退職金2000万円で「NISA」を始めるという父。60代なら「貯金」のほうが安心だと思うけど、投資にまわすメリットはあるの? 注意点もあわせて解説
一方、「投資は元本割れのリスクがあるのでは?」「老後の生活資金として確保しておいたほうが安全では?」と感じる人も少なくないでしょう。特に、家族であれば不安に感じる人もいるのではないでしょうか。
退職金をNISAで運用することは、正しい選択なのでしょうか? 本記事ではNISAや資産運用の性質を考えながら、60代でNISAでの資産運用を始めることの是非について解説します。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
目次
NISAによる資産運用を始めるメリット 60歳からでは遅い?
仮に2000万円の退職金のうち、1800万円をNISAで運用した場合を考えてみましょう。NISAでは、成長投資枠とつみたて投資枠を併用し年間360万円まで投資商品を購入できるため、60歳から64歳までの5年間で360万円ずつ積み立て投資を行えます。
この1800万円を年3%の運用益で運用した場合、10年後には元本が約2282万円、20年後には約3067万円まで成長します。
なお、20年後に全額を利益確定して現金化する場合、1267万円の利益が出ているため、本来20%(2037年までは20.315%)に当たる約253万円を税金として支払わなければなりません。しかし、NISAを使えばこれが免除されます。
このように考えると、60歳からNISAによる資産運用を始めるのは決して遅すぎることはなく、むしろインフレ対策や資産価値の維持という観点からもメリットがあると言えそうです。
60代からNISAによる資産運用を始める際の注意点
NISAにはメリットがあるからといって、退職金の大部分をNISAで運用するのは非常に危険です。投資には必ずリスクが伴い、元本割れが発生する可能性があります。
例えば、2008年に発生したリーマンショックでは、世界株式の株価は最大で61%下落し、元の水準に回復するまでに6年を要しました。仮に、退職金の大部分をNISAに投資した後に大暴落が発生し、回復前に資金を取り崩す必要が生じると、大きな損失を抱えたまま現金化することになるのです。
野村アセットマネジメントの試算では、世界株式に投資した場合の保有年数別のリターン振れ幅は、5年後は-5%~21%、10年後は-2%~14%と元本割れの恐れがあるのに対し、15年後は3%~11%の間に収まっています。長く投資すればするほど元本割れのリスクが減ることが示されており、できれば15年前後の長期投資としたいところです。
また、NISAでは個別株を含むさまざまな金融商品に投資ができるため、銘柄選びが非常に重要です。ここで大切なのは分散で、国内外の株式や債券、不動産などにバランスよく投資することでリスクを下げられます。複数の投資信託を組み合わせるか、最初からバランスよく投資されている投資信託を選ぶようにしましょう。
NISAで運用する前に退職金を3つに分類しよう
ここまでNISAにはメリットがあるものの、退職金全額を運用することには大きなリスクが伴うことを解説しました。とはいえ、「退職金のうちの何%はNISAで運用して良い」などという確固たる基準は存在しません。それは、退職金の使い方が人それぞれ違うからです。
NISAで運用する前に、退職金を「すぐに使うお金」「使う予定が見込まれるお金」「使う予定がないお金」の3つに分類しましょう。
まず、すぐに使うお金としては、住宅ローンの返済やリフォーム費用、年金が入るまでの生活費などが挙げられます。これらのお金は当然NISAでの運用に回してはいけません。
次に、将来的に使う予定が見込まれるお金です。子どもの結婚資金や孫の教育費、家の修繕費、車の買い替え費用、そして旅行費用など10数年以内に使うことが見込まれるお金を洗い出しましょう。これもNISAで運用してはいけないお金となります。
前記した通り、資産運用のリターンが安定するまでには15年前後の時間が必要です。これらのお金を資産運用に回していると、いざ必要となったときに元本割れしている可能性があります。
最後に残ったお金が「使う予定がないお金」で、これは10数年以内に使う見込みがないお金となっているはずです。これらを、NISAを使った資産運用に回すことで、資産を増やすチャンスを得られます。
ただし、この「使う予定がないお金」の中でも、一部は現金預金として残しておくと良いでしょう。大きな病気や予定していない家の修繕費などで、まとまったお金が必要となる可能性があるからです。
このように、退職金の中で「使う予定がないお金」の一部だけをNISAで運用すれば、リスクを抑えつつ資産を効率よく増やせるでしょう。
退職金のうちNISAでの運用に使える資金を見極めよう
退職金をNISAで運用する際は、「すぐに使うお金」「使う予定が見込まれるお金」「使う予定がないお金」に分類することが重要です。
必要な資金を確保したうえで、「使う予定がないお金」だけをNISAで運用すれば、非課税メリットを享受しながら、リスクを抑えつつ資産を増やせる可能性があります。60代からでも長期運用が可能であり、インフレ対策や資産形成にNISAによる投資は有効な手段となるでしょう。
出典
金融庁 NISAを知る
執筆者:浜崎遥翔
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
