更新日: 2024.10.10 働き方
「起業」は30年前と比べてどう変わった? 費用や年代を比較
なお、「起業」と「開業」は若干意味合いの違う言葉ですが、自分で事業を始めるということには変わらないと判断して、今回は同じ意味合いとして使います。そもそも30年前は起業という言葉もあまり使われなかった記憶があります。
30年前、筆者も法人を設立しましたが、その頃は銀行に法人口座を開くのがひと苦労でした。最低資本金も株式会社は1000万円以上と定められていて、筆者は有限会社を選択しました(現在、有限会社という法人設立はできなくなり合同会社が小規模起業に選ばれることが多いです)。
その頃は、インターネットやコワーキングスペースなども普及しておらず、起業するとことは「事務所を借りて、電話を引き、電話番のスタッフを雇うこと」のようなイメージがありました。
その頃の起業(開業)事情と現在を比較して見たいと思います。
執筆者:藤木俊明(ふじき としあき)
副業評論家
明治大学リバティアカデミー講師
ビジネスコンテンツ制作の有限会社ガーデンシティ・プランニングを28年間経営。その実績から明治大学リバティアカデミーでライティングの講師をつとめています。7年前から「ローリスク独立」の執筆活動をはじめ、副業・起業関連の記事を夕刊フジ、東洋経済などに寄稿しています。副業解禁時代を迎え、「収入の多角化」こそほんとうの働き方改革だと考えています。
30年前の開業費用はどうだった?
日本政策金融公庫の「2022年度新規開業実態調査」(2022年11月)を参考に30年前の開業状況と現在の違いを考えます。
まず、「かかったお金」です。開業費用に「2000万円以上」かかった人の割合はどうでしょうか?
・1992年 21.5%
・2022年 10.5%
30年後は半分以下になりました。
では、「1000万円以上2000万円未満」の比率はどうでしょうか?
・1992年 26.8%
・2022年 18.0%
やはり8ポイント程度減っています。
比べて見ると、やはり1992年では開業に1000万円以上かかった場合は約50%。つまり「30年前、会社を始めるには1000万円かかるのはふつう」だったという記憶はそんなに違っていなかったようです。
ところが2022年になると、1000万円以上かかったという人の割合は3割にも満たないようです。ではもっと小規模に、「500万円未満」で開業した人の割合はどうでしょうか?
・1992年 22.4%
・2022年 43.1%(そのうち250万円未満で開業した人は21.7%)
ほぼ倍増しています。30年間のうち、開業するコストはぐっと下がり、4割の人は500万円未満で、2割の人は250万円未満の予算で開業しているようです。
30年前、開業した人の年代はどうだった?
それでは起業した時の「年代」はどう変わったのでしょうか? 「29歳代以下・30歳代」「50歳代」「60歳代以上」の3つを見てみましょう。
・1992年 52.6%
・2022年 37.9%
・1992年 9.0%
・2022年 19.3%
・1992年 1.7%
・2022年 7.5%
これは日本全体で少子高齢化が急速に進んでいるという背景がありますので、そこを加味して見なくてはと思うのですが、それにしても「50代以上で開業する人の割合が増えた」という感じですよね。2022年では合わせて26.8%。つまり現在では、開業する人の4人に1人は50代以上です。
起業にかかる金銭的負担が軽くなったから、シニア世代になっても起業する人も増えてきたのではないかという仮説も立てられそうです。
ただ、「近年、起業する若い人が増えたな」と思っていたのですが、30年前は30歳代以下で開業する人が半分以上だったのですね。むしろ30年前の方が起業者に占める若い人の比率は高かったのです。
30年前、開業した人の男女比はどうだった?
それでは開業した時の「性別」はどう変わったのでしょうか?
・1992年 女性 12.9%/男性 87.1%
・2022年 女性 24.5%/男性 75.5%
現在では女性の比率がぐっと上がっています。ほぼ倍増です。しかし、それでも開業(起業)する人の4人に3人は男性なのです。
実は起業希望者自体は減っている
こうして見ると、30年前に比べ、起業・開業のハードルが下がり、女性・シニアでも独立開業しやすくなってきたとも読めますが、喜んではいられません。中小企業庁の2020年版中小企業白書によると、起業希望者は減っているのです。
・2007年 101.4万人
・2017年 72.5万人
もちろん、ハードルが下がった、コストがかからなくなったとは言え起業・開業にはリスクがつきもので安易におすすめできるものではありません。
しかし、そのリスクを下げること。とくに「失敗してもやり直しやすくする」ような風土が醸成されたり、具体的な施策が実施されれば、もっと起業希望者を増やすこともできるのではないでしょうか。
出典
日本政策金融公庫 2022年度新規開業実態調査
中小企業庁 2020年版中小企業白書(HTML版)第3章中小企業・小規模事業者の新陳代謝第3節多様な起業の実態
執筆者:藤木俊明
副業評論家