金融機関で働く友人が「年収1500万円」だそうです。税金も高そうですが、年収1500万円の場合、手取りはどれくらいなのでしょうか?
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
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手取り額とは
手取りの年間収入は、下式のとおり、給与収入額から所得税、社会保険料および住民税を差し引いた額になります。
年間収入-(社会保険料+所得税+住民税)=年間の手取り額(可処分所得)
手取り額は可処分所得とも呼ばれ、本人が自由に使えるお金です。生活費や娯楽費などに充てたり、余剰金を預貯金や投資に回したりすることができます。ここからは、年収から手取り額を算出するために、税金と社会保険料の額を計算する方法を、モデルケースを用いて解説します。
銀行員(45歳、独身)
年収1500万円(内訳:月給90万円、ボーナス1回210万円×2回)
社会保険料の求め方
収入に応じて算出される厚生年金保険料と健康保険料が、社会保険料として月給と賞与から差し引かれます。
1. 標準報酬月額と標準賞与額
社会保険料の計算には、実際の月給や賞与額ではなく、標準報酬月額および標準賞与額が用いられます。
標準報酬月額は、給与を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて決定されます。現在、厚生年金保険料の計算に用いられる標準報酬月額は、1等級(8万8000円)から32等級(65万円)までの32等級に区分されています(※1)。
また、健康保険の保険料計算に用いられる標準報酬月額は、1等級(5万8000円)から50等級(139万円)までの50等級に区分されています(※2)。
標準賞与額は、実際の税引き前の賞与額から1000円未満の端数を切り捨てた金額となります。厚生年金保険料の計算に用いられる標準賞与額の上限は1回150万円、健康保険料の計算に用いられる標準賞与額の年間上限は573万円です。
2. 厚生年金保険料の算出
厚生年金保険料の金額は、標準報酬月額および標準賞与額に定率の保険料率18.3%を掛けて求められ、労使で折半して支払います。したがって、被保険者が支払う厚生年金の保険料は次の式で算出されます(※1)。
厚生年金保険料=標準報酬月額×18.3%×1/2
厚生年金保険料=標準賞与額×18.3%×1/2
モデルケースの場合、標準報酬月額は上限の32等級(65万円)、標準賞与額は各回上限の150万円となります。したがって、厚生年金保険料の金額は下記のとおり、毎月5万9475円、賞与1回当たり13万7250円が徴収され、年間合計は98万8200円となります。
毎月の厚生年金保険料:65万円×18.3%×1/2=5万9475円
賞与の厚生年金保険料:150万円×18.3%×1/2=13万7250円
年間合計:5万9475円×12ヶ月+13万7250円×2回=98万8200円
3. 健康保険料の算出
健康保険料の額は、標準報酬月額および標準賞与額に所属する健康保険組合が定める保険料率を掛けて求められ、労使で折半して支払います。したがって、被保険者が支払う健康保険料は次の式で算出されます(※2)。
なお、40歳以上の介護保険第2号被保険者は、健康保険料に介護保険料が上乗せされます。
健康保険料=標準報酬月額×保険料率×1/2
健康保険料=標準賞与額×保険料率×1/2
ここでは、多くの中小企業が加盟する全国健康保険協会(協会けんぽ)の保険料率(※2:東京支部)9.91%、および介護保険第2号被保険者の保険料率11.50%を用いて、モデルケースの健康保険料を計算します。
標準報酬月額は41等級(88万円)、標準賞与額は各回210万円となります。したがって、健康保険料の金額は下記のとおり、毎月5万600円、賞与1回当たり12万750円が徴収され、年間合計は84万8700円となります。
毎月の健康保険料:88万円×11.5%×1/2=5万600円
賞与の健康保険料:210万円×11.5%×1/2=12万750円
年間合計:5万600円×12ヶ月+12万750円×2回=84万8700円
所得税の求め方
所得税は、以下の手順で計算します(※3)。
(1)収入から必要経費などを差し引いた所得金額を求めます。
(2)所得金額から各種所得控除を差し引き、課税所得金額を求めます。
(3)課税所得金額に税率を掛けて所得税額を算出します。
なお、令和19年12月31日までの所得には、復興特別所得税(所得税額×2.1%)が併せて課税されます。
1. 所得金額を求める
事業所得などの場合、収入から必要経費を差し引くことができますが、給与所得の場合は必要経費を差し引くことができません。そのため、図表1の給与所得控除額を給与等の収入金額から差し引くことができます(※4)。
図表1
| 給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
|---|---|
| 190万円まで | 65万円 |
| 190万円超360万円まで | 収入金額×30%+8万円 |
| 360万円超660万円まで | 収入金額×20%+44万円 |
| 660万円超850万円まで | 収入金額×10%+110万円 |
| 850万円超 | 195万円(上限) |
(※4を基に筆者作成)
