更新日: 2024.08.20 控除
「収入格差」がある夫婦です。年収が低い妻の扶養に子どもを入れると「節税になる」と聞きました。本当でしょうか?
執筆者:柴沼直美(しばぬま なおみ)
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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目次
社会保険上の扶養は年収の高いほうに入れる(例外あり)
扶養といっても、税法上と社会保険上の扶養があります。社会保険(健康保険)上の扶養は年収の高いほうに入れることになっているので、基本的に好きなように選択はできません。
ただし「夫婦の年収差が1割以内」の場合に限り、選択できます。
税法上では、600万円と280万円の扶養は選択できる
一方で、税法上の扶養は、それぞれの年収にもよりますが、一般的には年収の低いほうに入れるのが有利だといわれていますが、ご相談者の場合、夫と妻とどちらの扶養に入れるかによってどう変わるか、簡単なシミュレーションをしてみましょう。
所得税ではどちらの扶養にしても計算上はほとんど変わらず
まず夫600万円の扶養に入れた場合と、妻280万円の扶養に入れた場合の所得税の違いを比べてみましょう。
【前提】
年収:夫600万円 妻280万円
給与所得控除後所得:夫436万円 妻188万円
社会保険料(厚生年金・健康保険)夫86万円 妻40万円
【夫の扶養に入れた場合の世帯の所得税合計試算】
夫: (436万円−48万円(基礎控除額)−86万円(社会保険料))=307万円
課税所得金額を速算表に当てはめて、令和6年の定額減税分(本人と子ども2人分)と復興減税を考慮して、所得税額は11万6900円
妻:(188万円−48万円(基礎控除額)−40万円(社会保険料))=100 万円
課税所得金額を速算表に当てはめて、令和6年分の定額減税分(本人のみ)と復興減税を考慮すると、所得税額は2万400円
合計:13万7300円
(単位:円)
項目 | 夫 | 妻 |
---|---|---|
年収 | 600万 | 280万 |
給与所得控除 | 164万 | 92万 |
給与所得控除後の金額 | 436万 | 188万 |
基礎控除 | 48万 | 48万 |
配偶者(特別)控除 | 0 | 0 |
扶養控除 | 0 | 0 |
保険料控除 | 86万 | 40万 |
所得控除額の合計額 | 134万 | 88万 |
課税所得金額 | 302万 | 100万 |
所得税額 | 20万4500 | 5万 |
定額減税額 | 9万 | 3万 |
源泉徴収額 | 11万6900 | 2万400 |
復興特別所得税分 | 2400 | 400 |
(筆者作成)
【妻の扶養に入れた場合の世帯の所得税合計試算】
夫:(436万円−48万円(基礎控除額)−86万円(社会保険料))=307万円
課税所得金額を速算表に当てはめて、令和6年の定額減税分(本人のみ)と復興減税を考慮して、所得税額は17万8100円
妻:(188万円−48万円(基礎控除額)−40万円(社会保険料))=100 万円
課税所得金額を速算表に当てはめて、令和6年分の定額減税分(本人と子ども2人分)と復興減税を考慮すると、所得税額は0円
なお、妻の減税額は所得税に届きませんので、年末調整で精算されます。
合計:17万8100円-4万円=13万8100円
(単位:円)
項目 | 夫 | 妻 |
---|---|---|
年収 | 600万 | 280万 |
給与所得控除 | 164万 | 92万 |
給与所得控除後の金額 | 436万 | 188万 |
基礎控除 | 48万 | 48万 |
配偶者(特別)控除 | 0 | 0 |
扶養控除 | 0 | 0 |
保険料控除 | 86万 | 40万 |
所得控除額の合計額 | 134万 | 88万 |
課税所得金額 | 302万 | 100万 |
所得税額 | 20万4500 | 5万 |
定額減税額 | 3万 | 9万 |
源泉徴収額 | 17万8100 | 0 |
復興特別所得税分 | 3600 | 0 |
(筆者作成)
夫の扶養にしても妻の扶養にしてもほとんど変わらないという結果になりました。あくまで簡単化したモデルケースなので、実際には生命保険料控除などさまざまな個別の要因によって変わります。
住民税所得割では妻の扶養にすると計算上2万円低い
次に住民税について比べてみましょう。
子どもを扶養に入れた際の住民税非課税限度額は、35万円×(1人+2人)+10万円 +32万円 = 147万円となります。
【夫の扶養に入れた場合の世帯の住民税所得割】
夫:住民税の非課税限度額147万円を上回るため課税
(436万円−43万円(基礎控除額))×10%−3万円 =36万3000円
妻:住民税の非課税限度額35万円を上回るため課税
(188万円−43万円(基礎控除額))×10% −1万円= 13 万5000円
合計:49万8000円
【妻の扶養に入れた場合の世帯の住民税所得割】
夫:住民税の非課税限度額35万円を上回るため課税
(436万円−43万円(基礎控除額))×10%−1 =38万3000円
妻:住民税の非課税限度額147万円を上回るため課税
(188万円−43万円(基礎控除額))×10% -3= 11 万5000円
合計:51万8000円
住民税の場合でも、妻の所得が住民税非課税限度額の147万円を上回っているので、2万円の差という計算結果になりました。
税法上大差がないならば、手当が支給されているほうの扶養家族に入れる
こちらのケースでは、妻の扶養にしたほうが、税金の計算上、若干低くなりましたが、2人で8000円扶養手当が支給されることを考えると、夫の扶養に入れるのが得策といえそうです。
ただ、両親の年収の組み合わせや、その年の税制、公的支援制度、自治体や企業の支援制度によって変わりますので、一概に決めてしまわずに確認することが求められるでしょう。
出典
国税庁 給与所得者と税
国税庁 給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた
執筆者:柴沼直美
CFP(R)認定者