ネット証券よりも金融機関の方が損失を出している人が多い? よいファンドを長く持ち続けるには
配信日: 2018.10.01 更新日: 2019.01.11
「顧客本位」などというのは当然のことですが、現状がそのとおりになっていないという金融庁の危機感がありました。そして、その取り組みを示すものとして、顧客の損益状況などを「重要業績評価指標(KPI)」として公表するように呼び掛けています。
Text:村井英一(むらい えいいち)
国際公認投資アナリスト
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本証券アナリスト検定会員
大手証券会社で法人営業、個人営業、投資相談業務を担当。2004年にファイナンシャル・プランナーとして独立し、相談者の立場にたった顧客本位のコンサルタントを行う。特に、ライフプランニング、資産運用、住宅ローンなどを得意分野とする。近年は、ひきこもりや精神障害者家族の生活設計、高齢者介護の問題などに注力している。
目次
「重要業績評価指標(KPI)」は金融業者を選ぶ判断材料になる
取り組み方針については今年6月末時点で、すでに1426社もの金融業者が公表していますが、「重要業績評価指標(KPI)」について公表しているのはまだ347社に過ぎません。
「重要業績評価指標(KPI)」は、取り引きしている顧客の損益状況などを自主的に公表するものですが、金融庁では以下の3つの指標を「共通KPI」として公表するように働きかけています。
(1)運用損益別顧客比率‥‥その金融事業者の顧客は、儲かっている人が多いのか、損している人が多いのかがわかります。
(2)投資信託預り残高上位20銘柄のコスト・リターン‥‥手数料が高い商品ばかりを販売していないかがわかります。
(3)投資信託預り残高上位20銘柄のリスク・リターン‥‥リスクの高い商品ばかりを販売していないかがわかります。
自社の顧客の状況が、一目瞭然で比較できますので、まだ及び腰の所が多いようです。今後、公表する事業者が増えていけば、金融業者を選ぶ判断材料になるでしょう。
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ネット証券よりも金融機関の方が損失を出している人が多い?
金融庁では、主な大手行と地方銀行、合わせて29行をまとめたデータを公表しています。それによると、今年3月末時点の「運用損益別顧客比率」では、約55%の顧客は利益となっているものの、約46%の顧客は損失となっています。(四捨五入の関係で合計が100%となっていない)
これについては、「投資信託の運用をプロに任せてもマイナスとなってしまうのは、なぜ?」
でいくつかの原因を指摘しました。
先日は、インターネット専業の証券会社4社が合同で、同じ指標を公表しました。利益となっている顧客は63.8%で、損失は36.1%です。(同)
担当者が付き、投資アドバイスをしてくれる金融機関の方が、ネット証券よりも損失となっている人が多いのです。これは、アドバイスに問題がありそうです。
値上がりしているファンドは早めに売却を勧められる傾向がある
銀行や証券会社など、投資信託を販売している金融事業者は、投資信託(ファンド)を販売することで、販売手数料を得ています。常に新規資金を預け入れてくれるのであれば、すでに保有しているファンドを売却する必要はありません。
しかし、資金には限りがありますから、金融事業者は「今持っているファンドを売却して、別のファンドへ買い替えること」を勧めがちです。その際、値下がりしているファンドの売却は、顧客にとって抵抗があります。一方、利益となっているファンドでしたら、売却で利益を得られることもあり、顧客は乗り気になりやすいようです。そのため、値上がりしているファンドは、早めに売却を勧められる傾向があります。
今ではそんなことはないと思いますが、かつて私が証券会社で営業をしていた頃は、少しでも利益が出ると、売却あるいは他のファンドへの乗り換えを勧めることが美徳のような雰囲気がありました。その結果、残っているファンドはマイナスのものばかり、となります。
「運用損益別顧客比率」での数値が低いからといって、利益の出ている人が少ないとは限らない
ですから、「運用損益別顧客比率」での数値が低いからといって必ずしも利益の出ている人が少ないとは限りません。調査の対象は、調査時点で保有している投資信託が対象となっているからです。
ただ、次のことは言えるでしょう。「よい投資信託」は、分配金を出しながらも、継続して上昇していくファンドです。そのようなファンドをじっくり保有して、資産形成を図りたいなら、あまり金融事業者からのアドバイスは受けない方がよいのかもしれません。
出典:金融庁「顧客本位の業務運営に関する原則」
Text:村井 英一(むらい えいいち)
国際公認投資アナリスト