更新日: 2021.10.25 その他税金

年収800万円の手取り額はどうしてこんなに少なくなるの?

年収800万円の手取り額はどうしてこんなに少なくなるの?
年収800万円というと月平均で65万円以上の収入があるにもかかわらず、手取り収入はイメージよりだいぶ少ないと感じている方は多いと思います。会社員の給与からは、税金と社会保険料が引かれますので、額面の年収と手取りの年収ではかなり開きがあるのが実情です。
 
この記事では、給与から引かれている税金と社会保険料について解説します。なお、本記事では収入の種類は給与のみで副業はしていない会社員を例として扱います。
遠藤功二

執筆者:遠藤功二(えんどう こうじ)

1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)CFP(R) MBA(経営学修士)

三菱UFJモルガン・スタンレー証券とオーストラリア・ニュージーランド銀行の勤務経験を生かし、お金の教室「FP君」を運営。
「お金のルールは学校では学べない」ということを危惧し、家庭で学べる金融教育サービスを展開。お金が理由で不幸になる人をなくすことを目指している。

給与から引かれる税金

給与から引かれる税金には、所得税と住民税の2種類があります。それぞれの計算過程は以下のとおりです。
 

所得税計算の流れ

1. 額面年収-給与所得控除=給与所得金額
2. 給与所得金額-所得控除=課税総所得金額
3. 課税総所得金額×所得税率-控除額=所得税額
4. 所得税額-税額控除=申告納税額

 
給与所得控除は、給与所得者の必要経費として一律に定められており、下記表のとおりになっています。
 

出典:国税庁 「No.1410 給与所得控除」
 
所得控除には複数種類あります。前述した所得税の計算の流れからも分かるように、所得控除を利用するほど課税総所得金額が下がり、結果的に所得税が減少します。
 

<所得控除の種類>

基礎控除、雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除

 
課税総所得金額が算出できたら、下記表に基づき所得税の金額を計算します。
 

出典:国税庁 「No.2260 所得税の税率」
 
税額控除の利用ができる方は、所得税額の計算後に税額控除を行います。
 
会社員の方が利用できる代表的な税額控除には、居住用の住宅購入のための借入金がある方が一定金額を所得税から引くことができる「住宅ローン控除」が挙げられます。住宅ローン控除は所得税から引ききれなかった場合は、住民税からも一定金額を控除することができます。
 

住民税

住民税の計算は下記の順に行います。
 

1. 額面年収-給与所得控除=給与所得
2. 給与所得-所得控除=課税標準額
3. 課税標準額×税率-税額控除=所得割額
4. 所得割額+均等割額=年税額

 
所得税の計算と共通しているものがありますが、所得税と住民税は別の計算ルールに基づきますので、控除額に関しては所得税と異なる場合が多くなっています。
 
例えば、所得控除の1つである配偶者控除の金額は年収800万円(給与所得金額900万円以下)の場合、所得税では最高額が38万円ですが、住民税では33万円です。
 
一方、所得割の税率は、区市町村民税と都道府県民税の合計で10%程度、均等割は同じく合計で5000円程度となっている自治体が多くなっています。「均等割」の各自治体での税額は異なりますので確認をしておきましょう。
 

給与から引かれる社会保険料

給与から引かれる社会保険料は以下の3つです。
 

●厚生年金保険料
●健康保険料
●雇用保険料

 

厚生年金

厚生年金保険料は毎月の給与と賞与からそれぞれ引かれます。令和3年度の保険料率は18.3%となっており、労使折半で負担します(従業員は9.15%分を負担)。
 

●給与から引かれる厚生年金保険料:標準報酬月額×保険料率
●賞与から引かれる厚生年金保険料:標準賞与額×保険料率

 
標準報酬月額は、報酬月額ごとの等級によって定められています。
 
例えば報酬月額9万3000円未満の方は1等級に分類され、標準報酬月額は8万8000円となり、報酬月額63万5000円以上の方は32等級、標準報酬月額は65万円です。標準報酬月額は、原則毎年4月~6月の報酬月額を基に9月に改定されますが、標準報酬月額に2等級以上の変動があった場合は随時改定が行われます。
 
賞与については、年3回まで支給されるものが保険料納付の対象になります。支給1回につき150万円までが標準賞与額の上限となっており、例えば夏の賞与が200万円だった場合でも「150万円×保険料率」分の保険料しか引かれないということです。
 

給与から引かれる健康保険料

健康保険料の保険料率は健康保険組合、または都道府県ごとに異なります。計算式は以下のとおりです。
 

●給与から引かれる健康保険料:標準報酬月額×保険料率
●賞与から引かれる健康保険料:標準賞与額×保険料率

 
健康保険料の標準報酬月額は1等級(5万8000円)から50等級(139万円)までとなっており、標準賞与額の上限は年度の合計で573万円までです。また、40歳以上の方は健康保険料に加え、介護保険料も同時に給与から天引きされます。
 
例えば、全国健康保険協会(協会けんぽ)加入者で、東京都在住者の健康保険料率(令和3年度)は下記のとおりです。
 

●健康保険料のみ納付の方の保険料率:9.84%
●健康保険料と介護保険料納付の方の保険料率:11.64%

 

雇用保険

雇用保険料は、下記の式に当てはめて計算された金額が給与から引かれます。事業主負担分は労働者負担分より高くなっています。
 

●賃金から引かれる雇用保険料=賃金総額×雇用保険料率(0.3%)
●事業主が負担する雇用保険料=賃金総額×雇用保険料率(0.6%)

 

税と社会保険料を減らす方法

所得税と住民税を減らすために有効な手段は、所得控除と税額控除をできるだけ利用することです。各控除の内容とともに、自身が利用できるものがないかを確認しましょう。
 
一方で社会保険料は額面の年収にかかるため、減額の手だてがかなり限られています。例えば、勤務先が「選択制の確定拠出年金制度」を導入している場合、給与の一部を確定拠出年金の掛け金に変更した分、報酬月額が減るので社会保険料の納付金額を減らせるケースがあります(マッチング拠出とは異なります)。該当する企業にお勤めの方は検討してみるとよいでしょう。
 
出典
国税庁 No.1100 所得控除のあらまし
国税庁 No.1400 給与所得
東京税理士会 所得税の計算方法
国税庁 No.1410 給与所得控除
国税庁 No.2260 所得税の税率
国税庁 No.1200 税額控除
大田区 特別区民税・都民税(住民税)の計算のしくみ
横浜市 個人の市民税・県民税
全国健康保険協会 標準報酬月額・標準賞与額とは?
厚生労働省 労働保険料の申告・納付
厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク 令和3年度の雇用保険料率について
全国健康保険協会 令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
 
執筆者:遠藤功二
1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)CFP(R) MBA(経営学修士)

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