派遣社員「時給1900円」で働く娘。「残業もないしラク」とのことですが、このまま“正社員”にならず大丈夫でしょうか?「生涯賃金」やメリット・デメリットを比較
高時給で一見恵まれた働き方に見えても、将来の収入や雇用の安定性、生涯にわたるキャリア形成を考えると、正社員との違いが気になるところでしょう。
本記事では、派遣社員としての時給1900円の収入を同年代の正社員と比較し、生涯賃金の差、派遣社員として働くことのメリット・デメリットを整理して解説します。
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時給1900円って高いの? 年収だとどのくらい?
時給1900円と聞くと、学生アルバイトと比べるとかなり高収入のように感じられるかもしれません。例えば、1日8時間・年間240日働いた場合の年収は、364万8000円になります。
この水準は、国税庁の「令和5年分民間給与実態統計調査」の20~24歳女性の平均年収253万円、25~29歳女性の平均353万円を上回っており、同世代と比べて高い水準にあるといえるでしょう。
さらに、残業がなく働きやすい環境であれば、ワークライフバランスの面でも恵まれていると考えられます。ただし、この年収はあくまで年間を通じて安定的に働けた場合の試算です。
派遣社員の場合、契約の更新や派遣先の都合によって就業が中断する可能性もあり、そのリスクは常に念頭に置く必要があります。
正社員と派遣社員の生涯賃金の差は?
単年の収入では大きな差がないように見えても、生涯賃金という長期的な視点で比較すると、派遣社員と正社員の間には明確な格差があります。
ニッセイ基礎研究所の調査によれば、大学卒の正社員女性が60歳まで勤務した場合の生涯賃金は、出産を経験しないケースでおよそ2億5183万円とされています。一方、年収364万8000円の派遣社員のままで60歳まで働いた場合は、1億3862万円にとどまるため、その差は1億円以上にのぼります。
この大きな差は、定期的な昇給や賞与、退職金の有無が主な要因です。派遣社員にはこれらが支給されないことが一般的であるため、年々その差は広がっていきます。さらに、将来の年金受給にも影響が生じます。
派遣社員であっても社会保険に加入していれば厚生年金の対象となりますが、労働時間が短い場合や加入要件を満たさない場合は国民年金のみとなり、老後の受給額が正社員と大きく異なる可能性があります。
派遣社員として働くメリットとデメリット
派遣という働き方には、柔軟性や働きやすさといったメリットがあります。残業が少なく、定時で退社しやすいため、プライベートの時間を確保しやすいのが特徴です。
また、勤務地や職種を選びやすく、自分のスキルや希望条件に合った仕事を見つけやすいという利点もあります。専門的なスキルや経験があれば、それを生かして即戦力として働くことも可能です。
一方で、安定性に欠けるという課題もあります。契約は一定期間ごとに更新されるため、一度契約が途切れると、すぐに次の職場が見つかる保証はありません。昇給や昇進の制度が整っていないケースも多く、長期的なキャリア形成は難しいでしょう。また、雇用形態によっては社会的信用が低く見なされ、クレジットカードや住宅ローンの審査で不利になる場合もあります。
若いうちは、こうした働き方の自由さや気軽さが魅力に映るかもしれませんが、年齢を重ねるにつれて、再就職の難しさや収入面での不安が現実味を帯びてきます。親としては、老後資金や年金制度を含めた将来設計の視点から、不安を抱くのも無理はありません。
まとめ
時給1900円という条件は、派遣社員としては高待遇であり、働きやすさを重視する若者にとって魅力的な選択肢といえます。ただし、年収が同等でも、生涯にわたる収入の差や将来の生活基盤を考慮すると、正社員との違いは無視できません。
親としては、派遣という働き方を頭ごなしに否定するのではなく、現実的な課題を冷静に伝えたうえで、子どもが将来をどう描くのかを一緒に考える姿勢が大切です。働き方の選択肢が多様化する今だからこそ、納得のいくキャリアと生活設計ができるよう、対話を通じてサポートしてあげることが必要なのかもしれません。
出典
国税庁 令和5年分民間給与実態統計調査結果-調査結果報告-
ニッセイ基礎研究所 大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計(令和5年調査より)-正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並で3億円超
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
