年収600万円の会社員。年収の壁が「123万→160万円」に引き上げられ喜んだのもつかの間、友人から「君の場合は133万円の壁だね」と言われた! 一体どういうこと? 友人の勘違いですよね?
納税者にとっては納める税金が少なくなりうれしいと思うかもしれませんが、160万円の壁への引き上げが影響しない人もいることを知っていますか。また、影響しない人がいるからといって、今回のケースの友人が言うように「人によって年収の壁が変わる」というのも誤解です。
本記事では、所得税の年収の壁が160万円に改定されることによる影響について解説します。
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年収123万円の壁とは?
「123万円の壁」は、所得税の支払いが発生する年収を指す言葉です。現在の壁となる年収は103万円ですが、2024年12月公表の令和7年度税制改正大綱で123万円への引き上げが明記され話題になりました。
年収の壁を超えると所得税が発生する理由は、所得を算出するときに収入から差し引く控除が関係しています。控除の内容は扶養親族の有無など、さまざまな要素で人によって変わりますが、多くの給与所得者には少なくとも次の2つの控除が認められています。
・給与所得控除:55万円
・基礎控除:48万円(所得2400万円以下の場合)
給与所得控除と基礎控除の合計である103万円よりも収入が上回ると、所得税の納税が必要になります。123万円の壁への引き上げの議論では、給与所得控除、基礎控除それぞれが10万円ずつ引き上がることが想定されていました。
年収の壁を160万円に引き上げる仕組みは基礎控除の見直し
2025年3月4日の衆院本会議で可決された税制改正関連法案では、123万円の壁が修正され、160万円の壁となっています。160万円への引き上げには、基礎控除額が影響しています。
年収850万円以下の人を対象に、4段階の基礎控除額を設けることが検討されており、具体的な年収別の基礎控除額は次の通りです。
・年収200万円以下:95万円
・年収200万円超え~475万円以下:88万円
・年収475万円超え~665万円以下:68万円
・年収655万円超え~850万円以下:63万円
つまり、新しい年収の壁である160万円とは、給与所得控除の最低保障額65万円(現行から10万円の引き上げ)と、基礎控除の最大額である95万円を合計した金額なのです。
なお、上記の基礎控除額が適用される期間も、年収別で差があります。年収200万円以下の人に対しては恒久的な措置ですが、それ以外の年収区分に対する措置は、2年間の期限が設けられています。
年収の壁が人によって異なるというのは間違い
基礎控除が年収別になることで、今回のケースの友人の言うように、例えば、年収600万円の人は基礎控除68万円と給与所得控除65万円を合算して、133万円が年収の壁かというとそうではありません。
今回のケースの友人の勘違いは、給与所得控除に関する理解不足から来るものです。現行の給与所得控除は年収によって図表1のように控除額が異なります。
図表1
国税庁 No.1410 給与所得控除 より筆者作成
年収600万円の人で計算すると、給与所得控除は164万円です。そこに先ほどの基礎控除68万円を合計すると、232万円が理論上の年収の壁ということになります。
しかし、年収の壁とはそもそも所得税が発生する年収を指す言葉です。今回の試算のように、年収が控除額を上回ると所得税が発生するため、これを「年収の壁」と呼ぶにはふさわしくないでしょう。あくまでも本来の意味での年収の壁は160万円の壁のみです。
年収の壁に関する話題に対して正しい認識を持とう
審議中の税制改正関連法案が承認されれば、所得税に関する年収の壁は160万円になります。現行との違いは、給与所得控除の最低保障額を55万円から10万円引き上げることと、基礎控除を年収別に最大95万円まで引き上げることです。
基礎控除の引き上げは、年収の壁を超えないように働く時間を制限している人だけでなく、年収850万円以下の人に対して減税効果があります。
年収の壁の仕組みは複雑で、言葉が一人歩きしがちです。言葉に惑わされず、改正の内容をしっかり認識して、自分に影響があることかどうかを判断しましょう。
出典
財務省 令和7年度税制改正の大綱
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー

