アメリカによる金利引き下げの目的と、日本への影響は?

配信日: 2020.04.30

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アメリカによる金利引き下げの目的と、日本への影響は?
2020年3月現在、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。本記事では、日々変わる情報に振り回されないように、ニュースの背景を分かりやすく解説します。今回は、「アメリカの金利引き下げ」を取り上げます。
 
酒井 乙

執筆者:酒井 乙(さかい きのと)

CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。  
 
長期に渡り離婚問題に苦しんだ経験から、財産に関する問題は、感情に惑わされず冷静な判断が必要なことを実感。  
 
人生の転機にある方へのサービス開発、提供を行うため、Z FinancialandAssociatesを設立。 
 

2020年3月16日、アメリカは政策金利を引き下げ、FF金利の目標レンジをゼロとした

3月16日、アメリカの中央銀行であるFRBから以下の政策が発表されました(※1)。
 
「(1)米連邦準備制度理事会(FRB)は、3月15日に臨時の(2)米連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、政策金利の(3)フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を、1~1.25%から1%下げて、0~0.25%へ引き下げた」 
 
「今回の決定は、新型コロナウイルスの拡大による世界経済への悪影響に対処した結果であり、今回の金利引き下げによって、(4)雇用と物価の安定を目指すものである」
 
このニュースを理解しやすくするために、番号順に単語の意味を解説します。

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連邦準備制度の仕組みとFF金利の意味を知ろう

まず、(1)米連邦準備制度理事会(FRB)とは何でしょうか?
 


 
主な国家には、その国の中央銀行が存在します。日本でいえば日本銀行であり、アメリカ合衆国では、前述の(1)連邦準備制度理事会、(2)連邦公開市場委員会、(3)全米に12行ある連邦準備銀行で構成される連邦準備制度がそれにあたります。
 
12行の連邦準備銀行全体を監督しているのはFRBです。7人の理事で構成され、そのトップは2020年3月現在、パウエル議長です。
 
さらに、FRBのメンバー全員と5人の連邦準備銀行総裁(うち1名は副総裁)で構成される(2)米連邦公開市場委員会(FOMC)が、アメリカの金融政策を決定するために年8回の定例会合を開催します。
 
2020年3月の定例会合は3月17、18日でしたが、今回は新型コロナウイルス感染症の拡大という前例のない事態から、アメリカ経済への大きな悪影響が懸念されたため、3月3日に前倒しで開催し、0.5%の利下げを決定しました。
 
さらに、ウイルスの感染拡大が世界経済全体へ影響を及ぼすことが懸念されたことなどから、15日にも臨時で開催し、計2日間で1.5%の利下げを決定しました。
 
それでは、(3)フェデラル・ファンド(FF)金利とは何でしょうか?
 
この金利はアメリカの政策金利であり、アメリカ経済を左右する最も重要な金利です。アメリカの市中銀行は、保有する預金額の一定割合を連邦準備銀行に預けることが法律によって義務づけられており、日々その預金割合を維持するため、銀行間で資金を貸し借りしています。
 
この銀行間で決まる金利がFF金利であり、連邦準備銀行は、今回この金利を0%近くになるよう誘導した、ということになります。

FF金利引き下げで、アメリカ経済の後退懸念に対してどんな効果が期待されるのか理解しよう

連邦準備銀行がFF金利を引き下げると、市中銀行が企業や個人に貸し出す資金の金利が低下します。それでは、FRBは金利引き下げによって、具体的にどのような効果を期待しているのでしょうか?
 


 
企業や個人は、銀行などからより資金を借りやすくなり、買い物や投資に資金を充当しやすくなります。すると、製品や商品の価格安定につながり、企業の業績の悪化を食い止め、雇用を維持し、働く人の給与が守られます。
 
実際に金利引き下げ効果が出始めれば、ますます企業や個人は出費を行うようになり、景気のさらなる安定につながります。これが、前述のニュースにある(4)雇用と物価の安定です。
 
つまり、今回の新型コロナウイルス蔓延によって脅かされるアメリカの雇用と物価の立て直しが、FF金利を0%まで引き下げる最大の目的です。ただし、これはあくまで連邦準備銀行が意図するシナリオにすぎず、実際に雇用と物価の安定につながるかは、まったくの不透明です。

FF金利引き下げが日本に与える影響を理解しよう

それでは、日本にとって、この金利の引き下げはどのような影響があるのでしょうか? 
 


 
アメリカの景気が日本の経済に影響を与える要因はさまざまですが、一例として日本からの製品やサービスの輸出があります。その輸出先は、2018年現在、中国に続いて、アメリカが第2位です(図3)。
 
主要な輸出品は、景気の影響を受けやすい自動車とその部品、およびエンジンなどの原動機で輸出額の40%以上を占めており(※3)、アメリカの景気が日本の景気に大きな影響を与えることを示唆しています。
 
また、アメリカの景気は中国、韓国や台湾など、日本の重要な貿易相手国であるアジア諸国やヨーロッパなどの経済にも大きな影響を与えるため、アメリカの利下げによりアメリカの景気が下支えされる効果は、単に対アメリカとの貿易だけでなく、日本の主要な貿易すべてに大きな影響を与えるといえるでしょう。

金利引き下げによる効果は時間がかかる

ここまで、アメリカの利下げが日本の経済に大きな影響を与えることを解説しましたが、現実はそう単純ではありません。FOMCの発表の翌日、アメリカの代表的な株価指数であるダウ・ジョーンズ工業株価平均は、過去最大の下落幅を記録しました。
 
本来、利下げは景気の下支えになると市場関係者は好感して、株価上昇要因となり得る材料ですが、その後の株価の乱高下から考えると、今後の経済の見通しは、まだまだ不透明といわざるを得ません。 
 
利下げの効果が実際の経済に現れるまでには長い時間がかかり、またその効果も未知数です。短期的なニュースに惑わされそうになったとき、本記事の内容を思い出していただければ幸いです。
 
(出典)
(※1)2020年3月15日付、米連邦公開準備委員会声明文を要約「Federal Reserve issues FOMC statement」
(※2)財務省貿易統計「輸出相手国上位10カ国の推移(年ベース)」2018年貿易相手先国上位10カ国の推移
(※3)財務省貿易統計「対米国主要輸出品の推移(年ベース)」2018年主要輸出品の推移(米国)
 
執筆者:酒井 乙
AFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。


 

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