更新日: 2024.06.18 その他税金
70歳の母が畑で採れた野菜を送ってくれました。「年金が少ないので育てた野菜を食べている」と話す母に仕送りしたいのですが、税金はかかりますか?
執筆者:伊藤秀雄(いとう ひでお)
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員
大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。
親子間で贈与にならないもの
親への仕送りの場合、税金つまり贈与税がかかるかどうかは、主にその目的や使い道で判断されます。国税庁のホームページには「贈与税がかからない財産」の一例として、次のケースが挙げられています(※1)。
「夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの」
Aさんが母親に仕送りする場合、通常の日常生活に必要な費用の範囲であれば贈与にはあたりません。また、通院や入院時にかかる治療費を親の代わりに負担することも同様です。
両親や祖父母など直系尊属からの贈与には、「住宅取得等資金」「教育資金」「結婚・子育て資金」への税制優遇措置のように、一定の要件を満たせば贈与税の課税価格に算入されない特例があります。
このような次世代への資金移転対策と比較すると、親が子(直系卑属)から財産を取得するケースは少ないためか、特段の優遇措置は設けられていません。生活費の支援、医療費あるいは介護費用の支援といった、「社会通念上相当と認められる」範囲かどうかで判断されるといえます。
課税対象になる場合とは
もし、生活費の名目で渡したお金が、その本来の目的ではなく、貯蓄や投資などに使われた場合は、贈与税の課税対象となります。
また、生活費として「必要な都度」「直接」充てるためのものに限られます。つまり、まとめて何百万円も一括して渡すのは、その目的や使い道に疑義が生じる可能性があるということです。日常の生活費の支援として社会通念上相当な金額を毎月、あるいは個別の必要性に応じその都度渡すこと、また購入したいものに直接支払うことが求められます。
なお、個別のケースについては、税理士など専門家にご相談することをお勧めいたします。
他に贈与で非課税になる取り扱いとして、1年間に贈与で得た金額が基礎控除額110万円以内であれば、贈与税が非課税になる暦年課税制度があります。ですが、そもそも「扶養義務者からの生活費の取得」という目的であれば、暦年課税を意識しなくても非課税となる取り扱いがあるということです。
必要な仕送り額を試算してみる
それでは、Aさんのケースで、いったい毎月いくら仕送りが必要なのか試算してみます。両親の老齢年金額が、「モデル年金」と同額とします。また、年金以外の収入や金融資産はないものとします。
令和6年度のモデル年金[夫婦2人分の老齢基礎年金(満額6万8000円×2)を含む標準的な年金額]は、月額23万483 円です(※2)。
なお、厚生年金は、世帯の1人が平均的な収入[平均標準報酬(賞与含む月額換算)43万9000円]で、40 年間就業した場合に受け取り始める年金の給付水準とします。
●父親の老齢厚生年金:23万483円-13万6000円=9万4483円
●遺族厚生年金(老齢厚生年金の4分の3):7万863円(1)
●遺族基礎年金:なし(子がAさんのみとした場合、子の年齢要件から支給対象外)
●母親の老齢基礎年金:6万8000円(2)
この結果、父親の死後に受給できる母親の年金月額は以下のとおりです。
・7万863円(1)+6万8000円(2)=13万8863円
注:65歳以上は本人の老齢基礎年金と遺族厚生年金の併給が可能
夫の生前に比べて、夫の老齢基礎年金全額と、老齢厚生年金の4分の1がなくなることから、世帯年収が9万円強減ってしまいました。では、毎月9万円の仕送りが必要ということなのでしょうか?
総務省の「家計調査」によると、65歳以上で単身女性の月平均消費支出額は、約14万8000円(※3)ですから、これが参考になります。母親が受け取る年金額より1万円ほど多い支出ですから、やはり毎月赤字です。この差額1万円は、どうやら仕送りが必要なようです。
そして、老齢基礎年金は額面ですから、税・社会保険料を引かれることも考慮すると、上記の平均支出額に届くには少なくとも月3万円程度の仕送りが必要になるといえます。
余裕を持って生活してもらうには、さらに数万円程度は必要になるでしょうか。Aさんが仕送りする場合は、自身の世帯の家計が圧迫されないよう、母親と金額を相談のうえでやりくりしていただきたいと思います。
なお、仮に年金収入が住民税非課税世帯の要件に該当すれば、一定の負担軽減が期待できます。
出典
(※1)国税庁 No.4405 贈与税がかからない場合
(※2)日本年金機構 令和6年4月分からの年金額等について
(※3)総務省統計局 家計調査 家計収支編 単身世帯 2023年度 表番号2(男女、年齢階級別 単身世帯・勤労者世帯)
執筆者:伊藤秀雄
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員