更新日: 2022.01.18 控除

住宅ローン控除の見直しはデメリットになる?

執筆者 : 吉野裕一

住宅ローン控除の見直しはデメリットになる?
住宅ローン控除について、最近の低金利や、住宅ローンの年末残高の1%を所得税から控除することに対して逆ザヤが指摘され、見直しが検討されていました。
 
令和4年度の税制改正で、住宅ローン控除の適用期限は令和7年末まで4年間延長されることになりましたが、控除率は年末残高の1%から0.7%に縮小され、住宅ローンの年末残高の限度額も一般の住宅の場合は4000万円から3000万円となっています。
 
増税にも思える今回の改正ですが、実態について考えてみたいと思います。
吉野裕一

執筆者:吉野裕一(よしの ゆういち)

夢実現プランナー

2級ファイナンシャルプランニング技能士/2級DCプランナー/住宅ローンアドバイザーなどの資格を保有し、相談される方が安心して過ごせるプランニングを行うための総括的な提案を行う
各種セミナーやコラムなど多数の実績があり、定評を受けている

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これまでの住宅ローン控除は

現在の住宅ローン控除は、令和3年12月31日までに取得した住宅への入居を条件に、一般的な住宅の場合は限度額4000万円の借り入れに対して、年末の住宅ローン残高の1%を所得税から控除するという制度で、所得税から控除できない額は住民税から控除することが可能となります。
 
住宅ローン控除は2019年10月の消費税増税の応急措置として、控除期間10年であったものを13年に延長し、11年目以降は住宅ローンの年末の残高の1%、もしくは住宅の取得対価(上限4000万円)×2%÷3のいずれか少ない額が控除できます。
 
例えば、住宅ローンの残高が3000万円、住宅の取得対価が1500万円の11年目の控除額は、年末残高の1%となる30万円よりも、住宅の取得対価から計算した方が10万円と少なくなり、後者の控除額を採用することになります。
 

最近の低金利で住宅ローン控除が逆ザヤに

住宅ローン控除は、年末の住宅ローン残高の1%が控除されますが、最近の住宅ローン金利情勢ではローンの種類によっては1%未満となっているものがあります。
 
特に変動金利といわれる金利が変動するタイプのものでは、この記事の執筆時点(2021年12月17日)で、0.31%というとても低い金利もあります。35年固定の住宅ローンのフラット35でも金利0.81%で借りられる銀行もあり、大変低い金利で住宅ローンを借り入れすることが可能となっています。
 
例えば、1月に3000万円の住宅ローンをフラット35の金利0.81%で借り入れた場合の年末の残高は2925万5575円となり、住宅ローン控除額は29万2600円となります。対して実際に支払っている住宅ローン金利は、下表の返済金利を合計すると24万235円と、控除額が5万円以上多くなることが分かります。
 

月初残高 返済額 返済金利 返済元本 月末残高
1月 30,000,000円 82,055円 20,250円 61,805円 29,938,195円
2月 29,938,195円 82,055円 20,208円 61,847円 29,876,348円
3月 29,876,348円 82,055円 20,166円 61,889円 29,814,459円
4月 29,814,459円 82,055円 20,124円 61,931円 29,752,528円
5月 29,752,528円 82,055円 20,082円 61,973円 29,690,555円
6月 29,690,555円 82,055円 20,041円 62,014円 29,628,541円
7月 29,628,541円 82,055円 19,999円 62,056円 29,566,485円
8月 29,566,485円 82,055円 19,957円 62,098円 29,504,387円
9月 29,504,387円 82,055円 19,915円 62,140円 29,442,247円
10月 29,442,247円 82,055円 19,873円 62,182円 29,380,065円
11月 29,380,065円 82,055円 19,831円 62,224円 29,317,841円
12月 29,317,841円 82,055円 19,789円 62,266円 29,255,575円

※筆者作成
※借入金3000万円、金利0.81%、借入期間35年、元利均等返済で計算
 
この例の場合、実際の金利分は24万235円ですが、所得税額が30万円か、所得税と住民税を合わせて30万円であれば住宅ローン控除額の26万2600円を控除することができ、住宅ローン控除で逆ザヤとなり、住宅ローン利用者は利益を生んでいることになっているようにも見えます。
 
住民税から控除されるときには、住宅購入時に8%か10%の消費税がかかった場合に13万6500円、中古物件を個人の売り主から購入したケースなど消費税がかかっていない場合には9万7500円が最大で控除できます。
 

住宅ローン控除は最大限で活用できるのか

令和4年度税制改正大綱では、住宅ローンの年末残高の上限額が4000万から3000万円になりましたが、3000万円を最大限活用するためには、住宅ローンを借り入れてから13年後に住宅ローン残高が3000万円以上あり、住宅ローン残高の0.7%に当たる所得税と住民税総額が21万円以上あることが必要です。
 
ただし、今回の改正では住民税から控除できる上限も9万7500円となったことで、所得税だけで見ると11万2500円以上払っていることも必要になります。住宅を購入する人は家族を持たれている場合が多いと思いますが、扶養する家族がいて生命保険に加入していると所得控除の対象となり、所得税がそれほど多くない家庭も多いのではないでしょうか。
 
例えば、年収500万円の人が配偶者と小学生の子ども2人を扶養している場合、年間の生命保険と個人年金保険の保険料を12万円ずつ支払っていると、課税所得合計額は190万円になります。
 
500万円-給与所得控除144万円-基礎控除48万円-配偶者控除38万円-社会保険料控除72万円-生命保険料控除8万円=190万円
 
●給与所得控除額

給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
給与所得控除額
1,625,000円まで 550,000円
1,625,001円から1,800,000円まで 収入金額×40%-100,000円
1,800,001円から3,600,000円まで 収入金額×30%+80,000円
3,600,001円から6,600,000円まで 収入金額×20%+440,000円
6,600,001円から8,500,000円まで 収入金額×10%+1,100,000円
8,500,001円以上 1,950,000円(上限)

※国税庁 「No.1410 給与所得控除」より筆者作成
 
住民税の計算の場合は基礎控除43万円、配偶者控除33万円で所得額は200万円となり、住民税額は所得額の10%の20万円になります。所得税額は、190万円に5%を乗じた額となるので9万5000円です。
 
住民税は20万円ですが、住宅ローン控除で控除できるのは所得税9万5000円と、所得税から控除できなかった分を住民税から9万7500円を差し引いた合計19万2500円で、前述の例の13年後に住宅ローン控除の枠が21万円あったとしても最大限に活用できないことになります。
 
●所得税の速算表

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円から1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円から3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

※国税庁 「No.2260 所得税の税率」より筆者作成
 

まとめ

今回の税制改正大綱では、住宅ローン控除の見直しが行われました。数字だけを見ると増税と受け取ってしまう可能性もありますが、現在の低金利では今回の見直しでも得となる人が存在するのかも分かりません。また、借入金額や収入によっては住宅ローン控除の恩恵を最大限に受けている人は多くないようにも思います。
 
住宅ローン控除の最大の数字にとらわれるのではなく、ご自身の納税額や住宅ローン金利を見て個別に判断することが大切ではないでしょうか。
 
出典
自由民主党・公明党 令和4年度税制改正大綱
国税庁 No.1410 給与所得控除
国税庁 No.2260 所得税の税率
 
執筆者:吉野裕一
夢実現プランナー

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