更新日: 2024.11.30 控除
「103万円の壁」の見直しは“普通の会社員”にも関係ある!?「年収400万円・800万円」の会社員への影響を試算
しかし実際には「103万円の壁」が見直されると減税になるメリットがあります。
本記事では「103万円の壁」とは何かを分かりやすく解説するとともに、「103万円の壁」が見直されるとどれくらい所得税が減るのか、年収400万円の人と年収800万円の人を比較しなら紹介します。
執筆者:松尾知真(まつお かずま)
FP2級
そもそも「103万円の壁」とは?
「103万円の壁」とは、会社から給与をもらって働いている人の、所得税が課税され始める年収額のラインを「壁」というたとえで示したものです。「壁」と呼ばれるものには、図表1のとおり「103万円の壁」以外にも、社会保険に関する「106万円の壁」「130万円の壁」などいくつかあります。
その中でも「103万円の壁」は、基礎控除48万円と給与所得控除55万円の合計103万円までは所得税がかからないことを意味したものです。そのため、給与所得のない自営業者やフリーランスには「103万円の壁」は当てはまりません。
図表1
厚生労働省 『年収の壁について知ろう』あなたにベストな働き方とは?
逆に言えば、給与収入が103万円を超えると所得税がかかります。さらに税制上、家族に扶養されていた場合、扶養から外れてしまうことも大きなデメリットといえるかもしれません。
例えばアルバイトで働いていた子どもを扶養していた親は、扶養による所得税の控除を受けられなくなり、家族全体で見た税額が大きくなってしまいます。そのため「働き控え」にもつながってしまい、人手不足の昨今では「103万円の壁」の撤廃や変更が議論される要因の1つになっているのです。
「103万円の壁」が変わると、どれくらい所得税が減るの?
103万円の壁については「撤廃する」あるいは「なくす」と言われることもあります。しかし正確には、控除の金額を見直して103万円から引き上げることであり、結果的には住民税も減税になるでしょう。
とくに基礎控除が拡充されれば、給与所得者だけでなく、所得税を納めている自営業者・フリーランスなどにも効果がおよびます。
一方、そこで気になるのは図表2のとおり、所得税に関しては累進課税で高額所得者ほど税率が高いことです。そのため、控除が引き上げられると高額所得者ほど所得税の減税額が大きくなります。
図表2
国税庁 No.2260 所得税の税率
実際にどれくらい所得税が減るのか、1つの例として年収400万円の人と年収800万円の人を比較してみましょう。計算を分かりやすくするため、復興特別所得税は考慮せず、そのほかの控除は社会保険料のみ年収の14%として加算します。
この仮定を基にした計算では、図表3のとおり、年収400万円の人の課税所得金額は400万円-48万円-124万円-56万円=172万円となるため、所得税率は5%です。仮に「壁」が見直され、基礎控除が50万円引き上げられると、減税額は50万円×税率5%=2万5000円となります。
同様の計算で年収800万円の人の課税所得金額は800万円-48万円-190万円-112万円=450万円となり所得税率は20%、減税額は50万円×税率20%=10万円です。
図表3
年収 | 所得控除 | 課税 所得 金額 |
税率 | 現在の 所得税額 |
基礎控除が 50万円増えた 場合の減税額 |
減税率 |
---|---|---|---|---|---|---|
400万円 | ・基礎控除48万円 ・給与所得控除 400万円×20%+44万円=124万円 ・社会保険料控除 400万円×14%=56万円 合計228万円 |
172万円 | 5% | 172万円×5% =8万6000円 |
50万円×5% =2万5000円 |
2万5000円÷ 8万6000円=約29% |
800万円 | ・基礎控除48万円 ・給与所得控除 800万円×10%+110万円=190万円 ・社会保険料控除 800万円×14%=112万円 合計350万円 |
450万円 | 20% | 450万円×20% -42万7500円 =47万2500円 |
50万円×20% =10万円 |
10万円÷47万2500円 =約21% |
国税庁HPより筆者作成
※復興特別所得税は考慮しない
※所得控除は基礎控除、給与所得控除、社会保険料控除のみと想定
※社会保険料控除は年収の14%と想定
計算結果は1つの目安に過ぎませんが、所得税の減税額は年収400万円で2万5000円、年収800万円で10万円です。
これだけを聞くと高額所得者が優遇されるようにも感じますが、減税率で見た場合は、年収400万円の人のほうが大きくなります。
まとめ
「年収103万円の壁」の見直しは、基礎控除や給与所得控除の引き上げであり、とくに基礎控除が引き上げられると、所得税を納めている全ての人が減税になります。年収が多く所得税率の高い人ほど減税額は大きくなりますが、減税率で見れば、年収の低い人が高くなり、一概に高額所得者が有利とは言えないかもしれません。
ただ「103万円の壁」の見直しが進めば、給与所得者の所得税が減るのは間違いありません。年収による減税額の違いはあまり気にせず、減税の使い道などを想像しながら、議論の行方を見守ってみてはいかがでしょうか。
出典
厚生労働省 「年収の壁について知ろう」あなたにベストな働き方とは
国税庁 No.2260 所得税の税率
執筆者:松尾知真
FP2級