「最低賃金1500円」は本当に実現する? 約22%引き上げが「失業率」に与える“副作用”を、データをもとにシミュレーション
本記事では、東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)の研究結果をもとに、「もし東京の最低賃金が1500円になったら失業率はどうなるのか?」を試算してみます。
FP2級、WEBライター検定3級、情報処理安全確保支援士、ネットワークスペシャリスト
最低賃金1500円って、ホントに実現するの?
最低賃金1500円という数字は、労働団体や一部の政治家から繰り返し提案されてきた目標です。背景には、物価高や生活費の上昇があります。
現在、日本全国の最低賃金はおおむね1000円前後で、最も高い東京都では2025年10月から1226円になる予定です。つまり1500円を目指すには、さらに約22%の引き上げが必要です。
賃金アップは、働く側にとって収入の安定や消費拡大につながる歓迎すべき動きです。しかし、企業にとっては人件費の増加という負担が大きくのしかかります。特に中小企業や人手を多く抱える業種では、コストを吸収できず雇用調整に踏み切るケースも考えられます。必ずしも「賃金アップ=バラ色の未来」とは言い切れないのです。
最低賃金の上昇で失業率が上がる可能性も?
UTMDが公開したレポートでは、スキマバイトサービスアプリ「タイミー」から提供されたデータをもとに、最低賃金引き上げの影響が分析されました。
その結果、最低賃金が1%上がると雇用は約0.39%減少するという相関関係が確認されています。特に、もともと最低賃金ぎりぎりの仕事は減少幅が大きくなりやすい傾向がありました。
これは、賃金を一気に引き上げるのが難しい事業者が、求人そのものを取りやめたり、採用人数を削減したりするためです。結果として、低賃金帯の仕事ほど影響を受けやすくなるのです。
東京で1500円にしたら失業率はこうなる!?
では、東京の最低賃金を1500円に引き上げると、失業率はどうなるでしょうか。
東京の最低賃金を1226円から1500円に引き上げると、その上昇率は約22%です。UTMDの推計(最低賃金が1%上がると雇用は約0.39%減少する)を当てはめると、影響を受ける賃金帯の雇用は約8.6%減少することになります。
この層が労働力人口の10%に当たれば、失業率は+0.9ポイント。20%なら+1.7ポイント、30%なら+2.6ポイント上昇する計算です。
東京都の失業率が現在2.6%だとすると、20%シナリオでは約4.3%に跳ね上がる可能性があります。もちろん、実際にはほかの仕事に移ったり、勤務時間を調整して働き続けたりする人も多いため、これはあくまで理論上の試算に過ぎません。
まとめ
最低賃金1500円は、生活水準の向上という意味では前向きな目標です。しかしUTMDの研究が示すように、急激な引き上げは雇用減少や失業率上昇といった副作用を招く恐れがあります。
政府は2020年代のうちに1500円を目指すとしていますが、その実現には賃金アップと雇用維持を両立させる制度設計が不可欠です。補助金や税制支援、労働者のスキルアップ支援など「中身の伴った引き上げ」があってこそ、目標は現実のものとなるでしょう。
出典
東京大学マーケットデザインセンター(UTMD) [UTMD-089] Who Bears the Cost? High-Frequency Evidence on Minimum Wage Effects and Amenity Pass-Through in Spot Labor Markets (by Hayato Kanayama, Sho Miyaji, Suguru Otani)
東京都 東京の労働力(労働力調査結果)令和6年平均結果
執筆者 : 金田サトシ
FP2級、WEBライター検定3級、情報処理安全確保支援士、ネットワークスペシャリスト
