更新日: 2022.01.27 贈与

贈与税の対象にならない贈与や贈与税非課税の特例を抑えておこう!

贈与税の対象にならない贈与や贈与税非課税の特例を抑えておこう!
別稿ではどのような人が納税対象になるのか、贈与税の計算方法、申告に必要な書類などについて説明しました。今回は贈与税がかからない、あるいは軽減されるケースについて見ていきます。
 
また、贈与税については現在見直しが進められているといわれています。今後どうなりそうかについても触れたいと思います。
西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役
 
http://www.nishiyama-ld.com/

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
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贈与が成立する要件

そもそも、贈与は契約行為のひとつです。贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)の間で「あげます」「もらいます」という意思表示があってはじめて成立します。
 
子や孫の名義の通帳に入金するだけでは贈与は成立しません。「あげる」というのは贈与対象の財産の管理責任を完全に受贈者に移すことです。
 
贈与するつもりで受贈者名義の口座に入金したけれど、無駄遣いしないように預金通帳と銀行印は贈与者が保管しているようなケースがありますが、これはいわゆる「名義預金」「借名預金」などといわれ、贈与が成立しているとはいえず、税務署も目を光らせています。
 
贈与を行う場合には、名目だけでなく実質的に渡すこと。もらった人が自由に使える状態にすることが重要です。贈与契約書を作成する場合でも、贈与者だけでなく受贈者の署名捺印をしておく必要があります。
 
受贈者が未成年者の場合には、その親権者がその預金通帳などを預かる場合もあるでしょう。その場合でも受贈者が成人したときには管理責任を移すことを前提に考えておくべきです。
 
「無駄遣いしてほしくない」「まとまったお金を渡してしまうと教育上良くない」などと考える場合には、贈与すべきではないといえるのではないでしょうか。
 

贈与税の対象にならないもの

そもそも、扶養者が被扶養者の生活費や教育費など「通常必要と認められるもの」を負担する場合は、贈与税の課税対象となりません。
 
(参照)
国税庁「「扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A」について(情報)」(※1)
 
この中で「扶養義務者」については「配偶者」「直系血族及び兄弟姉妹」「家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族」「三親等内の親族で生計を一にする者」と定義されています。所得税や健康保険などで扱う「扶養親族」よりも広い範囲が認められているといえます。
 
「生活費」については「その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用」とされていて、治療費や養育費、その他これらに準ずるものも含むとされています。
 
「教育費」についても「被扶養者(子や孫)の教育上通常必要と認められる学資、教材費、文具費等をいい、義務教育費に限られません」とされています。これらについては、贈与として扱われませんが、渡し方には注意が必要です。
 
孫の教育費に充てることを目的としていたとしても、祖父が孫の父(祖父の子)に金銭を渡した場合、その金銭が間違いなく教育費等「通常必要は資金」に充当されたかどうかを確認できるようにしておく必要があります。
 
これらの用途に使う資金を渡す場合には「必要なときに」「直接」「必要な分だけ」渡すようにしておくとよいでしょう。
 
例えば、孫の入学金を祖父が拠出することは「贈与には当たらない」と考えられます。その際には、祖父が自身の口座から直接学校へ入学金の納付手続きをとれば、その資金の使途は明らかで、仮に後で税務署から問い合わせがあっても対応できます。
 

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贈与税の特例

贈与税にはいくつかの非課税措置や猶予措置があります。具体的に見てみましょう。
 

1.住宅取得資金等贈与の特例

自分が住むための家屋の新築、取得、増改築等に充てるための資金について直系尊属(父母、祖父母など)から贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば、非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税になります。
 
直系尊属からの贈与に限られますので、配偶者の父からの贈与のようなケースには適用できません。また、すでに取得している住宅を取得する際に借り入れた住宅ローンの返済に充てる資金の贈与も対象外です。
 
この制度は特例のため、適用を受ける場合には必ず申告する必要があります。この特例は令和3年12月31日までの贈与が適用期限になっていますが、令和4年以降も継続されると見込まれます。
 
ただし、非課税限度額や適用の条件については見直されると考えられますので、国税庁のホームページで最新の情報を確認するようにしてください。
 
(参考)
国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」(※2)
 

