将来「遺族年金」が5年で打ち切りになるって本当ですか? 受給額は“無期給付”の現在と比べ、どれだけの差になるのでしょうか? これまで専業主婦だったので心配です…
配信日: 2024.09.04
本記事では話題になっている遺族年金の改正案がどのような内容なのかを簡単に解説します。
執筆者:御手洗康之(みたらい やすゆき)
CFP、行政書士
主な対象は20代から50代で子のない場合の遺族厚生年金
「遺族年金」は、大きく分けると遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります。
今回の遺族年金制度の主な変更対象と議論されているのは遺族厚生年金で、その中でも30歳~60歳の子のない配偶者が主な対象となります。そのため、子のある配偶者や、すでに遺族厚生年金を受給している高齢期の配偶者は、現行通りで給付内容は変わりません。
現在の遺族厚生年金制度では、30歳を超えた妻で子どもがいない場合、再婚などの失権事由に該当しなければ、夫の厚生年金の報酬比例部分の4分の3を無期限で受け取ることができます。ちなみに、夫死亡時に妻が30歳未満の場合は、現在の制度でも5年間の有期給付となっています。
今回の見直し案では、30歳から60歳までの場合でも5年間の有期給付に変更するという内容であったため「5年で打ち切り」という情報が出ているわけです(図表1)。
図表1
厚生労働省 遺族年金制度等の見直しについて
また、これに加えて中高齢寡婦年金の段階的廃止も議論されています。中高齢寡婦年金は遺族厚生年金の受給権を持つ妻が40歳から65歳に達するまでの間に遺族厚生年金に追加で加算される年金で、2024年度は年間61万2000円が支給されます。こちらも段階的に受給権が発生する年齢を引き上げて、最終的には廃止が検討されています。
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老齢厚生年金が変わる理由
そもそも、今回の遺族厚生年金見直しがなぜ議論されているかというと、現在の仕組みが時代に即していない点が挙げられます。
現在の遺族厚生年金は男女で扱いが異なります。これは、主たる生活維持者が夫(男性)であり、夫と死別した場合、妻が生活することが困難であるという前提で考えられているからです。
しかし近年は女性の社会進出が進み、特に若年層では就業率や賃金格差がほとんどなくなっています。令和5年の賃金格差を見ても、40歳未満は概ね80%以内であり、平成14年との比較では大きく改善されているため、賃金縮小の傾向は続くと考えられます。
世界に目を向けると、遺族給付の男女差解消は欧米各国では1980年代ごろから進んでおり、日本の今回の取り組みはかなり遅れていると言えるかもしれません。
図表2
厚生労働省 遺族年金制度等の見直しについて
5年の有期給付になったらどれだけ受給額が変わる?
遺族厚生年金の給付が5年間の有期給付に変わった場合、専業主婦であった場合には受給金額にかなりの差が出ることは確かです。仮に30歳で夫を亡くしたときの厚生年金受給見込み額が16万円で、妻が平均的な寿命まで生きたとした場合、数千万円の違いが出る可能性があります。
【妻30歳(子なし)で夫が死亡した場合】
厚生年金額の3/4:16万円×3/4=12万円
12万円×12ヶ月=144万円
(1)5年間の有期給付
144万円×5年=720万円
(2)無期給付(現制度)
・女性の平均余命である87歳まで57年間受給と仮定
遺族厚生年金:144万円×57年=8208万円
中高齢寡婦加算:61万2000円×25年=1530万円
合計:8208万円+1530万円=9738万円
※夫の厚生年金計算方法の詳細は複雑なので割愛し、仮の金額で計算しています。経過的寡婦加算なども考慮していません。また、妻自身の厚生年金受給額などによって金額が変わることがあります。
今後の議論を正しく見守ることが重要
冒頭で述べたとおり、まだ議論の段階であり、正式に決定していることはありません。また、これらの変更は、時間をかけて段階的に進められるようなので、現時点では大きな心配をすることはないかもしれません。
遺族年金制度が変わる理由でもお伝えした通り、今回の見直し案は時代に即した内容に対応するための変更です。本記事では取り上げませんでしたが、収入要件が廃止されたり、残されるのが夫側の場合を想定し支給対象が拡大するなど、すべてが「改悪」とは言い切れません。
男女の賃金格差や、育児のための離職率、その後の再就職など懸念点はありますが、このトピックが気になる人は、今後の議論の内容や方向性を注視していくのが良いかもしれません。
出典
厚生労働省 遺族年金制度等の見直しについて
執筆者:御手洗康之
CFP、行政書士