70歳の父がパートを始めたいと言っています。「年金受給中は働くと損をする」と聞きますが、本当に減額されるのでしょうか?
本記事では受給中の働き方と年金の減額制度の仕組みを解説し、70歳で働く際の注意点や工夫を示します。
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年金を受給しながら働くことは可能か?
年金を受給しながら働くことは可能です。日本年金機構でも「働きながら年金を受け取ることは可能」と明確に示されています。ただし、給与所得があり、勤務先で厚生年金の被保険者となっている場合は、「在職老齢年金制度」によって、年金の一部または全部が支給停止(減額)されることがあります。
この制度は、高齢者が一定の報酬を得る場合を想定しており、給与(賃金および賞与)と年金の合計額が令和7年度では月額51万円を超えた場合に、超えた分の年金の半額が支給停止となる調整が行われます。なお、老齢基礎年金は支給停止の対象外です。
在職老齢年金制度とは?
在職老齢年金制度(働きながら年金を受け取る人を対象とした年金支給調整の仕組み)には、以下のルールがあります。
1.対象となる年金と対象外の年金
減額の対象となるのは「老齢厚生年金(報酬比例部分)」であり、「老齢基礎年金」は支給停止の対象外です。加えて、加給年金や経過的加算部分も支給停止の対象外となっています。
2.基準額(支給停止調整額)を超えたら調整が始まる
2025年度は、給与(標準報酬月額+ボーナス等を12で割った額=総報酬月額相当額)と老齢厚生年金の基本月額の合計が51万円を超えると、その超過分の半分が年金から支給停止(減額)されます。計算式は次のとおりです。
支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-51万円)×1/2
3.調整後の年金額は基本月額から減額された額
支給停止額を差し引いた額が実際の厚生年金部分の支給額となります。老齢基礎年金、加給年金、経過的加算は調整対象外です。
4.具体例
基本月額10万円、総報酬月額40万円の場合は合計50万円で51万円未満のため減額なし。基本月額14万円、総報酬月額40万円の場合は合計54万円で3万円超過。超過分3万円の半分の1万5000円が支給停止され、厚生年金部分は12万5000円となります。
5.制度見直しの予定
2026年4月施行予定の法改正により、支給停止基準額が62万円に引き上げられ、給与と年金の合計が62万円未満なら減額されないケースが増加する見込みです。
70歳の場合、減額対象になるのか?現在の適用条件
70歳以上の方が働く場合、原則として厚生年金の被保険者とはなりません。しかし、70歳以上であっても「70歳以上被用者」として厚生年金適用事業所に勤務する場合、保険料は徴収されませんが、在職老齢年金制度による年金支給の調整(減額)が適用される可能性があります。
具体的には、70歳以上でも老齢厚生年金の月額と総報酬月額相当額の合計が、2025年度は51万円を超えると、その超過分の半分が年金から支給停止(減額)されます。2026年4月からはこの基準額が62万円に改正される予定で、より緩和されます。
なお、厚生年金保険の加入は70歳未満が原則ですが、70歳以上の継続雇用や役員報酬、一定の条件を満たした場合には被保険者扱いとなり得るため、勤務先の厚生年金の取り扱いを確認することが重要です。
まとめると、70歳でパートを始める場合でも、勤務形態や報酬水準により、老齢厚生年金の一部が支給停止となることがあります。ただし一律で必ず減額されるわけではなく、勤務先の厚生年金適用状況や給与額が関係します。
働き方を工夫して年金の減額を抑える方法
70歳で働き始める際、働き方によっては厚生年金の一部が減額されることがあります。しかし、事前に工夫をすれば年金減額を抑えたり回避したりすることが可能です。以下のポイントを押さえましょう。
・支給停止基準額を超えないよう報酬を調整する
2025年度の支給停止基準額は51万円で、2026年からは62万円に引き上げられる予定です。年金と給与の合計がこの基準を超えると減額が生じます。
・勤務時間や給与形態を調整し、賞与の支給を避ける
パートやアルバイトで報酬を月ごとに安定させることで、年金減額のリスクを抑えやすくなります。
・厚生年金に加入しない働き方を選ぶ
自営業や業務委託契約、契約社員など、厚生年金被保険者とならない働き方を選べば、在職老齢年金の支給停止対象外となる可能性があります。
・制度改正を見据え勤務条件を調整する
2026年の法改正で支給停止基準額が引き上げられるため、それに合わせて勤務条件の見直しを検討しましょう。
・年金機構や社労士に相談しシミュレーションを受ける
実際の勤務条件をもとに日本年金機構や社会保険労務士に相談すれば、年金減額リスクを正確に把握でき安心です。
まとめ
「年金受給中に働くと年金が減らされる」という話は完全に誤りではありませんが、必ずしも起こるわけではなく、制度の仕組みと報酬水準・加入形態が影響します(在職老齢年金制度)。
70歳でパートを始めようとする場合、勤務先が厚生年金加入事業所かどうか、報酬の見込み額、制度改正後のラインなどを含めて慎重に設計すれば、年金の減額を抑えながら働くことも可能です。
出典
日本年金機構 60歳以降も引き続き勤めます。勤めていても年金は受けられますか。
日本年金機構 在職老齢年金の支給停止の仕組み
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
