更新日: 2019.06.13 その他税金
「自分は大丈夫と思っていたけど詐欺被害にあってしまった・・税金面で救済はありますか?」
最近はアポ電などと呼ばれる手口も出てきており、高齢者が電話をとる際には十分気を付けなければいけない時代となりました。
では、不幸にして振り込め詐欺被害にあった場合、税金面でなにか救済はあるのでしょうか?
執筆者:宮路幸人(みやじ ゆきひと)
税理士・AFP その他宅建、マンション管理士資格保有
不動産・相続に強みがあります。会計事務所勤務が長く実務経験が豊富です。フットワ-クが軽くお客様のニーズに応えるよう日々努力しております。また離島支援活動も積極的に行っております。
所得税の雑損控除とは
所得税は基本的に、給与、不動産など各種所得の合計から所得控除分を引いた金額に税率をかけ、税額を求める仕組みとなっております。
この所得控除の中には雑損控除があり、「災害、盗難又は横領によって資産に損害を受けた場合等に控除される」と定められています。雑損控除の対象となる損失の発生原因は、次に挙げるものに限定されています。
(1)災害 自然現象の異変による災害、人為的な異常な災害、生物による異常な災害
(2)盗難 自己の意思に反して財物を窃取又は強取されたことによる損失
(3)横領 自己の財物を占有する第三者によってその財物を不正に領得されたことによる損失
また、雑損控除の対象となる資産は、原則として納税者本人および本人と生計を一にする配偶者、その他の親族の保有する、生活に通常必要な資産に限定されます。
振込詐欺は雑損控除に該当する?
では、振り込め詐欺にあった場合は、この所得税の雑損控除に該当することになるのでしょうか?
単純に考えると、不幸なお年寄りがだまされてお金をとられたので、この雑損控除に該当してもよいのではないか、また、なんらかの救済はあってもよいのではないかと思われます。
しかし、現在のところ雑損控除においては詐欺、強迫による損失などは、雑損控除の適用とされる損失に該当しないとされています。
雑損控除に該当しないのはおかしいということで、以前、国税不服審判所(裁判に入る前の手続き)において争われたことがあります。
しかし、『雑損控除の主旨に照らせば、振り込め詐欺による被害は雑損控除の対象である「災害」であり「盗難」であり「横領」に該当するはずである』という主張は、退けられてしまいました。
『雑損控除の規定にある「災害又は盗難若しくは横領による損失」とは、本人の意思に関係ない場合が対象であり、振り込め詐欺の場合は自らの意思で振り込んでおり、本人の意思(不注意)に原因があるため、雑損控除とするには所得税法の規定に該当しない』と国税不服審判所が判断したためです。
これだけ振り込め詐欺に注意喚起がなされているにも関わらず、振り込め詐欺は毎年巧妙に進化を続け、被害にあう人は後を絶ちません。また、被害にあった人は、慰めてくれるはずの身内にまで「なぜ、そんな被害にあったのか!(相続財産をあてにしていたのに)」と責められ、自殺したケ-スなども実際に発生しています。
だまされた人の大半がお年寄りで、なけなしの財産をとられています。個人的には、雑損控除などの適用を含め、なんらかの救済があってよいと思います。
ただし、被害にあったお年寄りは年金生活者が多く、所得税を納めているにしても多額ではないため、所得控除の適用対象者の親族などをもう少し広く捉えるなど、なんらかの工夫も必要となるでしょう。今後の税制改正に期待したいところです。
また、不幸にも振り込め詐欺被害にあった際に、振り込んだお金が犯罪利用口座(振り込め詐欺などの振込先となった預金口座)で滞留している場合、「振り込め詐欺救済法」によって振り込んだお金が戻ってくる場合があります。だまされたと分かった時は、素早く警察と金融機関に届け出てください。
最近は録音機能付きの電話機を貸し出している地方自治体もあるので、活用するのもよいでしょう。
安心して電話にも出られない物騒な世の中になりましたが、身近な人が被害にあわないように気を付けたいですね。
出典:国税不服審判所「雑損控除」
執筆者:宮路幸人(みやじ ゆきひと)
税理士・AFP その他宅建、マンション管理士資格保有