友人が「年金を繰上げしたから生活に余裕ができた」と言うのですが、正直繰上げにはデメリットしかないと思っています。メリットもあるのですか?
資産運用の相談業務
資産運用の相談業務のなかで、貯金・生命保険・投資信託・変額年金保険・投資信託・NISAを取り扱い、職員指導も行なった実績を活かし、お客さまから金融商品に限らず、相続などさまざまな相談を受ける。
現在も日本FP協会のSGに参加し、研修を継続中。わかりやすく正確な最新情報の提供に努めている。
年金受給の基礎
日本の公的年金には、老齢基礎年金と老齢厚生年金があります。どちらも受給開始年齢は、65歳からです。生年月日により、65歳以前に特別支給の老齢厚生年金を受け取れる場合もあります。
年金を受け取るためには手続きが必要です。年金受給開始年齢(65歳)に達する3ヶ月前に、日本年金機構から年金請求書が送付されますので、確認して手続きしましょう。
年金の開始時期を、繰上げ・繰下げすることができます。繰上げ受給は、60歳から年金受給を開始する、年金を早めて受け取る方法です。繰下げ受給は、65歳1ヶ月から75歳まで受給開始を遅らせて、年金を受け取る方法です。
繰上げは、年金を早く受け取れる一方で、年金額が減額されます。繰下げは、本来の65歳より後で受け取るため、年金額が増額されます。
繰上げ受給の減額率は、1ヶ月0.4%(37年4月1日以前生まれの人は0.5%)で、減額の計算は月単位です。
減額率=0.4%(昭和37年4月1日以前の方は0.5%)×65歳前月までの月数
・60歳からは24.0%減額された76%の年金を受け取ります。
・62歳からは14.4%減額された85.6%年金を受け取ります。
・64歳からは4.8%減額された95.2%年金を受け取ります。
このように、減額した年金を受け取ることになります。65歳の受け取りと比べて60歳からの繰上げ受給は、81歳になるときには受給額が下回ります。繰下げ受給の増額率は1ヶ月0.7%で、増額の計算も月単位です。
増額率=0.7%×65歳に達した月から繰下げ月の前月までの月数
・66歳からは8.4%増額された108.4%の年金を受け取ります。
・70歳からは42.0%増額された142%の年金を受け取ります。
・75歳からは84.0%増額された184%の年金を受け取ります。
このように、増額した年金を受け取ることになります。70歳までの繰下げ受給と65歳での受給とを比較すると、82歳になるときは受給額を上回ります。
繰上げ・繰下げは、それぞれにメリット・デメリットがあります。何歳まで受け取れるかを自分で決めることはできませんので、金額のみで決めることはできないと思われます。
繰上げ受給の注意点
(1) 年金は一生涯減額されたまま
年金額は、生涯ずっと減額されたままになります。1ヶ月早めるごとに0.4%減額となりますので、最大60歳まで繰上げて受け取ると24%減額となります。65歳で月10万円の年金の場合、60歳から受け取ると月7万6000円の年金が一生涯続くことになります。
(2) 一度繰上げ請求すると取り消しできない
繰上げ請求をすると、後から取り消しはできません。「65歳からに戻したい」と希望があっても、その後の変更はできない仕組みです。
(3) 長生きした場合、総額が少なくなる
早く受け取るため、1回ごとの年金額が減額されます。81歳以上受け取ると、65歳からのほうが有利になります。
(4) 障害年金が受け取れなくなる可能性がある
65歳までの間に病気や事故で障害状態になっても、障害基礎年金・障害厚生年金が受け取れなくなります。
(5) 加給年金の対象の場合、受け取れなくなる
このように、さまざまなデメリットがあります。
繰上げ受給のメリット
年金の繰上げ受給をし、受け取り時期を早くすると金額が減額となることを確認してきましたが、デメリットばかりでなくメリットもあります。
(1) 年金を早期に受け取れる
60歳で退職した場合、65歳まで待たずに年金を受け取れます。収入のない期間に年金を受け取ることができます。
(2) 健康に不安がある場合、早期に受け取ることができる
健康に不安があり、早く受け取っておきたい場合など、早期に受け取ることで不安がなくなります。
(3) 年金を生活費に充てられる
年金で生活できるため、今の貯金を取り崩さなくてよくなります。
(4) 所得税・住民税が減る可能性がある
年金は所得として扱われるため、年金額が多いと税金が増えます、年金が減額されることで、所得税・住民税が減る、またはかからない可能性があります。
(5) 社会保険料が下がる可能性がある
国民保険料・介護保険料は所得が多いと高くなり、少ないと下がる可能性があります。
(6) 各種給付や軽減制度を受けやすくなる
所得が低いと、住民税非課税世帯の給付金、医療費の自己負担を軽減する制度などが利用しやすくなります。
まとめ
年金を繰上げ受給し、早く受け取ることでメリットもあります。しかし、厚生労働省の「2024(令和6)年 国民生活基本調査」によると、高齢者の総所得に占める公的年金の割合が80%以上の世帯は60%に達し、年金は老後の主要な収入源です。年金を少しでも多く受け取りたいと思う方は多いのではないでしょうか。
年金制度は、長い老後を守るための制度です。年金制度を理解し、ご自身の老後の生活をどうするかよく考えて、受け取り方を考えましょう。
出典
厚生労働省 [年金制度の仕組みと考え方]第11 老齢年金の繰下げ受給と繰上げ受給
日本年金機構 老齢年金ガイド 令和7年度版
厚生労働省 2024(令和6)年 国民生活基本調査の概況 II 各種世帯の所得等の状況
執筆者 : 神津喜代子
資産運用の相談業務