モデルケースの場合、収入合計が1500万円のため、給与所得控除額は上限の195万円となり、給与所得額は1305万円となります。
2. 課税所得金額を求める
課税所得金額は、所得から所得控除額を差し引いて算出します(※3)。まず、納税者本人の合計所得金額に応じて、基礎控除額が所得から控除されます(図表2)。
図表2
| 納税者本人の合計所得金額 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 132万円以下 | 95万円 |
| 132万円超336万円以下 | 88万円 |
| 336万円超489万円以下 | 68万円 |
| 489万円超655万円以下 | 63万円 |
| 655万円超2350万円以下 | 58万円 |
| 2350万円超2400万円以下 | 48万円 |
| 2400万円超2450万円以下 | 32万円 |
| 2450万円超2500万円以下 | 16万円 |
| 2500万円超 | 0円 |
(※3を基に筆者作成:令和7年分から適用)
その他、社会保険料控除、生命保険料控除、扶養親族の有無に応じて配偶者控除や扶養控除などがあります。
モデルケースでは、給与所得額1305万円から基礎控除額58万円、社会保険料控除183万6900円(厚生年金保険料98万8200円+健康保険料84万8700円)を差し引くと、課税所得金額は1063万3100円となります。
3. 所得税額を求める
所得税額は、課税所得金額(1000円未満切り捨て)に超過累進税率を掛けて求められます。図表3の速算表を使用すると、簡単に求められます。
図表3
| 課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1000~195万円未満 | 5% | 0円 |
| 195万~330万円未満 | 10% | 9万7500円 |
| 330万~695万円未満 | 20% | 42万7500円 |
| 695万~900万円未満 | 23% | 63万6000円 |
| 900万~1800万円未満 | 33% | 153万6000円 |
| 1800万~4000万円未満 | 40% | 279万6000円 |
| 4000万円以上 | 45% | 479万6000円 |
(※5を基に筆者作成)
モデルケースの場合、課税所得金額1063万3000円に税率33%を掛けて、控除額153万6000円を差し引くと、所得税額は197万2890円となります。
所得税額=1063万3000円×33%-153万6000円=197万2890円
なお、復興特別所得税は省略しています。
住民税の求め方
個人が居住する都道府県および市区町村に納める個人住民税は、「所得割」と「均等割」で構成されています(※6)。
1. 住民税の所得割
所得割の税額は、前年の所得金額から所得控除などを差し引いた課税所得金額に税率10%を乗じて計算された額から、控除額を差し引いた額となります。
所得割額=課税所得金額×10%-控除額
住民税の基礎控除額は、所得税と異なり43万円です。その他、社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除や扶養控除などがあります。
モデルケースでは、給与所得額1305万円から基礎控除額43万円、社会保険料控除183万6900円を差し引くと、課税所得金額(1000円未満切り捨て)は1078万3000円となり、所得割額は107万8300円となります。なお、税源移譲に伴う控除額は省略しています。
2. 均等割額
均等割額は、東京都の場合、都民税が1000円、区市町村民税が3000円、森林環境税が1000円で、合計5000円となっています(※6)。したがって、モデルケースの個人住民税は108万3300円(所得割額107万8300円+均等割額5000円)となります。
手取り額の計算
モデルケースの場合、年収1500万円から社会保険料183万6900円、所得税197万2890円、住民税108万3300円を差し引くと、手取り額は次のとおり1010万6910円となります。
手取り金額=1500万円-(183万6900円+197万2890円+108万3300円)=1010万6910円
まとめ
手取り額は、年収から所得税、社会保険料および住民税を差し引いた金額です。年収が高くなるほど、差し引かれる税金や社会保険料も増加します。例えば、金融機関に勤める友人のように年収1500万円の独身者の場合、その手取り額はおおよそ1010万円となります。
今回のケースでは、税金と社会保険料を合わせると年間で約490万円にのぼり、手取りは年収の3分の2程度にとどまります。高収入であっても、実際に自由に使える金額は思ったほど大きくない点は知っておきたいところです。
出典
(※1)日本年金機構 厚生年金保険の保険料
(※2)全国健康保険協会(協会けんぽ) 令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険料・厚生年金保険の保険料額表 東京支部
(※3)国税庁 所得税のしくみ
(※4)国税庁 タックスアンサーNo.1410 給与所得控除
(※5)国税庁 タックスアンサーNo.2260 所得税の税率
(※6)東京都主税局 個人住民税
執筆者 : 辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
