更新日: 2021.10.01 相続税

<相続税の納税資金対策 その1>納税資金がないと、困ること

執筆者 : 浦上登

<相続税の納税資金対策 その1>納税資金がないと、困ること
相続で起きるトラブルは、遺産分割協議書が作れなくて「争族」になってしまうことだけではありません。例えば、「相続財産の分割は円満に済んだけれど、納税資金が足りなくて相続税が支払えない」というケースもあり得ます。こうした場合、親から受け継ごうと思っていた土地や建物を売らざるを得ないことにもなってしまいます。
 
円滑な相続のためには、相続人同士の関係が良好であることに加え、十分な納税資金を確保することが必要になります。この記事では、納税資金を確保できない場合の問題点と、納税資金の確保の方法について、3回に分けて説明したいと思います。
浦上登

執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)

サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。

現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。

ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。

FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。

2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。

現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。

早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。

サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow

どういった場合に納税資金が不足するのか?

相続税の納税資金が不足して、親から受け継ごうとした不動産を売らなくてはならないのは、どういった場合なのでしょうか?
 
典型的なパターンとしては、評価額の高い土地付きの家に住んでいたが、現金や株式などの流動性のある資産が少ない場合です。例えば、次のような例が挙げられます。
 

・家族構成

被相続人:母(父はすでに物故)
相続人:子1人

 

・相続財産

土地付き建物:評価額3億円
現金:1億円
計 4億円

 

・相続税の計算

基礎控除後の課税価格:4億円-(3000万円+600万円)※基礎控除=3億6400万円
相続税額:3億6400万円×50%-4200万円=1億4000万円

 
子は1億4000万円の相続税を納める必要がありますが、相続で取得する現金は1億円しかありません。子がいくらかの現金を持っているとしても、全てを納税に使うと今後の生活に支障が出る場合、または手持ち資金が差額の4000万円に満たない場合は、親から受け継ぐはずの家(土地付き建物)を売らざるを得ないということになります。
 

相続税納税のための原資

相続財産のうち、相続税納税の原資、または原資として現金化しやすい順、すなわち流動性が高い順に挙げると次のとおりです。
 

1. 現金・預金
2. 生命保険金、死亡退職金
3. 株式などの有価証券
4. ゴルフ会員券など
5. 居住用の家・土地などの不動産(事業用の不動産・自社株を、特定の相続人に承継させようと意図している場合)

 
前述の「どういった場合に納税資金が不足するのか?」で説明したように、被相続人が現金化しやすい財産を相続財産として残しておかないと、相続人は納税資金が足りなくなって困ることも考えられます。
 
納税資金の原資が家・土地などの不動産しかないと、それを売却するために仲介業者を経由し、買い手との交渉、買い手側の売買資金の用意と支払いなどのステップを踏む必要があります。
 
相続税の支払期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内のため、期限に間に合わないような場合は、心ならずも大幅に値引きして売却することにもなりかねません。また、譲渡所得税を支払わなくてはならないこともあり、本来かからなくて済む経費や手間が生じます。
 
相続財産が事業用の不動産や自社株しかない場合は、最悪、自社株を物納したり、事業用の不動産を売却するなど、会社の経営に支障が出ることも考えられます。
 

【PR】相続する土地・マンションがあなたの生活を助けるかも?

納税資金を確保できない場合の措置

納税期限までに納税資金を確保できず、相続税が支払えない場合の措置として以下があります。
 

1. 相続税の延納

相続税額が10万円超で納付が困難な事由がある場合、納税者が申請書を提出し、納付できない納税額に見合う担保を提供することにより、年賦で納めることができます。これを「延納」といいます。
 
延納期間中は利子税がかかります。利子税は相続財産に占める不動産などの割合によって異なりますが、通常の個人の物件の場合、1年当たり3.6%から6%程度となります。また、延納には審査期間が設けられており、3ヶ月から最長6ヶ月かかります。
 

2. 相続税の物納

延納によっても金銭で納付することが困難である事由がある場合には、納税者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として一定の相続財産による物納が認められています。
 
物納申請が行われた場合には、物納の許可による納付があったものとされた日までの期間のうち、申請者が必要書類の訂正等、または物納申請財産の収納に関する措置を行う期間について、利子税がかかります。また、物納にも審査期間があり、許可までは3ヶ月から最長9ヶ月かかる場合があります。
 
物納ができる相続財産には順位があり、以下の順から物納の対象とすることができます。
 

第1順位

(1)不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式など
(2)不動産および上場株式のうち、物納劣後財産(※)に該当するもの

 

第2順位

(3)非上場株式など
(4)非上場株式のうち、物納劣後財産(※)に該当するもの

 

第3順位

(5)動産

 
(※)物納劣後財産とは物納に充てる順が遅れる財産で、地上権、永小作権または耕作を目的とする賃借権、地役権といった権利が設定されている土地などが挙げられます。
 
上記に挙げた物納ができる財産でも、「管理処分不適格財産」に該当すると物納の対象とはなりません。管理処分不適格財産には以下のようなものがあります。
 

●担保権の設定登記がされている不動産
●境界が明らかではない土地
●耐用年数を経過している建物
など

 
物納の場合も審査に時間がかかったり、利子税が発生するといったデメリットがあります。また、不動産などは分割できないので、物納による納税額よりも不動産の評価額が大きい場合には物納の対象外となります。
 

まとめ

今回は、相続税の納税資金が不足した場合の問題点と措置について解説しました。次回以降では、流動性の高い納税資金の確保の方法に関して説明したいと思います。
 
出典
国税庁 No.4155 相続税の税率
国税庁 No.4211 相続税の延納
国税庁 No.4214 相続税の物納
 
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

ライターさん募集