銀行が「冬ボーナス1.6億円分」を“現金支給”のニュースに驚き! 給与の「現金手渡し」は問題ない? あえて“ボーナス現金支給”する狙いとは
手間ひまをかけ、現金の盗難にも気を配りながらでも、そのような支給方法をしていく狙いは何なのでしょうか。
FP2級・AFP、国家資格キャリアコンサルタント
佐賀共栄銀行が「ボーナス現金支給」をする狙いとは
2025年12月4日、佐賀市にある佐賀共栄銀行では「ボーナスの袋詰め作業」が行われました。翌日の5日に行員へ配られるボーナス約240人分、合計1億6000万円が手作業で次々と袋に詰められている光景は、ネットでも話題にもなりました。
佐賀共栄銀行で「ボーナス現金支給」が行われ始めたのは昨年からで、行員から「頑張りを肌で感じることができる」と好評であったため、今年も継続されることになりました。
今回のボーナス支給額は、行員1人あたりの平均で過去最高の「88万円」にのぼるとのことで、ずっしりと重たいボーナス袋を受け取る職員の笑顔が目に浮かぶようです。
筆者は、サラリーマン(地方公務員)として勤務していた時代から「給与はともかく、ボーナスは現金支給にするべきだ」という意見を持っており、今回のニュースを聞いてたいへんうれしく思っていました。
筆者がこのような意見を持つ理由は簡単で、口座振込よりも現金支給のほうが消費を強く呼び起こし、景気回復の一助になると確信しているからです。
これは筆者の持論なのですが、「まとまった金額の札束」を持った人間は気が大きくなり、その瞬間は「普段は行わないが、行いたかったぜいたく」をしがちになります。そして、そのぜいたくをした経験は、その後の行動にも大きな影響を与えるのではないでしょうか。
現金でボーナスを受け取ったとしても節約志向が変わらない人もいるでしょうが、全体としては民間の消費活動に大きなプラスをもたらすと思うのです。
もちろん、大金を現金であつかうことによる犯罪発生リスクは高まりますが、個人と企業が十分に配慮をしながら制度を継続してほしいと願っています。佐賀共栄銀行にはぜひ、この試みの結果、行員がボーナスを利用していつもより多く消費活動を行ったかを調査してもらいたいところです。
給与もボーナスも「現金支給」が本来の姿
今の時代、給与やボーナスを「現金手渡し」することは非常に珍しいケースですが、これは労働基準法にのっとれば、「本来のルール通り」なのです。労働基準法第24条には、以下のように定められています。
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(中略)賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない」
第24条の2で「賞与その他これに準ずるもの~については、この限りでない」という記述はあるものの、基本的に給与もボーナスも「通貨(現金)」で支払うべきなのです。
労働基準法で定められた賃金支払に関する原則をまとめると以下のようになり、「賃金支払の5原則」とされています。
(1)通貨(現金)で支払わなければならない
(2)直接労働者本人に支払わなければならない
(3)全額を支払わなければならない
(4)毎月1回以上支払わなければならない
(5)一定の期日を定めて支払わなければならない
逆に、会社が労働者へ渡す給与などを「口座振込」にするためには、労働基準法施行規則第7条の2に定められた「例外」を使う必要があり、「労働者本人の同意を得ること」で初めて例外が認められます。
労働者が会社へ提出する「給与振込依頼書」などに銀行口座を書いて印鑑を押し、「本来は給与などを現金でもらう権利があるけれど、便利だから口座振込にすることに同意します」という意思表示をすることで、初めて「例外的に」給与などの口座振込が可能になるのです。
よって、佐賀共栄銀行のケースは、あえて「例外(口座振込)」を使わず、「原則(現金支給)」に戻しただけなので、法的には何の問題もありません。むしろ、労働基準法にそのまま従った模範的な行動だとも言えるでしょう。
ただし、これを労働者の権利だからといって、自分の給与やボーナスを「現金手渡し」にしてほしいと会社に頼むことは止めておいたほうが良いでしょう。現代となっては「給与などの現金手渡し」のほうが、よほど会社側に大きな業務的負担や犯罪発生リスクを負わせてしまうからです。
まとめ
佐賀共栄銀行では「ボーナスの現金支給」が実施されていますが、これは労働基準法にのっとった本来あるべき支給方法であり、現在では一般的になった「銀行口座振込」形式の支給のほうが例外であると言えます。
給与支給に関する事務作業の煩雑さや、大量の現金を取り扱うことによる犯罪発生リスクを抑えるためには「銀行口座振込」方式が圧倒的に有利ですが、年に数回のボーナスに関してはあえて「現金支給」を行うことで、職員のモチベーションアップや消費活動の活性化を狙う意図がありそうです。
出典
e-Gov法令検索 労働基準法
e-Gov法令検索 労働基準法施行規則
厚生労働省 賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。
執筆者 : 山田圭佑
FP2級・AFP、国家資格キャリアコンサルタント