2.贈与税の配偶者控除

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、自分が住むための不動産、または自分が住むための不動産を取得に充てるための金銭の贈与を受けた場合、基礎控除110万円のほかに最高2000万円まで控除(配偶者控除)できる特例です。
 
贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した不動産または贈与を受けた金銭で取得した不動産に、贈与を受けた人自身が実際に住んでいて、その後も引き続き住み続ける見込みであることが要件となっています。
 
(参考)
国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」(※3)
 

3.教育資金の一括贈与

30歳未満の人が教育資金に充てるために、受贈者の直系尊属(父母や祖父母)から贈与を受けた場合に、最大1500万円まで非課税となる制度です。
 
この制度を利用するためには、金融機関に教育資金の管理口座を開設し、金融機関から税務署に「教育資金非課税申告書」を提出することが必要になります。
 
前述のように、そもそも教育資金についてそれを祖父母などが出した場合は非課税です。しかし、この制度を使うことにより、将来必要な教育費を生前に一括して贈与することができるため、相続税対策としても有効だと考えられます。
 
従来は令和3年末までの制度でしたが、2年間延長されました。詳しい適用条件や資金用途などについては国税庁のページでご確認ください。
 
(参考)
国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」(※4)
 

4.結婚・子育て資金の一括贈与

20歳以上50歳未満の人が、結婚・子育て資金に充てるために直系尊属から贈与を受けた場合に、最大1000万円まで非課税となる制度です。
 
この制度を利用するためには、金融機関に教育資金の管理口座を開設し、金融機関から税務署に「結婚・子育て資金非課税申告書」を提出することが必要になります。
 
この制度も従来は令和3年末までの制度でしたが、2年間延長されました。詳しい適用条件や資金用途などについては国税庁のページでご確認ください。
 
(参考)
国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」(※5)
 
上記のほか、農業を営んでいる人が跡を継ぐ推定相続人に生前一括贈与をし、その受贈者が営農を続けている場合に贈与税の納税が猶予される特例などがあります。
 

今後、贈与の制度が変わるかもしれない

自民党が作成した「令和2年度税制大綱」で「現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度の在り方を見直し、資産移転の時期の選択に中立的な制度を構築する方向で検討を進める」という記述がありました。
 
「令和3年度税制大綱」で「相続税と贈与税を一体的にとらえて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度の在り方を見直すなど、格差の固定化の防止に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」と記述され、少し具体的になりました。
 
これにより昨年、各メディアは「暦年贈与の基礎控除(110万円)がなくなる」と報じました。
 
令和4年度税制大綱では、「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。
 
あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では、家族内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある」と、よりトーンを強める形になりましたが、具体的な改革の方針は示されませんでした。
 
しきりに騒がれた相続税と贈与税の制度見直しは「継続検討」という形になりましたが、今後、贈与税に関する制度については見直される可能性が高いと考えられます。日本では高齢化が進行し、高齢者間での相続が増えています。
 
また、資産が高齢世代に偏在していることも問題視されており、より消費意識、資金需要の高い若年世代への資産の移転を促すことが必要だと考えられます。
 
高齢者世代から若年世代への資産の移転を促すとともに、本来の相続税が持つ資産の再配分という目的も維持し、それに合わせて相続税と贈与税のあり方を検討されることになります。
 
あくまでも私見ですが、税制改革の方針として贈与税の基礎控除が減額されると同時に贈与税率が下げられる可能性があると考えられます。
 
また、現行の相続時精算課税制度は選択制ですが、相続時精算課税を原則とすることで相続税と贈与税を一体化し、富裕層の贈与による相続対策を抑制するような改正が行われる可能性もあります。
 
「贈与税は高いから相続までは資産を動かさない」という考えから「贈与しても相続してもかかる税金が同じなら先に資産を贈与してもよいのではないか」という考えに向かうような税制になることが考えられます。
 
一方で贈与は一般的に親族内で行われるものがほとんど。贈与しやすくなれば格差の固定化にもつながりかねないともいえます。相続や贈与を取り巻く家族の環境は多様です。今後どのような形で変わっていくのかは今後の検討の行方を見守る必要がありそうです。
 
(※1)国税庁「「扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A」について(情報)」
(※2)国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
(※3)国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
(※4)国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
(※5)国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
 
(出典)
自民党「令和2年度税制大綱」
自民党「令和3年度税制大綱」
自民党「令和4年度税制大綱」
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役

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