更新日: 2024.10.10 働き方

先月から残業が増え、収入が「130万円」を超えそうです。もう扶養を外れるしかないでしょうか?

先月から残業が増え、収入が「130万円」を超えそうです。もう扶養を外れるしかないでしょうか?
「扶養内で働きたい」という人は少なくありません。収入が扶養の範囲を超えれば自分で社会保険料を支払うことになり、手取り額が少なくなるためです。この「扶養」ですが、社会保険と所得税とでは収入の範囲や年収の考え方が違うのをご存じでしょうか? 本記事では、社会保険の扶養について、所得税との違いを交えながら解説します。
橋本典子

執筆者:橋本典子(はしもと のりこ)

特定社会保険労務士・FP1級技能士

130万円と106万円

まず社会保険の「扶養の壁」といわれる130万円と106万円について、基本を確認してみましょう。なお本記事では、例として扶養者を「夫」、被扶養者を「妻」と表記します(夫と妻が逆でも、内容は同じです)。
 

「収入130万円以上」で扶養から外れる

扶養に入っている妻の収入が増え、1年で130万円以上(妻が60歳以上、または一定の障害がある場合は180万円以上)になったときは、扶養から外れなければなりません。
 
この場合、妻は勤め先の社会保険に加入するか、国民健康保険・国民年金に入るかになります。妻の職業はパートに限らず、自営業や年金・給付金受給者のこともあります。
 

「パート収入106万円」なら自分で社保加入

妻のパート先が従業員数101人以上の会社の場合、一定要件を満たすと自分で社会保険に入る必要があります。そしてその結果、夫の扶養から外れることになります。社会保険の加入義務が発生するのは次の全てに当てはまる場合です。
 

・1週の所定労働時間が20時間以上
・1ヶ月の給料が8万8000円以上(年収換算で106万円以上)
・2ヶ月を超える雇用の見込み
・学生でない
・勤務先企業の社会保険被保険者数が101人以上

 
なお、最後の「101人以上」の要件は、2024年10月から「51人以上」となります。
 

所得税と異なる社会保険の「扶養」

秋になると「このままだと今年の収入が扶養の範囲を超えてしまう」と、パートのシフトを減らす人がいます。確かに所得税の配偶者控除のためには、年末までの収入調整が必要かもしれません。しかし社会保険の扶養は、少々考え方が違います。
 

「1年」の考え方が違う

所得税の配偶者控除については暦年で考えます。1月から12月までの妻の所得により、夫が配偶者控除を受けられるかが決まるのです。
 
しかし社会保険の扶養における「1年」は暦年ではなく、現在から未来に向けてのものです。今の収入が1年続いた場合の見込み額によって、被扶養者に該当するかを決めるのです。
 
わかりやすい例として「月給20万円の妻が10月末に退職した」と考えてみてください。この妻の1月から退職までの収入は200万円で、130万円を大きく超えています。しかし(妻が失業給付をもらわなければ)退職日の翌日から夫の社会保険の扶養に入れます。なぜなら妻の11月1日以降の収入は0円だからです。
 

収入の中身が違う

また、社会保険の扶養と所得税の配偶者控除では、妻の収入の「中身」が違います。
 
所得税の配偶者控除は、妻の「課税収入(所得)」で判断します。そのため非課税である通勤定期代や失業給付などは、妻の収入に入れません。
 
一方、社会保険の扶養は、上に挙げた非課税の収入も含めて計算します。具体的には、非課税の通勤手当、失業給付、傷病手当金、各種の公的年金など、より広い範囲が妻の収入としてカウントされるのです。
 

臨時の収入増加は?

そして社会保険の扶養を考えるとき、妻の「予測できない一時的な収入増加」は、原則として除外します。前述のとおり「今の収入が続いたら1年130万円(180万円)以上になるか」で判断するため、予測不能な臨時の収入増は参考外になるのです。
 
なお、2023年10月に始まる政府の施策でも「一時的に年収が130万円以上となる場合には(中略)一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、迅速な被扶養者認定を可能とする」とされています。
 
「収入増加が一時的なものなら扶養を外さなくてよい」という考え方は従来からありましたが、今回「事業主が証明することで」との手続きが明確にされたことで、扶養の要件がよりわかりやすくなったといえるでしょう。
 

まとめ

社会保険の扶養は1月から12月までの合計収入で判定するわけではないため、「先月から残業が増え、今年の収入が扶養の範囲を超えそう」だからと、年末までの収入を調整する必要はありません。この人が社会保険の扶養を外れるかどうかは、その収入増加が臨時的なものか否かによって決まります。
 
扶養内で働くのも扶養から出て働くのも、一長一短です。働き方は人それぞれ。自分に合った働き方をみつけましょう。
 

出典

全国健康保険協会 被扶養者とは?
日本年金機構 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内
厚生労働省 被扶養者の収入の確認における留意点について(再周知)
国税庁 No.1191 配偶者控除
厚生労働省 「年収の壁・支援強化パッケージ」について
 
執筆者:橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士

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