更新日: 2023.11.20 その他税金
【FP解説】節税したいという考えは、脱税につながる可能性がある!
ファイナンシャル・プランナーである筆者も、協業する税理士とともに中小企業法人の経営者からの事業承継税制に関する相談には応じたことはありますが、ここでは事業承継税制ではなく、節税をしたいという価値観が思わぬ危険を招くことについて考えていきます。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
実際にあった節税に関する相談
以下は夫45歳、妻43歳、子ども2人という家庭の夫から寄せられた相談です。
親が高齢なので、万が一のことが起きる前に住宅の売却を検討しています。空き家になった場合も想定し、売却後に税金がかからないようにするにはどう対策すればいいでしょうか。
初回の面談にて信頼関係を築くことを目的に、具体的な相談内容を傾聴しましたが、通常、こうした案件については税理士業務となり、税理士事務所との協業を前提に話を進める必要があることから、より詳細な内容を伺いました。
結論をいうと、この案件については引き受けませんでした。その理由は、悪質な節税対策、もしくは脱税に結び付く可能性のある案件だったからです。
途中までは、「居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除の特例」という税制に関する節税の相談かと考えていました。しかし、詳しく話を伺っていると、売却を検討しているという住宅は実家ではなく、親が所有しているセカンドハウスであり、控除の適用を受けるための居住要件を満たす方法を教えてほしいということでした。
この相談については、控除の要件を満たすだけなら俗にいう裏技があったりしますが、そのような対応は筆者の事務所も、協業している税理士事務所も法的に好ましくないと判断しているため、結果として契約を結ばず、依頼を引き受けないことになりました。
簡単な理解で安易に節税を考えると、思わぬリスクを招くことにもなる
前述の相談は極端な事例といえますが、節税に関する人間心理としては珍しくないかもしれません。
まず、節税で考える必要があるのは、節税したいという心理がどこに位置するかです。節税したいという心理は、図1の価値観(感情、考え方など)に該当します。
【図1】
※筆者作成
合法的な節税は、もちろん法律で認められているため、税制の趣旨や目的に合致していれば問題はありません。ただし、節税したいという価値観が極端に強い場合、図1の価値観の右側にある道徳や倫理、社会規範が機能していない可能性を考える必要があります。
簡単にいうと、その人の持つ社会的な倫理観やルールを守るといった考え方が希薄になっている可能性があるということです。
仮にそのような価値観を持っている場合、図の価値観の上にある知識(情報)や技術(方法)は必然的に歪んでいきます。例えば、ネットで知った巧妙な節税方法を利用し、あたかも合法的に節税をしているように見せかけるなどの行為として表れます。
本人が分かっていて悪質な節税をしようとするなら、自分なりにリスク管理をしているのだろうとも推測できますが、中途半端に節税の知識を身に付け、結果的に悪質な節税に結び付くような場合、生半可な知識で悪だくみをしていることになり、後で簡単にバレてしまいます。
適切に節税をしたいというのなら、道徳や倫理、社会規範の下、合法的な知識(情報)と技術(方法)を理解した上で行う必要があります。
まとめ
税金を払いたくない、納める税金はなるべく安くしたいという気持ちは分かります。しかし、悪質な節税対策は脱税につながる危険性をはらんでいます。
節税については、何のために節税するのかという目的のほか、各税制の趣旨や目的とも一致しているかどうかをしっかりと確認した上で実行する必要があります。専門家に相談すれば節税できるという安易な考え方は間違いの元ですし、そのような相談は職業倫理をしっかり持っている専門家は受け付けません。
節税対策は法律の範囲内で認められていますが、税制は社会的な制度であるということを留意しておきましょう。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)