更新日: 2019.01.08 その他資産運用

〈柴沼投資塾〉少額インデクス投資入門⑧。地政学リスクって何?

〈柴沼投資塾〉少額インデクス投資入門⑧。地政学リスクって何?
 
 最近「地政学リスク」という単語を耳にする機会が増えてきました。今回は、この言葉の意味と、なぜ最近この言葉が使われるようになったのか? さらに、リスクというからには、運用するうえで避けなければならないことのような印象があるけれども、回避する方法があるのか? あるとすれば何か? について確認したいと思います。
 
柴沼直美

執筆者:柴沼直美(しばぬま なおみ)

CFP(R)認定者

大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
http://www.caripri.com

ある地域の政治的・軍事的問題が世界の金融市場の動向に波及するリスク

 

地政学リスクの定義を確認します。最初はある特定地域で発生した政治的、軍事的あるいは社会的な問題が、その地域とつながりの深い別地域を経由して世界的に大きく発展して経済の見通しにネガティブな影響を及ぼすものをいいます。きっかけは、2002年の米国によるイラク攻撃が金融市場を揺るがしたことに遡ります。一般的に、地域紛争とテロが地政学リスクの要因となります。

 

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ボーダレス時代に、特定の紛争だけで完結しなくなった

 

 「地政学リスク」という言葉が使われるようになったのは最近のことですが、その理由は、ボーダレス時代になったからです。ものやサービスの貿易だけでなく、マネーも国境を越えて激しく移動するようになっています。特にアラブ諸国の地域紛争や米国との紛争が激化すると、原油価格の乱高下から商品市況全般に波及し、それを通じて為替相場が動き、株式や債券相場が思わぬ方向に動き、ひいては世界経済全般の見通しに影響を及ぼすまで深刻化・長期化することがよくあります。2017年に入ってからは、北朝鮮の核実験が中国・台湾などの東アジア地域での不安定要因となり、相場に下押し圧力がかかったことが記憶に新しいですね。

 

地政学リスクが問題なのは、発生してからの波及効果が速く大きいこと

 

 地政学リスクが厄介なのは、問題が発生してから、世界的に波及するまでの時間がとても短く、しかも影響力が大きい点です。気象現象で例えるならば、例年起こる梅雨はあらかじめ予想がつくので、雨具を用意するとか不要な外出を控えるなどの措置を講じることができますが、急な大雨やそれに伴う災害は準備する余裕がないために被害も甚大になってしまいます。地政学リスクは後者に相当するため、あらかじめ万全の準備をすることがほとんど不可能です。「来るかもしれない」「来る」「来た」という間に大きく保有金融資産の評価額が下がってしまう、そこで「狼狽売り」になって大きな損失になってしまうという点です。このような経験を味わってしまうと、しばらく資産運用を再開する気が失せてしまい、その後のリバウンドの機会も逃してしまうというケースをよく聞きます。

 

地政学リスクへの対処方法は立ち向かわないこと

 

 ではどのようにすれば回避できるのか、という一番気になる点についてですが、これも実際の異常気象発生時と同様に考えればいいのです。1時間に150㎜を超えるような大雨が降ってしまえば、傘を差してもあまり役に立たないというのと同じで、地政学リスクによる相場の混乱が起こってしまうとどうしようもありません。

 

 ここで一番やってはいけないことは、狼狽売りです。「これは下げ止まらないから、傷が浅いうちに損切りしてしまおう」と売り急ぐことはお勧めしません。

 

 このような地政学リスクがもたらす金融市場の急落は鋭角的になりがちですが、これはいわゆるリスクオフという動きで「いつ収束するかわからないリスクにさらされている状態から早く脱却したい」ということからケリをつけたいと考えがちですが、金融商品の値動きは、入射角と反射角はあまり大きくかわらないと考えられており、このような地政学で大きく下げたあとは、本来の価値を大幅に下回ったと判断した投資家からの買いが入るのが常です。その時を待って利益確定売りをするなり、さらに保有するなり、皆様のお好きなスタンスで決めればいいと思います。この地政学リスクに伴う相場下落が想像以上に長く続きガマンも限界に近付いたタイミングで反転することもありますが、このときに出る売りを「やれやれ売り」と言っています。いずれにせよ、反転の時まで下手に立ち向かわないほうがいいですね。

最大の防衛手段は徹底的な分散投資

 

 

 そうは言っても、やはり不安要素はあらかじめ取り除いておきたい場合の処方箋ですが、投資の王道に立ち返り、分散投資を徹底させることにつきます。世界中が大混乱に陥る、直近でいえばリーマンショックのような例を除いて、ある金融商品が大きく下がったときには別の金融商品の価額が大きく上昇しているのが一般的です。もっともわかりやすい例でいえば、株式が下がったときに金価格が上昇することが多いです。「有事の金」ということで、企業業績のような人為的な価値に支えられているものは、平穏な時には素直に企業環境や業績予想を株価に織り込んでいくように価額が形成されていきますが、地政学が世界経済に大きく影響を及ぼすようになってくると、経済や政治情勢に関係なく需給で価額が決定する「金そのもの価値」にマネーが流れていくからです。

 

図_資産運用3

 したがって、資産としても株・債券・不動産(リート)・商品、通貨も先進国・新興国・国内と分散させれば、どこかが落ち込んだ時には、別の商品の上げで救われますから、皆様の資産は保全されます。最近では、このような商品も組み込んだバランス型ファンドもネットを通じて比較的安価で購入することができますので、一度試してみる価値はあると思います。

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