶者」のうち「夫の死亡時に30歳未満の子のない妻」は5年間の有期給付
・「配偶者」のうち夫は「妻の死亡当時55歳以上の夫」に限られ、支給開始は原則60歳から
・「父母、祖父母」は「死亡当時55歳以上の父母、祖父母」に限られ、支給開始は60歳から

 

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受け取る配偶者の「男女差」と「年齢差」

現行制度が始まった1980年代(昭和の末期)は、夫婦世帯の半数以上が専業主婦世帯であり、夫と死別した妻が働いて生計を立て直すことは難しい時代でした。
 
その後、社会の変化とともに、遺族厚生年金を受け取る人が配偶者の場合の「男女差」と「年齢差」が問題視されるようになってきました。男女差と年齢差は次のように整理できます。
 

・夫の死亡時点で妻が30歳以上の場合、妻は(再婚などをしない限り)終身で受け取れる
・妻の死亡時点で夫が55歳以上の場合、夫は原則60歳から(再婚などをしない限り)終身で受け取れる
・妻の死亡時点で夫が55歳未満の場合、夫は一切受け取れない(子がいる場合、子が受け取る)

 
30歳未満の妻はさらに複雑です。
 

・夫の死亡時点で妻が30歳未満で子がいない場合、妻は(再婚などをしない限り)5年間だけ受け取れる
・夫の死亡時点で妻が30歳未満で子がいる場合、妻は(再婚などをしない限り)受け取りを開始する。30歳到達前に要件を満たす子がいなくなった場合は、子がいなくなったときから5年間で給付が終わる

 

改正案の概要

改正案の概要は、女性の就業の進展や共働き世帯の増加など社会の変化への対応、制度上の男女差解消の観点で、主に「60歳未満で死別した、子のない配偶者」に対する遺族厚生年金を見直すものです。
 

・「60歳未満で死別した、子のない配偶者」について、妻の5年給付対象年齢を「30歳未満」から「60歳未満」に段階的に引き上げ、新たに「60歳未満の夫」を5年給付の対象とする(60歳未満男女一律5年給付化)
 
・「60歳未満で死別した、子のある配偶者」「60歳以上の配偶者」「施行日前に受給権が発生している人」については現行制度を維持し、見直さない

 
これら以外にも、男女差の解消や、親の事情で遺族基礎年金を受け取れない子の救済案も検討されています。
 

・遺族厚生年金の「中高齢寡婦加算」と国民年金の「寡婦年金」を段階的に廃止する
・国民年金の「死亡一時金」の額を葬祭費用の変化に合わせて見直す
・子に対する遺族基礎年金の支給停止規定を見直す(離婚した元配偶者に子が引き取られた場合や、遺族基礎年金を受け取っていた配偶者が再婚した場合などに、遺族基礎年金が支給停止されないよう見直す)

 

検討中の配慮措置

次の配慮措置も検討されています。
 

・「死亡時分割」の創設(離婚時分割を参考に婚姻期間中の標準報酬などを分割)
・生計維持要件のうち収入要件(年収850万円)の廃止
・「有期給付加算」の創設

 

案どおりに法改正された場合のプラス面、マイナス面

2024年7月末現在の案どおりに法改正された場合のプラス面、マイナス面は次のとおりです。
 

・「夫」は「55歳以上の夫」しか遺族厚生年金を受け取れなかったが、施行日からは、「60歳未満の夫」が5年間受け取れるようになる。55歳以上の夫への終身給付はなくなるものの、「夫」全体としては受け取れる人が増え、保障が手厚くなる
 
・「30歳未満で子のない妻」への5年給付の年齢基準は、施行日に「40歳未満」に引き上げられ、その後20年かけて段階的に「60歳未満」まで引き上げられる(20年後に男女差が解消される)。

 
つまり、現行制度では終身で受け取れる「30歳以上の妻」は、世代ごとに5年給付の適用が進むことになる。この「60歳未満男女一律5年給付化」に関しては、現在おおむね40歳未満の女性が法改正の影響を受け、「妻」全体としては受け取れる総額が減り、保障が薄くなる。
 
男女とも、結果としてプラスの影響を受ける人とマイナスの影響を受ける人の両方が出てきますが、夫婦全体における「男女差」「年齢差」問題は解消します。給付する側(国)から見た場合も、年金給付が増えるマイナス面と減るプラス面の両面があり、年金財政の全体に与える影響はプラスともマイナスとも評価しにくいようです。
 

まとめ

すでに遺族厚生年金を受け取っている人や現在60歳以上の夫婦、将来の死別時点で60歳以上の夫婦には現行制度が維持されます。現在おおむね40歳未満の女性は法改正の影響を受ける可能性があります。もっとも、遺族厚生年金制度を気にしながら結婚や妊娠、出産を予定する人は多くはないのではないでしょうか。
 
2024年末の年金改正法案には遺族年金以外の改正も含まれる見込みです。改正法案は来年の通常国会に提出され、審議される見込みです。改正内容を含め今後の成り行きを見守りながら、国や会社の制度変更を正しく理解して活用できるものは活用し、自助努力として資産形成にも取り組み、将来の暮らしに備えていきましょう。
 

出典

日本年金機構 遺族年金ガイド 令和6年度版
厚生労働省 遺族年金制度等の見直しについて
 
執筆者:福嶋淳裕
日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)

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