更新日: 2023.08.24 その他税金

「非課税通勤費」がなくなるとどうなるの? 交通費が高い人は「36万円」の増税に!? 税額を試算

執筆者 : 佐々木咲

「非課税通勤費」がなくなるとどうなるの? 交通費が高い人は「36万円」の増税に!? 税額を試算
政府税制調査会が2023年6月に政府へ提出した「わが国税制の現状と課題」には、非課税所得等のあり方について検討する必要がある旨の記載がありました。非課税所得の代表例である通勤手当が課税対象となる可能性が出てきたことに対して世間からは、「サラリーマン増税だ」と批判の声が上がっています。
 
もし本当に通勤手当が課税対象となってしまったら、会社員の税金はどのくらい増えるのでしょうか。
佐々木咲

執筆者:佐々木咲(ささき さき)

2級FP技能士

非課税通勤費とは

給与明細には、「課税通勤費」と「非課税通勤費」という欄がありませんか? 人によっては「非課税通勤費」のみかもしれません。通勤手当には所得税と住民税の課税対象になる課税通勤費と、課税対象にならない非課税通勤費があり、通勤手当のうち非課税通勤費を超える部分が課税通勤費となります。
 
非課税通勤費の金額には定めがあり、電車やバスなどの交通機関を利用する場合には1ヶ月当たり15万円が限度、マイカーや自転車を利用する場合には通勤距離に応じた限度額が図表1のとおり定められています。
 
【図表1】


 
国税庁 No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当
 
例えば、マイカーで片道10キロメートルの距離を通勤している人の非課税通勤費は7100円が限度額となります。もし通勤手当として1万円支給されているのであれば、非課税通勤費7100円、課税通勤費2900円となり、2900円に対しては税金が発生する仕組みです。
 

非課税通勤費がなくなった場合の増税額

税制調査会の答申における「非課税所得等のあり方について検討する必要がある」というのは、非課税通勤費がなくなる可能性があるということです。
 
それでは、もし通勤手当全額が課税対象になった場合、どれくらいの増税になるのか計算してみましょう。なお、所得税率は10%とします(住民税率は所得に関わらず一律10%)。
 

マイカー通勤片道10キロメートルの場合

通勤手当1万円(非課税通勤費7100円、課税通勤費2900円)の場合で計算してみます。
 
(非課税通勤費7100円×12ヶ月)×(所得税率10%+住民税率10%)=1万7040円
 
所得税と住民税合わせて年間1万7040円増税となり、月の手取りが約1400円減る計算になります。わずかな金額ではありますが、これまでなかったものと考えると大きな損失に感じますね。
 

新幹線通勤で限度額の15万円を受け取っている場合

一般的なケースではありませんが極論として、新幹線等の交通機関を使用した通勤で通勤手当を15万円受け取っている場合でも計算してみましょう。
 
(非課税通勤費15万円×12ヶ月)×(所得税率10%+住民税率10%)=36万円
 
受け取っている通勤手当が年間180万円と大きいため、税額も36万円となりました。「まあそれだけもらっているから」と思われるかもしれませんが、通勤手当は労働の対価ではなく、通勤するためにかかっている実費を会社が負担しているものです。非課税通勤費がなくなると、支出せざるを得ない費用に対して税金がかかるようになるということです。
 

まとめ

2023年6月、非課税通勤費に代表される非課税所得がなくなる可能性が出てきました。ただ、2023年8月時点においては「非課税通勤費をなくす」と明言されているわけではありません。
 
岸田総理も「サラリーマン増税はしない」と明言していることから、直近でいきなり非課税通勤費がなくなるということは考えにくいでしょう。ただ、国の方向性としてそのような検討がなされているということは知っておいた方がよいでしょう。
 

出典

内閣府 わが国税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方―
国税庁 No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当
国税庁 No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当
 
執筆者:佐々木咲
2級FP技能士

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