更新日: 2023.12.27 控除
投資のために買っていた「金」が高騰してかなりもうかりました。夫の扶養から外れることになりますか?
そこで本記事では、「金」に投資をしてもうかった場合、夫の扶養から外れることになるのかについて、解説します。
執筆者:中村将士(なかむら まさし)
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー
私がFP相談を行うとき、一番優先していることは「あなたが前向きになれるかどうか」です。セミナーを行うときに、大事にしていることは「楽しいかどうか」です。
ファイナンシャル・プランニングは、数字遊びであってはなりません。そこに「幸せ」や「前向きな気持ち」があって初めて価値があるものです。私は、そういった気持ちを何よりも大切に思っています。
扶養には社会保険上の扶養と税金上の扶養がある
今回の例でいう「扶養」には、「社会保険上の扶養」と「税金上の扶養」という2種類の意味があります。配偶者の立場でいえば、社会保険上の扶養とは、健康保険や国民年金における「被扶養者」に該当することをいい、税金上の扶養とは、所得税の計算における「控除対象配偶者」に該当することをいいます。「扶養から外れる」という場合は、これらに該当しなくなることを意味します。
健康保険・国民年金における被扶養者の要件
健康保険や国民年金における被扶養者となるためには、「被扶養者の範囲」と「収入の基準」の要件をそれぞれ満たす必要があります。今回の例で問題となるのは、「収入の基準」の要件です(「被扶養者の範囲」の要件は満たしているものとします)。
収入の基準は、原則として、以下のとおりです。
・年間収入130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)
上記の基準を満たしたうえで、被保険者と同居しているか別居しているかにより、以下の要件が加わります。
●同居の場合:扶養者(被保険者)の収入の半分未満
●別居の場合:扶養者(被保険者)からの仕送り額未満
ただし、同居の場合、収入が扶養者の収入の半分以上であっても、扶養者の年間収入を上回らず、日本年金機構がその世帯の生計の状況を総合的に勘案して、扶養者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認めるときは、「被扶養者」となることがあります。
所得税の計算における控除対象配偶者の要件
控除対象配偶者の要件は、以下のとおりです。
(1)民法の規定による配偶者である
(2)納税者と生計を一にしている
(3)年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)である
(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払いを受けていない(または白色申告者の事業専従者でない)
このうち、今回の例で問題となるのは、(3)の要件です(他の要件は満たしているものとします)。
合計所得金額に注意する
「夫の扶養から外れる」かどうかを判断するためには、少なくとも以下の点を確認する必要があります。
●被扶養者の要件:年間収入が130万円未満かどうか
●控除対象配偶者の要件:年間の合計所得金額が48万円以下かどうか
ここでいう「年間収入」とは、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいい、一時的な収入については考慮しないというのが一般的です。つまり、「金」を売却したことで、直ちに被扶養者でなくなるということはないといえます。
一方、「合計所得金額」には注意が必要です。合計所得金額とは、総合課税の対象となる所得を合算した金額です。給料や賞与は給与所得、「金」を売却して得た利益は譲渡所得であり、いずれも総合課税の対象です。
給与所得の金額は、以下のように計算します。
・給与所得の金額 = 収入金額(源泉徴収される前の金額)- 給与所得控除額
譲渡所得の金額は、以下のように計算します。
・譲渡所得の金額 = 譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)-特別控除額(最高50万円)
なお、譲渡所得は所有期間により「短期譲渡所得(所有期間5年以内)」と「長期譲渡所得(所有期間5年超)」に分けられます。短期譲渡所得の場合、譲渡所得の金額は、上記の計算式により算出した金額の全額が、総合課税の対象になります。一方、長期譲渡所得の場合、上記の計算式により算出した金額の2分の1が、総合課税の対象になります。
譲渡所得の計算式からいえることは、それが短期譲渡所得であれ長期譲渡所得であれ、特別控除額(最高50万円)の範囲であれば、「金」を売って利益を得たとしても、譲渡所得の金額は「0円」になり、特に影響がないということです。言い換えれば、その利益が50万円を超えたとき、その超えた部分について影響があるということです。
このように計算したうえで、給与所得金額と譲渡所得金額の合計額が48万円以下であれば、控除対象配偶者の要件を満たしているといえます。
まとめ
本記事では、「金」に投資をしてもうかった場合、夫の扶養から外れることになるのかについて、解説してきました。結論としては、以下のとおりです。
●社会保険上の扶養からは、外れる蓋然(がいぜん)性は低い
●税金上の扶養からは、外れる可能性もある
健康保険や国民年金における「被扶養者」の要件には、収入の基準があります。しかし、そこでは、一時的な収入を考慮しないのが一般的です。つまり、「金」を売却して一時的に得た利益は、社会保険上の扶養には影響を与えず、扶養から外れる心配は少ないといえます。
所得税の計算における「控除対象配偶者」の要件には、所得制限があります。「金」を売却して利益を得た場合、譲渡所得として所得計算を行います。給与や賞与を得ている場合は、それらを給与所得として所得計算を行います。
給与所得と譲渡所得を合計して得た年間の合計所得金額が48万円以下であれば、控除対象配偶者となり、扶養から外れることはありません。しかし、合計所得金額が48万円超であれば、控除対象配偶者とならず、扶養から外れてしまいます。
本記事では、「金」を売却して利益を得た場合を例に解説しましたが、一時的な収入がある場合、基本的な考え方は同じです。本記事が少しでも参考になれば幸いです。
出典
国税庁 No.1191 配偶者控除
国税庁 No.1195 配偶者特別控除
国税庁 No.2220 総合課税制度
国税庁 No.1400 給与所得
国税庁 No.3161 金地金の譲渡による所得
国税庁 No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)
執筆者:中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー