年収アップをもくろむ副業会社員に打撃? 副業収入の「実質的な増税案」とは
配信日: 2022.09.27
一般的にパブリックコメントの内容はおおむね改正案通りに施行されることから、次回の確定申告からの適用が確実視されています。
当記事では、今回の改正案が実現した場合、副業収入の取り扱いがどのように変わるのか、そして副業で収入アップを狙っている会社員にどのような影響が生じるかについて解説します。
執筆者:茂野博起(しげの ひろき)
AFP・2級ファイナンシャルプランニング技能士
副業収入300万円以下は雑所得に?
そもそも今回の改正案にはどのような狙いがあるのでしょうか。
現状では、副業による収入が「事業所得」か「雑所得」か、判断基準に曖昧な部分があります。雑所得の基準が明確化されれば、副業収入を事業所得として申告する人と雑所得として申告する人との間で生じていた不公平感の是正につながります。
税務に関する知識の有無によって、負担に過度な差が生じないようにするという効果が見込まれます。
副業収入の300万円以下の雑所得化による影響
副業収入の実質的な雑所得化は、副業による収入アップを狙う場合、いくつかのデメリットをもたらすことになります。
損益通算ができなくなる
現状の制度では、副業収入を事業所得として申告すれば損益通算が使えます。
例えば250万円の副業収入がある場合、事業で使用する名目で290万円の車を購入すると事業所得をマイナスにすることができます。そのマイナス分は給与所得からも差し引くことができるため、副業会社員の間では所得税や住民税を抑える手段として定着していたというわけです。
しかし雑所得で申告すると「損益通算」ができません。つまり、すべての収入が税負担の対象になるのです。
青色申告をする各種メリットが使えなくなる
また、副業収入を事業所得として申告し、青色申告をすることで享受できた以下のメリットが、「雑所得化」によって失われることになります。
■青色申告特別控除
例えば副業の収入が65万円ある場合、現状制度ではその収入を「青色申告特別控除」で差し引けば、利益がなかったことになり、事業所得からの納税義務は生じません。
副業収入を雑所得化すると、最大65万円のこの青色申告特別控除が使えなくなります(青色申告特別控除は条件次第で10万円、55万円そして65万円と控除額が変わります)。
■繰越控除
副業収入を事業所得として申告し、青色申告することで享受できたメリットはこれだけではありません。他の所得と損益通算しても損失がある場合、翌年以降3年間にわたって副業収入を組み込んでいた事業所得の利益からその損失を差し引くことができます。
つまり翌年以降に利益が出た場合でも、前年以前3年間にさかのぼった事業所得等の損失と合算することで、利益額を圧縮できるのです。
ところが国税庁の改正案通りに制度が改正されると、青色申告によるこうした節税メリットが失われることになります。
また、国が副業収入の扱いを300万円で区切った意図は、実態のない副業で節税対策をしている会社員に対し、納税義務をはっきりと課すことにあります。仮に事実上の副業収入がなくても節税面でのメリットを享受してきた会社員は、次の確定申告からは税負担が増えることを認識しておく必要があるでしょう。
副業収入の雑所得化で影響が出ない会社員
ただし、次に挙げるパターンでは、副業会社員であっても制度改正の影響を受けないと考えられます。
副業収入だけで300万円以上ある人
副業収入が300万円以上ある会社員は、引き続き事業所得として申告することができます。
すでに副業収入を雑所得として申告している人
これまで確定申告時に副業収入を雑所得として申告してきた会社員にとっても、制度改正の実質的な影響はないと言えるでしょう。
副業収入の雑所得化は副業会社員にとって「実質増税」
今回は、国税庁が公表した通達改正案が実現した場合、副業収入の取り扱いにどのような影響が生じるかについて解説してきました。
税務に関する知識の有無によって負担量に違いが生じる不公平感を解消する効果が見込まれる一方、青色申告による節税メリットが失われることになります。副業会社員にとっての「実質的な増税」という側面があり、納税者から一定の反発も予想されます。
パブリックコメントで寄せられた意見に対し国税庁がどう回答をするかを含め、制度改正の動きに引き続き注目してみましょう。
出典
国税庁 所得税基本通達の制定について(法令解釈通達)の一部改正(案)の概要
国税庁 所得税基本通達新旧対照表
国税庁 No.2072 青色申告特別控除
執筆者:茂野博起
AFP・2級ファイナンシャルプランニング技能士