年金受給を68歳まで繰下げた場合、総受給額や月々の受給額は具体的にどれくらい増えますか?

配信日: 2025.10.21
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年金受給を68歳まで繰下げた場合、総受給額や月々の受給額は具体的にどれくらい増えますか?
老齢年金は原則65歳から受給しますが、希望すれば66歳以降75歳まで繰下げることができます。老齢年金を繰下げ受給した場合、繰下げた期間に応じて増額された年金を生涯受け取ることができます。
 
今回は老齢年金の繰下げ受給について、事例を交えて解説します。
辻章嗣

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

老齢年金の繰下げ受給制度

老齢年金は、65歳の時点で受給を開始することなく、66~75歳(注1)の間で繰下げて受給することができます。繰下げて受給する年金は、その期間に応じて増額され、増額された年金額が生涯支給されます。なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げることができます(※1)。
 
注1:昭和27年4月1日以前生まれの方は、繰下げの上限年齢が70歳までとなります。
 

1. 繰下げによる増額率

繰下げ受給した年金額は、老齢基礎年金額(振替加算額を除く)および老齢厚生年金額(加給年金額を除く)に以下の増額率を乗じた額となります。
 
増額率=0.7%×65歳に達した月(注2)から繰下げ申出月の前月までの月数
注2:65歳に達した日とは65歳の誕生日の前日
 
繰下げ受給を開始する年齢に応じた増額率は、図表1のとおりです。
 
図表1

受給年齢 繰下げ月数 増額率 受給年齢 繰下げ月数 増額率
66歳 12月 8.4% 71歳 72月 50.4%
67歳 24月 16.8% 72歳 84月 58.8%
68歳 36月 25.2% 73歳 96月 67.2%
69歳 48月 33.6% 74歳 108月 75.6%
70歳 60月 42.0% 75歳 120月 84.0%

(※1を基に筆者作成)
 

2. 在職老齢年金制度により支給停止される額

65歳以降に厚生年金に加入していた方や、70歳以降に厚生年金の適用事業所に勤務していた方は、在職老齢年金制度により以下の式で計算された分、年金が一部または全部支給停止されます(※2)。
 
支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-51万円<令和7年度額>)÷2
 
繰下げ待機期間(年金を受け取っていない期間)中に在職老齢年金制度の適用を受ける場合、支給停止される額と支給される年金の割合(平均支給率)によって加算額が計算されます。
 
平均支給率=月単位での支給率の合計÷繰下げ待機期間
月単位での支給率=1-(在職支給停止額÷65歳時の老齢厚生年金額)

 
したがって、在職老齢年金制度によって繰下げ待機期間中に全額支給停止に相当する収入がある方は、繰下げ待機期間中の増額はありません。
 
なお、65歳以降70歳になるまでに働いて得た報酬に応じて老齢厚生年金額が以下のとおり増額されます。
 
加算額(年額)=平均標準報酬×5.481/1000×加入月数
 

3. 年金繰下げの注意点

老齢年金を繰下げる場合は、以下の点に注意してください。
 

(1)特別支給の老齢厚生年金は繰下げることができませんので、受給開始年齢に到達したら速やかに請求してください。
 
(2)加給年金額や振替加算額は増額の対象とはならず、繰下げ待機期間中は受給できません。
 
(3)75歳(注1)に達した月(75歳(注1)の誕生日の前日の属する月)を過ぎて請求を行っても増額率は増えず、75歳(注1)までさかのぼって支給されます。
 
(4)65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日までの間に、障害給付や遺族給付を受ける権利がある場合は、原則として繰下げの申し出ができません。
 
(5)66歳に達した日以降、老齢年金の受給を繰下げている間に、遺族給付などの受給権が発生した場合はその時点で増額率が確定します。老齢年金は、他の年金が発生した月の翌月分から支給されます。
 
(6)老齢年金を繰下げることによって受給する年金額が増えるため、医療保険や介護保険の自己負担や保険料、さらには税金にも影響を及ぼすことがあります。

 

