「お金は低いところから高いところに流れる」の本当の意味とは?
配信日: 2020.10.28
資産運用について学ぶ際に往々にして用いられるフレーズです。お金は金利が低いところよりも高いところを好むという意味ですが、これを理由に「だから、資産運用をしましょう」というのはどういうことなのでしょうか。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
人は高い金利や高い利回りを選ぼうとする
確かに、今のような低い金利では銀行にお金を預けてもほとんど増えることはないでしょう。だからといって、金融商品で運用して増やしましょうといわれても、リスクがあるので損するかもしれないと思います。
それでも資産運用をしましょうといわれ続けているのはなぜでしょうか。この理由に、「お金は低いところから高いところに流れる」の答えがあります。ポイントは「金利」と「利回り」です。
現状では銀行に預けた場合、ほぼゼロ金利です。このような状況では、何かの目的のために、例えば子どもの進学資金や老後の資金などを準備するといった目的で普通預金に預けっぱなしにしても、ほぼお金は貯まりません。だから、人はもっと金利の高い金融商品にお金を預けようとします。子どもの進学資金なら、昔からいわれていますが学資保険がその典型かもしれません。
しかし、学資保険についてはマイナス金利政策を実施している今のような状況では、かつてほどうまみはなく、下手をすれば元本割れを起こしている学資保険も存在することから、これに気付いている人はもっと良い金融商品を探そうと試みます。
そこで2016年以降、外貨建ての保険を10年後に解約し、解約返戻金を子どもの進学資金に充てていきましょうという動きが出てきました。しかし、これについては為替リスクが伴うため、また説明不足という問題や国税庁からの指摘も含め、今に至っては子どもの進学資金を備えるために果たしてふさわしいかどうかという疑問も残ります。
そして、それも無理ならどうしようかということで、例えば大企業の発行している社債を購入しようという動きもあります。社債の金利は企業によって異なりますが、例えば年間2.0%や3.0%といったものが存在し、子どもの進学資金を準備する方法としては満期まで保有するといった長期運用ができるほか、大手の上場企業であるという安心感もあるため、金利が低いものに預けるよりはマシということでニーズが広がってきているように思います。
つまり、「お金は低いところから高いところに流れる」というのは、人々のリスク選考と関係しているわけです。
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人はもっと高い利回りを求めようとする
しかしこれだけでは、なぜ株式や投資信託などのように比較的リスクのある資産運用を勧められるのか、よく分かりません。
前述したように企業の発行する社債がある程度の金利をつけているならば、それで安定的に運用すればいいわけです。それでもなお、リスクを取ってまで資産運用をすることがなぜ積極的に勧められるのでしょうか。この理由はマーケットの習性に基づいています。
マーケットにおいて、金利は往々にして10年物国債の利回りがその指標として用いられます。景気が良くなると10年物国債の利回りは上がり、景気が悪くなると下がる傾向があります。
10年物国債は国債の一種ですが、国債には価格があります。10年物国債の利回りが高くなるときは、国債価格は下落し、逆に10年物国債の利回りが低くなるときは、国債価格は上昇します。
つまり、景気が良くなると国債が売られて利回りが上昇、景気が悪くなると国債が買われて利回りが下落する、という関係性が成り立っています。今のようなコロナ禍においては、景気が悪い状況であるため国債が買われ、利回りは下がっているという状況です。
国債が買われているのは安全資産へのニーズが高まっていることが背景にありますが、こればかりに投資していても利回りが低いので、お金はなかなか増えません。
このため、同時発生的にリスクを求めて株式市場などの資産市場に資金(マネー)が流入していきます。これは国債を買うよりも、さらによい利回りを求めての動きです。この現象が「お金は低いところから高いところに流れる」という意味です。
「物言う株主」の存在
それでも資産運用を勧められる理由としては、いまいち納得が得られません。お金(マネー)が株式などの資産市場に向かいやすくなるという理由は分かっても、どうしてそこまで資産運用が大切なのかには合点がいかないこともあるでしょう。この答えを探るには、企業会計基準について知る必要があります。
現在の企業会計基準によると、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表の開示目的は、ステークホルダー(利害関係者)である債権者や株主に対して正確な企業情報を伝達するためとされています。以前よく話題になりましたが、「物言う株主」という言葉がはやりました。株主に対して正確な財務諸表を開示した結果、必要以上に提案や要求、批判などをする株主が増えたという皮肉が込められています。
元来、企業活動は費用を消費した結果、収益が発生し、利益を生み出すことを目的としています。この一連の流れは損益計算書に記されますが、生み出された利益は貸借対照表上の繰越利益剰余金として毎年計上されていきます。
この繰越利益剰余金の向かう先が最終的に株主への配当原資になる可能性があるため、株主にとっては、やれ「配当を増やせ」だの、やれ「効率的な経営をしろ」だの、やれ「企業価値を高めよ」だの、積極的に意見するための根拠となっています。
企業会計基準においては、以前は株主をそこまで重視するような会計観ではありませんでした。しかし国際基準により、2006年、概念フレームワークという新たな枠組みが整えられたことで行き過ぎた株主至上主義が生まれました。それ以降、企業活動は最終的に株主の配当回収可能性を高めることが一つの目的になっているという拡大解釈が行われ、現在に至っています。
このように見ると、国際的な会計基準が日本においても採用されるようになったことで、日本の会計基準に新たな枠組みが生まれ、これが株主にとって都合のいいように解釈されてきた経緯があることが分かります。これは、いわゆる会計のグローバル化といっても過言ではありませんが、ここにもグローバリズムの影響が及んでいるということなのかもしれません。
企業が効率的な経営を重視するようになっていることや、国が生産性向上を景気回復の手段としていることなどを考えると、結局は株主に対する利益の最大化を目指していると映ってしまうことも致し方ないでしょう。
まとめ
このような流れに資産運用を当てはめると、必然的に株式市場などの資産市場に積極的に資金(マネー)を投入した方が長い目で見て得であると思えます。なぜならば、企業会計の枠組みが株主に対する利益の最大化に向けられているからです。
つまり、長期的に企業は株主を見ながら経営を行い、株主のために利益を出し続ける運用手段としての存在になっていくという意味です。このため、例えば株式投資をする場合は優良企業を物色し、長期的な視点でその企業に対して資金を投ずることを是とすればいいわけです。
少しうがった見方かもしれませんが、「お金は低いところから高いところに流れる」というフレーズは、かつて用いられていた「高い金利や高い利回りが期待できる金融商品で運用しましょう」という意味から、今ではグローバル化に伴う企業会計基準の拡大解釈によって敷かれたレール、つまり「株主至上主義の波に乗っておきましょう」という意味に変質しているような気がします。
当たり前のことですが、資産運用はしたければすればいいですし、したくなければしなくていいと思います。ただ、前述した大きな流れの中で資産運用がその手段として組み込まれてしまっている以上、銀行にお金を預けるよりも何らかの金融商品で運用した方が、長い目で見てお金が増える可能性は高いといえるのではないでしょうか。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)