更新日: 2024.10.12 その他年金
物価がずっと上がっているのに、年金はずっと「定額」なのでしょうか? 祖母が「このままじゃ暮らしていけない」とぼやいています。
しかし、その増加額は負担増に見合うものなのでしょうか? 本記事では、老齢給付の給付額を左右する「マクロ経済スライド」について解説していきます。
執筆者:菊原浩司(きくはらこうじ)
FPオフィス Conserve&Investment代表
2級ファイナンシャルプランニング技能士、管理業務主任者、第一種証券外務員、ビジネス法務リーダー、ビジネス会計検定2級
製造業の品質・コスト・納期管理業務を経験し、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のPDCAサイクルを重視したコンサルタント業務を行っています。
特に人生で最も高額な買い物である不動産と各種保険は人生の資金計画に大きな影響を与えます。
資金計画やリスク管理の乱れは最終的に老後貧困・老後破たんとして表れます。
独立系ファイナンシャルプランナーとして顧客利益を最優先し、資金計画改善のお手伝いをしていきます。
老齢年金の仕組みは?
老齢年金には「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」があり、その給付金は主に現役世代が納めた保険料によって賄われています。現役世代と高齢者の人数、現役世代の賃金と物価水準によって給付額が変化するため、賃金と物価水準が下落した場合は、その下落分、給付額も引き下げられます。
一方で賃金・物価水準が上がると給付額も引き上げられます。直近で見ると、老齢基礎年金の給付額について、2023年度は月額6万6250円でしたが、2024年度は月額6万8000円と約2.7%増額されています。
一見、物価高は年金生活に影響はないように思われます。しかし、物価上昇率を見ると2023年度は2.8%増加しているため、実質的に使える金額は減少しており、年金生活者の家計にはマイナスの影響を及ぼしています。
年金水準が実際の物価高に追従していないのは、2004年から始まった「マクロ経済スライド」が関係しています。
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老齢給付を左右するマクロ経済スライドとは?
私たちの年金給付額に影響を与えるマクロ経済スライドとはどのようなものなのでしょうか。
基本的に年金の給付金は、現役世代の納めた保険料が主な原資になっています。例えば、厚生年金保険料は賃金水準に応じた負担割合となっています。そのため、現役世代が多く平均賃金が高いほど年金財源は潤沢となり、年金受給者の現役時の所得の多くを年金で賄うことが可能になります。
しかし、現在の日本では、賃金上昇が長期間にわたって停滞した「失われた30年」の影響や現役世代が減り年金受給者が増える「少子高齢化社会」によって、年金の世代間格差が問題となっています。
このままの給付水準を維持した場合、将来の現役世代の負担が多大なものとなってしまいます。そこで賃金や物価が上昇した際、給付額の増額を抑えて緩やかに年金の給付水準を下げていくのが、マクロ経済スライドの仕組みです。
マクロ経済スライドは賃金・物価上昇が一定値を超えた場合にのみ発動し、賃金・物価の上昇が少ないときや下落した場合は行われません。
年金は今後どうなっていくのか? その対策は?
老齢年金の給付水準は、賃金・物価上昇局面ではマクロ経済スライドにより実質的には負担増加となってしまいます。老齢年金の給付は老後生活の重要な収入源でありますが、その給付水準は一定ではありません。
今後の年金の給付水準は、経済成長や少子高齢化の影響などさまざまな要因をもとに複合的に判断されています。公的年金の将来的な給付水準の見通しは「財政検証」で行われています。財政検証は4年ごとに発表されています。
2024年版の財政検証では、夫婦の年金が夫の現役時の所得のどの程度を代替できるかを示す「所得代替率」が現在の61.2%から、高成長が実現できた見通しでも56.9%に低下すると予想されています。
現在すでに年金生活を送っている方はマクロ経済スライドによる給付額の実質的な減少に、現役世代も所得代替率の低下に、それぞれ備えていく必要があります。
その対策としては、まず自助となります。家計の見直しを行って節約できる支出は削減を進めつつ、貯金を行ったり、iDeCoやNISAなどを活用したりして資産運用を併用するという方法があります。老後生活を安心して迎えるために公的年金の動向を把握しつつ自助を進めていくことをおすすめします。
出典
日本年金機構 令和6年4月分からの年金額等について
厚生労働省 第16回社会保障審議会年金部会 資料1 令和6(2024)年財政検証結果の概要
執筆者:菊原浩司
FPオフィス Conserve&Investment代表