68歳まで繰下げた場合の受給額

68歳まで繰下げた場合の増額率は25.2%となり、本来の年金額の125.2%が支給されます。
 

1. 68歳まで老齢基礎年金を繰下げた場合

老齢基礎年金を満額受給できる方が68歳まで繰下げた場合の年金額は、令和7年度額で下記のとおり104万1288円(月額8万6774円)となります。
 
83万1700円(令和7年度額)×125.2%≒104万1288円
 

2. 65歳で退職して68歳まで老齢厚生年金を繰下げた場合

65歳の時点で本来受給できる老齢厚生年金の年額が120万円であった方が、65歳で退職し、年金を68歳まで繰下げて受給できる額は150万2400円(月額12万5200円)となります。
 
120万円×125.2%=150万2400円
 

3. 68歳まで仕事をしながら老齢厚生年金を繰下げた場合

65歳の時点で本来受給できる老齢厚生年金の額が120万円であった方が、総報酬月額相当額61万円で65歳以降も働き続けたとします。
 
仮にこの収入水準で65歳から年金請求をしていた場合、在職老齢年金の仕組みにより下式のとおり年金は全額支給停止となります。
 
(10万円+61万円-51万円)÷2=10万円(支給停止額)
 
この方が年金を68歳まで年金を繰下げても、繰下げ加算の算定にあたっては、在職により支給停止したとみなされる額を差し引いた金額が基礎となります。なお、65歳から68歳まで働いて得た報酬に応じて年金は下式のとおり加算されます。
 
加算額(年額)=61万円×5.481/1000×36月≒12万363円
 

4. 老齢年金を繰下げた場合のまとめ

65歳の時点で満額の老齢基礎年金と120万円の老齢厚生年金を受給できる方を例に、65歳で退職して68歳まで老齢年金を繰下げた場合、65歳から68歳まで厚生年金の被保険者として総報酬月額相当額61万円で働いて退職し68歳から繰下げた老齢年金を受給した場合の年金額は図表2のとおりとなります。
 
図表2

年金区分 65歳で受給 68歳から受給 68歳から受給
(在職老齢適用)
老齢基礎年金 83万1700円 104万1288円 104万1288円
老齢厚生年金 120万円 150万2400円 132万363円
年金合計額
(年金月額)
203万1700円
(16万9308円)
254万3688円
(21万1974円)
236万1651円
(19万6804円)

(※1、2を基に筆者計算)
 

繰下げ受給額のポイント

老齢年金の繰下げ受給について、ケースごとのポイントを解説します。
 

1. 年下の配偶者がある場合

厚生年金の被保険者期間が20年以上ある方が、65歳到達時点で生計を維持している65歳未満の配偶者がいるときは、老齢厚生年金に41万5900円(令和7年度額)の加給年金額が加算されます(※3)。
したがって、年下の配偶者がある場合は、老齢厚生年金を繰下げずに受給し、老齢基礎年金のみ繰下げるとよいでしょう。
 

2. 企業年金やiDeCoを受給できる場合

75歳までに企業年金やiDeCoを受給できる場合、公的年金と同時に受給すると収入が増え、所得税が高くなります。可能な範囲で老齢年金の繰下げを検討するとよいでしょう。
 

3. 平均余命の長い女性に有利

65歳の日本人の平均余命は、男性が19.47年、女性が24.38年です(※4)。老齢年金は長生きリスクにも対応できる制度ですので、平均余命の長い女性ほど繰下げ受給の効果が期待できます。夫の年金で生活できる場合は、妻の老齢年金を繰下げることを考えるのも有効です。
 

まとめ

老齢年金を66歳以降75歳まで繰下げ受給すると、繰下げた期間に応じて増額された年金を生涯受給できます。老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げられるため、状況に応じて繰下げる方法を工夫することが可能です。
 
ただし、増額された年金を受給すると、医療保険や介護保険の自己負担、保険料、税金に影響する場合があるため注意しましょう。
 

出典

(※1)日本年金機構 年金の繰下げ受給
(※2)日本年金機構 在職老齢年金の計算方法
(※3)日本年金機構 加給年金と振替加算
(※4)厚生労働省 令和6年簡易生命表の概況
 
執筆者 : 辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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