年金を「いつ死ぬか分からない」と“60歳”から「月15万→12万円」で受け取り後悔…80代で「減額は一生続く」恐ろしさを実感「目先の現金欲しさ」で安易な決断をしないためのポイント
「これだけ納めても、将来十分な年金を受け取れるのだろうか」「長生きできるとは限らないため、受け取れるうちに受給したい」。職場の休憩室で、そんな愚痴をこぼす同僚の姿を見たことがある人もいるかもしれません。
事実、原則65歳からの年金を60歳から前倒しで受け取る「繰上げ受給」を選ぶ人は一定数います。しかし、十分に検討せず繰上げ受給を選ぶと、医療費などの負担が増えやすい80代になってから、判断を悔やむ可能性があります。
今回は、60歳で月12万円の年金を受け取り始めたケースをもとに、繰上げ受給を選ぶ際に注意したい点を解説します。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP2級)、第一種/第二種電気工事士、医療情報技師、2級ボイラー技士、ボイラー整備士
「どうせいつ死ぬか分からないなら早く」60歳で受給を決めた60代のリアル
年金は本来65歳から受け取りますが、希望すれば60歳から受け取ることもできます。これを「繰上げ受給」と呼びます。しかし、早く受け取ることで、年金額は1ヶ月早めるごとに「0.4%」減額されます。
仮に65歳から受給できる年金が月15万7800円だったとします。これを5年(60ヶ月)前倒しして60歳から受け取る場合、減額率は「60ヶ月×0.4%=24%」となります。
本来なら月15万7800円もらえるはずだった年金は24%減額されて「月11万9928円」、つまり約12万円となります。
60歳以降も再雇用やアルバイトなどで働く場合、年金に就労収入を加えて生活費をまかなうことも考えられます。例えば、給与が月10万円、年金が月12万円であれば、月の収入は合計22万円です。
この時点では生活を維持できると判断する人もいるでしょう。しかし、就労収入がなくなる将来まで見据えると、繰上げ受給による減額の影響を慎重に考える必要があります。
医療費などの負担が増えやすい80代……月12万円の「厳しい現実」
80歳を迎えるころには、就労を続けることが難しくなり、年金が主な収入源となる場合があります。その場合も、繰上げ受給によって減額された年金額は変わらず、月12万円のままです。
実は、繰上げ受給による24%の減額は「一生涯」続きます。途中で「65歳から受け取る場合の本来の年金額に戻したい」と考えても、取り消すことは一切できません。
80代になると、医療や介護にかかる費用が増える場合があります。加えて、物価上昇によって食費や光熱費の負担も増える可能性があり、月12万円の年金だけで生活費を賄うことが難しくなることも考えられます。
また、「損益分岐点」にも注意が必要です。60歳から減額された年金を受け取り続けた場合と、65歳から本来の年金額を受け取り始めた場合では、総受給額が逆転するのは「80歳10ヶ月」の時点です。
したがって、81歳以降は、65歳から受給した場合の総受給額が上回ります。
繰上げ受給に潜む「3つの注意点」
繰上げ受給のリスクは、単なる受給額の減少だけではありません。制度上、ほかにも確認しておきたい注意点が存在します。
・障害基礎年金が受け取れなくなるリスク
人生は何が起きるかわかりません。60歳で繰上げ受給をした後、大きな病気や事故で重い障害が残る可能性もあります。
一定の要件を満たせば、このような場合に「障害基礎年金」を受け取れる可能性があります。しかし、繰上げ受給を請求したあとに初診日がある病気やけがについては、原則として障害基礎年金を請求できなくなります。
・寡婦年金などが受け取れなくなる
夫が自営業などで国民年金に加入していた場合、条件を満たせば遺された妻に「寡婦年金」が支給されます。
しかし、妻自身が繰上げ受給を選んでしまうと、この寡婦年金を受け取る権利が消滅してしまいます。繰上げ受給を検討する際は、寡婦年金への影響についても確認しておく必要があります。
・雇用保険の基本手当との調整がある
60歳以降も働き続け、退職後にハローワークで雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)を受け取ろうとする場合、特別支給の老齢厚生年金や繰上げ受給による老齢厚生年金は、原則として全額支給停止となります。一方、繰上げ受給による老齢基礎年金は支給停止の対象にはなりません。
まとめ
「受け取れるうちに受給したい」という考えだけで判断すると、長期的な生活設計に影響する可能性があります。老後の収入や支出を具体的に見通し、慎重に判断することが大切です。
出典
日本年金機構 年金の繰上げ受給
執筆者 : 西村和樹
2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP2級)、第一種/第二種電気工事士、医療情報技師、2級ボイラー技士、ボイラー整備士
