給与所得とは? その2 ~給与所得の課税形態~
配信日: 2020.06.04 更新日: 2020.06.05
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
給与所得の計算方法
給与所得の金額は、次のように計算します。
収入金額(源泉徴収される前の金額)-給与所得控除額=給与所得の金額
(1)収入金額
収入金額には、金銭で支給されるもののほか、給与の支払者から受けた次のような経済的利益も含まれます。
イ:商品などを無償または低い価額で譲り受けたことによる経済的利益
電機メーカーが家電製品で従業員のボーナスを支払った場合などがこれにあたります。
ロ:土地や建物などを無償または低い使用料で借り受けたことによる経済的利益
会社が社宅を世間一般の相場より安い金額で従業員に貸した場合などです。
ハ:金銭を無利息または低い利息で借り受けたことによる経済的利益
会社が従業員に対する住宅ローンに対して利子補填をした場合などがこれに相当します。
「これらの経済的利益を現物給与といいますが、特定の現物給与については、課税上金銭で支給される給与とは異なった取扱いが定められています。」
(2)給与所得控除
給与所得は、事業所得などのように必要経費を差し引くことができない代わりに所得税法で定めた給与所得控除額を給与などの収入金額から差し引きます。この給与所得控除額は、給与などの収入金額に応じて、自動的に算出されます。
【表1】
令和2年分以降
国税庁ホームページ「No.1410 給与所得控除」から抜粋
(3)給与所得者の特定支出控除
次の条件を満たす場合は、「給与所得控除額」として給与所得の計算に反映することができます。
給与所得者が次の6つの費用のうち一定の要件を満たす特定支出をした場合で、その年中の特定支出の額の合計額が「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超えるときは、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の金額から差し引くことができます。
イ:通勤費
ロ:転居費
ハ:研修費
ニ:資格取得費
ホ:単身赴任者の帰宅旅費
ヘ:勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費など)(※)
※ 65万円が上限です。
特定支出控除はいわば第二の給与所得控除というべきものですが、一つひとつの費用が納税者の職務の遂行に直接必要なものであることの証明責任を企業に課していること、および、控除申請の足切り基準=「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」が、給与所得控除額の2分の1とかなり高いことから、現状ではほとんど使われていません。
詳細は国税庁ホームページ内の「No.1415 給与所得者の特定支出控除」を参照ください(当記事の最後にリンクがあります)。
給与所得の試算と課税方法
次の前提で給与所得の試算を行ってみたいと思います。
夫:会社員(年間収入1100万円)、妻:専業主婦、子ども:5歳と2歳の2人
特定支出控除に相当する支出はなし。
収入 :1100万円
給与所得控除額:195万円(収入850万円超は一律195万円)
給与所得 :905万円
収入から、必要経費である給与所得控除を【表1】の計算式に従って算出し、収入から引いて給与所得を出します。それだけで終わりです。
皆さんが年末調整や還付申告で行っている調整は、主に給与所得後の所得控除に関するものです。この例の場合も、給与所得から配偶者控除や基礎控除などの所得控除が差し引かれ、実際の所得税が計算されることになります。
具体的にいうと、給与所得にかかる所得税は、給与の支払いと同時に源泉徴収されます。給与所得の他に所得がない場合には、勤務先において行われる源泉所得税などの精算、所得控除の調整などの年末調整を受けることにより、税金が確定し確定申告を行う必要がなくなります。
給与所得者で確定申告を行う必要があるのは、主に次の場合です。
(1)他の所得がある場合
例えば不動産所得などと合算して総所得金額を算出し、確定申告をすることにより税額を計算します。
(2)給与所得のみの場合でも、給与の年間収入金額が2000万円を超える場合や、2カ所以上から給与を受けている場合など、一定の条件に当てはまる場合
(3)医療費控除など、確定申告を行わないと還付請求ができない所得控除がある場合
給与所得の課税方法は、総合課税です。確定申告により、他の所得と合算して税金を計算することができます。
まとめ
給与所得の課税において特徴的なのは、
1.必要経費が給与所得控除という形で、算式に基づき自動的に算出されること。
2.所得税が給与支払い時における源泉徴収という形で自動的に引き去られ、年末調整で精算が行われるので、必ずしも確定申告は必要でない。
という点にあります。
[出典]
国税庁 No.1400「給与所得」
国税庁 No.1410「給与所得控除」
国税庁 No.1415「給与所得者の特定支出控除」
国税庁 No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー