更新日: 2024.01.10 控除
医療費控除とセルフメディケーション税制、「こちらを申告したほうが得」の分岐点はどこでしょうか?
公平性の観点から、災害により損害を受けた方には「雑損控除」、医療費負担が多かった方には「医療費控除」のほか、「社会保険料控除」「ひとり親控除」等の「所得控除」によりそれぞれの事情を加味して税負担は調整されます。
なかでも、医療費控除については、従来の「医療費控除」と2017年からスタートした「セルフメディケーション税制」のいずれかの選択であるため、どちらで申告するのか迷うケースも多いようです。それぞれの概要とともに、申告する際の考え方について解説します。
執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)
CFP🄬認定者・相続診断士
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/
医療費控除・セルフメディケーション税制とは?
会社員の場合、原則として、毎月の給与から源泉所得税が差し引かれ、年末調整によりその年(1月1日から12月31日までの1年間)の収入に対する所得税が確定するため、基本的に翌年2月に確定申告をする必要はありません。
ただし、「医療費控除」については、年末調整では行うことができないため、医療費が高額となった場合、払い過ぎた所得税の還付を受けるためには確定申告を行う必要があります。
医療機関で受診した場合の診療費や投薬代などを対象とした従来からの「医療費控除」に加えて、健康の維持増進や予防取り組みに対する「セルフメディケーション税制」が2017年よりスタートしました。
それぞれ対象となる医療費や控除額の計算方法は異なり、いずれかの選択適用であるため、どちらを選ぶかは、それぞれの制度を理解したうえで判断する必要があります。
医療費控除とは
本人または扶養家族のために支払った医療費が高額となった場合、その医療費を元に計算した金額を、税額計算における所得から差し引くことができます。
医療費控除の対象となるのは、具体的には、医師等による診療等を受けるために直接必要な費用で、診療費や手術費のほか、通院費や医師等の送迎費、入院時の食事代、松葉づえなどの器具の購入や賃借にかかった費用、6ヶ月以上寝たきりの方のおむつ代などが含まれます。
ただし、美容整形の施術費用や健康診断の費用(診断結果により治療や特定保健指導を受けた場合は対象)、タクシー代、ガソリン代、駐車料金、親族に支払う療養上の世話の対価は、医療費控除の対象外です。
医療費控除の金額は、
実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補填された金額-10万円※
で計算します。
※年収200万円以下の場合は所得金額×5%
※医療費控除額の上限は200万円
個人で加入する医療保険契約などで支給される入院給付金や健康保険などで支給される高額療養費、家族療養費、出産育児一時金などは、「保険金などで補填された金額」として差し引く必要があります。
セルフメディケーション税制とは
セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)は、医療費控除の特例として、健康の維持増進および疾病の予防への一定の取り組みを行う人が、「スイッチOTC医薬品」を購入した際に、その購入費用をもとに計算した金額を所得から差し引くことができます。
スイッチOTC医薬品とは、簡単に言えば、解熱鎮痛剤やかぜ薬など医師によって処方される医療用医薬品から転用された、薬局・ドラッグストアで購入できる医薬品などです。対象かどうかは、共通識別マークの表示や、薬局やドラッグストアで受け取る領収証(レシート)に明示されています。
セルフメディケーション税制の対象となる金額は、
実際に支払った医薬品の合計額-1万2000円
で計算します。
※セルフメディケーション税制による控除の上限は8万8000円
どっちがお得?
どちらの制度を選んだ方がお得かという目安として、その世帯において、医療機関への受診が多い場合には「医療費控除」、ドラッグストア等での医薬品購入が多い場合には「セルフメディケーション税制」を選ぶとよいでしょう。
ただし、そうとも言えないケースも多いため、年末時点で領収証やレシートから1年間の合計額を計算したうえで、どちらが有利か判断することをおすすめします。
「医療費控除」
例えば、課税所得金額400万円(所得税率20%)の方の場合、
1)医療機関での治療費や投薬代の世帯合計額が15万円(保険等による補填なし)であったとすると、
15万円-10万円=5万円(医療費控除額) 結果として、1万円(5万円×20%)の所得税軽減
2)仮に、医療機関での治療費や投薬代の合計額が8万円であったとすると、10万円に満たないため医療費控除の適用対象外です。
「セルフメディケーション税制」
同様に、課税所得金額400万円(所得税率20%)の方の場合、薬局・ドラッグストアで胃腸薬や鼻炎錠、湿布等の対象医薬品の購入金額の合計が8万円であったとすると、
8万円 -1万2000円 = 6万8000円 結果として 1万3600円の所得税軽減
医療費控除、セルフメディケーション税制のいずれも確定申告をする必要があるため、確定申告により上記の所得税軽減分(実際にはそれぞれの事情を考慮した金額)が還付される(戻ってくる)イメージです。
控除額の上限が大きい医療費控除の方がお得と考えがちですが、どちらも選択できる場合、上記の例のように、支出額の多い「医療費控除」よりも「セルフメディケーション税制」を選択した方が税負担軽減の効果は大きく、お得になることもあります。
医療費控除およびセルフメディケーション税制の注意点
医療費控除もセルフメディケーション税制も、医療費に応じて支払うべき税金を計算し直すことができる制度であり、支払った医療費がそのまま戻ってくるわけではないことに注意が必要です。
また、申告の際に領収書やレシートを提出する必要はありませんが、5年間の保存義務があります。明細の記載内容について税務署から確認を求められることも想定されるため、大切に保存しておきましょう。
出典
国税庁 医療費控除
国税庁 セルフメディケーション税制
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士