社長の給与を上げると、支払う税金が多くなる? 一体どういうこと?
配信日: 2022.05.18
社長の気になる疑問を解説します。
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
社長の給与は経費として扱えるが……
社長の給与は役員報酬として会社の経費扱いになります。だからといって経費を増やすために社長の給与、すなわち役員報酬を上げすぎてしまいますと、かえって税金が高くなってしまうことがあります。
実際、会社に残った利益に対して課せられる法人税も利益が800万円以下なら15%、800万円を超えると23.2%と、利益が少ない方が税率も低くなり税金額も小さくなります(資本金1億円以下の株式会社の場合)。
その点のみを考えますと、会社の経費を多く取るため社長の給与として役員報酬として多く支払った方が税金は低くなるように思えます。
ところが、そうなってしまいますと、次は社長個人の税金が高くなるという問題が発生するのです。
所得税は累進課税が採用されている
日本の所得税は累進課税といって、所得が多ければ多いほど税率も高くなり、支払う税金も高くなるという制度がとられています。所得税の税率は課税される所得金額が年間194万9000円までなら最小で5%、4000万円以上になると最大の45%と、給与が高くなれば高くなるほど支払う金額も大きくなっていきます。
極端な話ですが、社長に給与をたくさん払って45%の税率で所得税を払うよりも、社長の給与を抑えて法人税を23.2%払った方が、結果的に税金が少なく済むのです。
また、所得税以外にも約10%の税率の住民税や、上限はありますものの、健康保険料と厚生年金の保険料も収入に比例して高くなります。
このように、日本は基本的に収入が高ければ高いほど税の負担率や社会保険料の負担率も高くなります。その結果、法人税よりも社長個人の税金の方が高くなってしまうことで、社長の給与を上げると支払う税金が高くなってしまうのです。
税金を気にし過ぎても心理的に辛くなる可能性もある
税金が高くなることを気にして自身の役員報酬を上げずに、むしろ下げ続けていますと、働けど働けど自身に使えるお金が増えなかったり、生活は楽にならず、心理的につらくなってしまう可能性があります。会社に残ったお金はあくまでも会社のものであって、その全てについて社長が自由に使えるお金ではないからです。
すると、仕事に対するモチベーションが低くなってしまったり、経営が心理的につらくなってしまうなどの弊害が起こることがあるのです。税金を過度に気にして給与を上げずに我慢してしまうよりも、多少税金を払ってでもモチベーションアップのために社長自身の給与を上げる方がより稼ぐことができ、長期的に見れば、より多くお金を手元に残せる場合もあります。
社長の給与は税金とのバランスが大切
法人税と個人の税率は異なるため、累進課税が適用される社長の給与を上げると会社自体にかかる税金が少なくはなっても、社長個人に発生する税金までトータルで考えると税金がかえって高くなってしまうこともあります。
しかし、会社に残ったお金は社長が自由に使えるお金ではないため、稼いでいるという実感が湧かなかったり、生活が稼ぎほど豊かになったりはしません。
社長の給与を上げるか迷ったときは税金だけではなく、税金はお金を稼いだら発生するとある程度割り切り、自由にお金を使うという観点からも考えて決めますと、経営をより良い方向へ向けていくことができるでしょう。
出典
国税庁 No.5759 法人税の税率
国税庁 No.2260 所得税の税率
執筆者:柘植輝
行政書士