配偶者相続権居住権による節税のメリットとは?

配信日: 2021.06.15

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配偶者相続権居住権による節税のメリットとは?
2018年7月に民法が改正され、それに伴い相続に関するルールも大きく見直されました。そのうちの1つとして配偶者居住権が新設され、2020年4月から施行されています。
 
配偶者居住権の新設により、夫(または妻)が亡くなった後も、残された配偶者が故人名義の自宅に住み続けられるようになりました。この制度は残された配偶者が自宅に住み続けることができるだけでなく、一定の金銭債権も確保できるように配慮された配偶者のための法改正ということができます。
 
一方、メリットは配偶者に対してだけではなく、子に対してもあります。それは二次相続で、子が配偶者から配偶者居住権を相続する際、相続税がかからないというメリットです。この記事では後者に焦点を当てて解説をしてみたいと思います。
浦上登

執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)

サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。

現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。

ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。

FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。

2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。

現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。

早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。

サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow

配偶者居住権とは?

改正以前の制度では、配偶者が居住建物をはじめとする自宅を取得する場合、子がいると金銭財産を含めた他の財産をもらいにくくなるというという不具合がありました。
 
例えば妻と子1人が相続人で、被相続人の遺産が自宅2000万円、預貯金3000万円の場合、妻と子の法定相続分は1:1となり、妻が自宅を相続すると、預貯金については500万円しか相続できず、その後の生活に窮してしまうかもしれない不都合がありました。
 
また、預貯金を2500万円相続すると、住む家がなくなってしまいます。家を子と共有にすることも考えられますが、子との関係がうまくいっている場合はともかく、うまくいっていないときなどは共有にすること自体が今後のトラブルの元になるかもしれません。
 
このような問題を解決するために、以前から自宅に住んでいれば、妻は自宅に住みながら、他の財産も相続できるようにした配偶者居住権という制度が新設されました。
 
具体的には、2500万円の居住建物に関する権利を居住権と所有権の2つに分け、配偶者には配偶者居住権を、子には負担付所有権を与えるという方法です。例えば、配偶者居住権を1300万円、負担付所有権を700万円とした場合、配偶者は1200万円の預貯金も相続することができ、夫の死後の生活資金も確保することができます。
 

配偶者が亡くなると

そのようにして配偶者居住権を相続した配偶者が亡くなると、今度は配偶者から子へ二次相続が行われます。相続税対策は一次相続だけでなく、二次相続も含めて考える必要があります。たとえ一次相続で節税できたとしても、二次相続で大きな相続税を払ってしまえば全体的に見て節税ができたとはいえません。
 
この場合の二次相続におけるメリットは、配偶者居住権を子が相続する場合、配偶者居住権は妻の死亡とともに消滅し、相続財産として評価する必要がなくなるという点にあります。
 
もしも、自宅を全て妻が相続した場合は、二次相続ではそれをさらに子に相続されることになり、2回相続しなくてはならないことになります。ですから、二次相続まで含めた節税メリットは、配偶者居住権を活用した場合の方が大きくなります。
 

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具体的節税メリットの計算例

それでは、実際の節税メリットを計算してみましょう。
 

Case 1. 一次相続で妻が自宅の権利を全て相続した場合

(1)一次相続
 

相続財産評価額

自宅:5000万円
預貯金:7000万円
相続財産評価額計:1億2000万円

 

相続人:妻と子1人

 

相続人ごとの相続財産内訳

妻:自宅5000万円、預貯金1000万円
子:預貯金6000万円

 

課税遺産総額:相続財産評価額1億2000万円-基礎控除額(3000万円+600万円×2人)=7800万円
法定相続分で分配:課税遺産総額7800万円×1/2=3900万円(妻・子とも同額)

 

相続税

妻:0円(配偶者の税額軽減1億6000万円の範囲内)
子:580万円(法定相続分3900万円×20%-200万円)
計:580万円

 
(2)二次相続
 

相続財産評価額

自宅:5000万円
預貯金:1000万円
相続財産評価額計:6000万円

 

相続人:子1人(上記相続財産を子が全て相続)
 
課税遺産総額:相続財産評価額:6000万円-基礎控除(3000万円+600万円×1人)=2400万円

 

法定相続分で分与

子:2400万円
相続税:子 2400万円×15%-50万円=310万円
計:310万円

 
(3)一次相続+二次相続
 

580万円+310万円=890万円

 

Case 2. 一次相続で妻が自宅の配偶者居住権、子が負担付所有権を相続した場合

(1)一次相続
 

相続財産評価額

自宅:5000万円(うち配偶者居住権3250万円、負担付所有権1750万円)
預貯金:7000万円
相続財産評価額計:1億2000万円

 

相続人:妻と子1人

 

相続人ごとの相続財産内訳

妻:配偶者居住権3250万円、預貯金2750万円
子:負担付所有権1750万円、預貯金4250万円

 

課税遺産総額:相続財産評価額1億2000万円-基礎控除額(3000万円+600万円×2人)=7800万円
法定相続分で分配:課税遺産総額7800万円×1/2=3900万円(妻・子とも同額)

 

相続税

妻:0円(配偶者の税額軽減1億6000万円の範囲内)
子:580万円(法定相続分3900万円×20%-200万円)
計:580万円

 
(2)二次相続
 

相続財産評価額

配偶者居住権:0円(配偶者の死亡とともに消滅)
預貯金:2750万円
相続財産評価額計:2750万円

 

相続人:子1人

 

課税遺産総額

相続財産評価額:2750万円-基礎控除(3000万円+600万円×1人)=0円
法定相続分で分与:子 0円
相続税:子 0万円
計:0円

 
(3)一次相続+二次相続
 

580万円+0円=580万円

 

相続税総額比較

Case 1. 一次相続で妻が自宅の権利を全て相続した場合:890万円
Case 2. 一次相続で妻が配偶者居住権、子が負担付所有権を相続した場合:580万円

 
Case 2の節税メリット 310万円
 

まとめ

Case 2の節税メリットは本来、二次相続でも課税の対象となるべき配偶者居住権3250万円相当分が0と評価されたために生じたものです。負担付所有権を受けることは面倒な部分もありますが、将来の節税につながることは覚えておいた方がよいと思います。
 
なお、配偶者居住権が消滅するのは、配偶者の死亡により相続した場合であり、以下の場合は贈与税の対象になるので注意が必要です。
 

●所有者と配偶者の合意により消滅した場合
●配偶者居住権を配偶者本人が放棄した場合
●所有者による消滅の請求で消滅した場合

 
なお、本文中の配偶者居住権には敷地利用権も含まれています。
 
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

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