「3月~5月」は残業しないほうが「お得」? 給与にどんな影響があるの? メリット・デメリットを解説
配信日: 2023.05.07 更新日: 2023.05.08
執筆者:齋藤彩(さいとう あや)
CFP
9月以降の社会保険料は4~6月の給与で決まる
私たちが支払う社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料等)は、標準報酬月額を基に算出されます。標準報酬月額とは、私たちが受け取る給与等の1ヶ月分の報酬を一定の範囲ごとに区分したもので、1つひとつの区分を等級と言います。
標準報酬月額は、健康保険は50等級、厚生年金は32の等級に区分されており、各等級に応じた保険料を支払うことになります。基本的に標準報酬月額が高いほど、支払う社会保険料も高くなります。東京都の場合、標準報酬月額と社会保険料は図表1のようになります。
例えば、年収420万円(1ヶ月あたりの額面35万円)の場合、標準報酬月額は34万円となり、1ヶ月あたりの支払うべき健康保険料(介護保険なし)は3万4000円、厚生年金保険料は6万2220円です。
健康保険料、厚生年金保険料は労使折半で会社が半額を負担してくれるため、給料から天引きされる健康保険料(介護保険なし)は1万7000円、厚生年金保険料は3万1110円となります。会社が半額を負担してくれるのは、うれしい仕組みです。
図表1
全国健康保険協会 協会けんぽ 令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
会社は、7月1日現在における従業員の3ヶ月分(4月~6月)の報酬月額を厚生労働省に届け出る必要があります。厚生労働省は会社からの届け出に基づき、毎年1回、9月から翌年8月までの従業員の標準報酬月額を決定します。これを定時決定といいます。
4月~6月の支給額によって標準報酬月額が決まるので、3月~5月の残業が標準報酬月額に反映され、社会保険料が決まります。3~5月に残業をしないほうがよいといわれるのはこのためです。
残業を減らすことでのデメリット
3~5月の残業を減らし、標準報酬月額をおさえると社会保険料の抑制につながります。そのため手取りが増えるということはメリットですが、残業を減らすことでのデメリットもあります。
例えば、けがをした際に受給できる傷病手当金や、出産時に健康保険から受給できる出産手当金、将来受給できる老齢厚生年金、一家の大黒柱に万一のことがあった場合に遺族が受給できる遺族厚生年金は標準報酬月額によって受給できる金額が異なります。また、育児休業中に雇用保険から受給できる育児休業給付金は休み前の直近6ヶ月の給与で受給額が決まります。
残業を減らし標準報酬月額をおさえることは、これらの手当金の金額を減らすことにもつながります。3~5月に残業を減らすことは目先の手取りを増やすことはできますが、傷病手当金や育児休業給付金、老後の老齢厚生年金、遺族厚生年金の受給額に影響が出るということは大事なポイントです。
まとめ
社会保険料は4~6月の標準報酬月額に基づいて決まります。残業を減らすことで社会保険料をおさえることができますが、老後やけがの場合、出産時に受給できる手当金などに影響があります。残業をコントロールすることは難しいかもしれませんが、残業を増やすこと、減らすことのメリット、デメリットは把握しておくとよいでしょう。
出典
日本年金機構 定時決定(算定基礎届)
全国健康保険協会 令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
全国健康保険協会 傷病手当金について
全国健康保険協会 出産手当金について
日本年金機構 は行 報酬比例部分
日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
厚生労働省 育児休業給付の内容と支給申請手続
執筆者:齋藤彩
AFP