更新日: 2019.06.18 その他相続
実家の空き家の売却、『相続の前』に考えておくこと
一定の空き家の売却については譲渡所得税の特例控除が使えますが、適用には期限が設けられています。この期限を越えてしまうと、税金が大きく変わることがあります。空き家対策の相談を受けていると、この特例を知らない方が意外に多いことを実感します。
今回は特例の解説とともに、相続の前に考えておきたいポイントをお伝えします。
執筆者:橋本秋人(はしもと あきと)
FP、不動産コンサルタント
早稲田大学商学部卒業後、大手住宅メーカーに入社。30年以上顧客の相続対策や不動産活用を担当。
現在はFP、不動産コンサルタントとして相談、実行支援、講師、執筆等を行っている。平成30年度日本FP協会広報センタースタッフ、メダリストクラブFP技能士受験講座講師、NPO法人ら・し・さ理事、埼玉県定期借地借家権推進機構理事
空き家にしておく理由
国土交通省の調査によると、空き家のまま保有し続ける理由としては、
・物置として必要だから(44.9%)
・解体費用をかけたくないから(39.9%)
・特に困っていないから(37.7%)
・将来、自分や親族が使うかもしれないから(36.4%)
・好きなときに利用や処分ができないから(33.0%)
・仏壇など捨てられないものがあるから(32.8%)
などの理由が上位にきます。(複数回答 ※1)
また、空き家になってからの期間を見ると
・3年未満…20.6%
・3年以上5年未満…15.7%
・5年以上10年未満…22.9%
・10年以上…31.1%
と、過半数の人が5年以上空き家のままで所有しています。(※1)
これらの結果を見ると、明確な目的があるわけではなく、漠然とした理由で空き家にしているケースが多く、問題の解決を先延ばししているようにも見受けられます。
適正な管理がされないままだと、お化け屋敷やゴミ屋敷と言われるような社会問題化する空き家の増加にもつながることになります。
国は、このように長期間放置されている空き家の増加に歯止めをかけ、また、中古住宅の流通を促すため、平成26年4月に「空き家に係る譲渡所得の特例控除」を施行しました。
『空き家に係る譲渡所得の特例控除』とは
この制度は、一定の空き家を売却する場合には、譲渡所得のうち3000万円までの部分が控除されるというものです。この特例を受けた際、空き家の売却による利益が3000万円を超えなければ、所得税が0になります。
実は、住宅価格が下落している現在でも、空き家を売却すると売却益が生じるケースは多くあります。その理由のひとつは、「実家の空き家」の多くは、取得価格が分からないということです。
通常、売却の損益は、
売却代金-(取得費+譲渡費用)
で計算されます。
売却代金から取得費(取得価格から建物の減価償却分を差し引いた金額と購入時の諸費用)と譲渡費用(仲介手数料・解体費など売却時の諸費用)を差し引くとプラスになる場合、その利益に対して所得税が課せられます。
例えば、亡くなった父が購入した住宅の取得費が1900万円(建物減価償却差し引き後)、この住宅を相続した人が2000万円で売却し、譲渡費用が100万円だった場合の譲渡所得の計算は
売却代金2000万円-(取得費1900万円+譲渡費用100万円)=0
利益が0ですから譲渡所得税はかかりません。
ところが、代々引き継がれた実家や、購入時の契約書がないために取得価格が分からない実家の取得費は、概算取得費として一律5%となります。
2000万円で売却した実家の取得価格が分からない場合、取得費は100万円(売却代金2000万円×5%)とみなされるので、譲渡所得の計算は
売却代金2000万円-(取得費100万円+譲渡費用100万円)=1800万円(=譲渡益)
この譲渡益に対して譲渡所得税率で課税されます。
譲渡所得税率は、譲渡した年の1月1日時点の所有期間が5年超の場合、長期所得税率として20%、また、5年以下の場合は短期所得税率として39%となります(復興特別所得税は別)。
取得日は被相続人が取得した日が引き継がれるので、多くの場合、長期譲渡になると思われますが、20%といっても決して小さな金額ではありません。
ここで、特例控除の適用を受けることができれば、譲渡益から最大3000万円を控除することができるので、上記のケースの場合、
譲渡益1800万円―特別控除1800万円(特別控除の額は譲渡所得額が限度)=0
となり、譲渡所得税はかからなくなります。
【PR】「相続の手続き何にからやれば...」それならプロにおまかせ!年間7万件突破まずは無料診断
『空き家に係る譲渡所得の特例控除』の適用要件
この特例の、主な適用要件は以下の通りです。
・相続開始直前において被相続人が住んでいたこと
・相続開始直前において被相続人以外に住んでいた人がいないこと
・1981年5月31日以前に建築された家屋(マンションは非適用)
・家屋(ともに譲渡する敷地を含む)または家屋解体後の土地の譲渡
・家屋の場合は耐震性を有するもの
・相続時から譲渡時(または解体時)まで事業や貸付または居住をしていないこと
・相続開始日から3年を経過する日が属する年の12月31日までの売却
・譲渡価格が1億円以下
・相続人と特別な関係がある人(親子や夫婦など)に対して売却したものではないこと
なお、平成31年度税制改正により、老人ホームなどに入所していた場合も、空き家の居住要件になりました。
家屋などの条件が満たされる場合、特に気をつけたいのが適用の期限です。相続後3年以内といっても、3年はすぐに経ってしまいます。先日も、昨年末までに売却していれば特例の適用が受けられた相続人の方が、今年になってから相談に来られました。
特例の適用が受けられる実家の場合は、相続の前から、将来の実家の利用活用の可能性を考えましょう。利用も活用もする予定がなければ、早めに売却の検討を始めることをお勧めします。
なお、いざ実家を売ろうと思っても、売却の段階でさまざまな問題が明らかになり売却ができず、その結果、特例適用の期限に間に合わなくなってしまう可能性もあります。そうならないために、売却を阻害する要因についても、早めに調査、把握し排除しておくことが大切です。
出典:※1国土交通省「平成26年空家実態調査」
執筆者:橋本秋人(はしもと あきと)
FP、不動産コンサルタント