更新日: 2022.03.23 贈与

孫などへの「教育資金」贈与。1500万円まで非課税?

執筆者 : 黒木達也 / 監修 : 中嶋正廣

孫などへの「教育資金」贈与。1500万円まで非課税?
通常は、子どもや孫に対して、一定以上の金銭を贈与すると贈与税が掛かります。しかし「教育目的」に限って、孫や子どもへの贈与は、非課税でできる仕組みがあります。
 
この「教育資金」贈与の仕組みをうまく利用すれば、孫などへの大きなプレゼントになると同時に、相続税対策にもなります。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

教育目的なら非課税、相続対策に

この教育資金の非課税制度は、30歳未満の孫や子どもに対する、学校の入学金や授業料などに目的を限定して利用できる制度です。
 
直系の尊属が一括贈与した金額が、非課税になります。もちろん教育目的に限ること、運用に関するルールを守ることが条件ですが、孫や子どもに対する大きな支援になるだけでなく、贈与する側から見れば、将来の相続財産を大きく減額できる効果もあります。
 
この制度は10年ほど前に「住宅資金贈与」の非課税制度などと共に始まり、教育資金贈与は、2023年の3月までの期間限定の制度となっています。1人あたり上限1500万円まで、一括贈与した額が非課税です。
 
例えば4人の孫がおり、全員に教育資金として贈与すると、非課税で上限6000万円まで贈与可能です。相続に関して悩んでいたとすると、6000万円の財産を減額でき、相続税対策としては非常に効果的です。
 
教育資金のため、学校の入学金・授業料、教科書、通学定期代など、使途が教育目的に限定されます。学校以外でも、例えば学習塾、英会話教室、水泳教室、体操教室など、習い事全般にも、金額に制限はありますが利用可能です。
 

金融機関の専用口座で運用する

この非課税制度を利用するためには、まず教育目的で利用する孫など受贈者名義で、金融機関に専用口座を開設し、税務署へ「教育資金非課税申告書」を提出します。
 
日常経費の口座とは別に独立の専用口座が必要で、この口座開設後に、贈与者は1500万円を上限に資金を一括預け入れます。一括入金が条件となっているため、例えば、500万円ずつ3回に分けるなど、分割して預け入れることはできません。
 
贈与を受けた側は、学校などに支払った入学金・授業料などの領収書と、専用口座からの払い出し依頼書を、専用口座のある金融機関に提出します。これを受けて金融機関は、名義人である受贈者に依頼書の金額を支払います。
 
利用目的が限定され、支払先の領収書も必要なため、自由に専用口座から引き出し、教育目的以外への利用はできません。少ない金額でも、その都度領収書、払い出し依頼書を提出する必要があり、その頻度が増えるほど、使いづらい仕組みになっています。
 

【PR】相続する土地・マンションがあなたの生活を助けるかも?

使い残しの金額は課税対象に

この制度では1500万円が非課税で贈与できるため、「富裕層向けの相続税対策に利用される仕組みだ」との批判が、以前から根強くあります。
 
そのため、2021年3月で終了することも政府内で検討されましたが、いくつか制約条件を付け、2023年3月まで2年間延長されたという経緯があります。その主な制約条件が、教育資金を使い残した際の措置です。
 
もし贈与をした祖父母などが死亡した時点で、資金に使い残しがある場合は、その時点の残額に対して、孫などの受贈者当人の財産取得と認定され相続税が掛かります。しかも、その際は通常の相続税額の2割増として計算されます。
 
ただしこの条件が適用されるのは、受贈者がすでに大学を卒業している場合で、23歳未満あるいは23歳を超えても在学中の学生には適用されません。
 
また、受贈者が30歳になった時点で専用口座に使い残しがあると、その分に贈与税が掛かります。また30歳を超えた受贈者は、学業以外の習い事などには、この制度は利用できなくなりました。
 
少ないケースですが、30歳未満の受贈者が、前年所得1000万円超の場合も、この制度自体を利用できません。これら利用条件を厳しくすることで、「富裕層向けの相続税対策だ」との批判をかわす狙いがあると思われます。
 
多くの金額を一括贈与できる半面、教育資金としての利用開始時期が遅れると、問題が起こります。例えば、大学入学後にこの制度を利用し始めたとしても、教育資金以外には適用されないため、大学卒業までに使い切れない事態も発生します。
 
また、中学生が運よく国公立の高校と大学に進学した場合も、1500万円を超えずにすむかもしれません。そのために、いつから利用し概算総額がどのくらいかを、事前に検討しておくことが大切です。
 

利用可能な範囲内で贈与する

この制度には、孫や子の教育環境を充実させるだけでなく、相続財産を減らせるメリットもあります。
 
ただ期間が2023年3月までに制約されているからと考え、急いで飛びつくのは禁物です。この制度自体が、使い残した金額が課税対象になるため、学業の早い時期、具体的には幼稚園・小学校などの在籍時から、利用を開始するのが賢明です。
 
まず教育資金の受贈者が、いま何歳で、今後大学卒業までに掛かる経費はどのくらいかを洗い出します。例えば、来年小学校に入学する年齢だ、すでに私立の小学校に通っていて今後も私立中学校に通う、といった方であれば、この制度を有効に利用できます。
 
しかし、もう大学2年生になっている、中学生だが高校・大学とも国公立で進む予定、といった方は、目いっぱいの1500万円の利用は避けるべきです。それぞれの事情に合わせて、非課税枠1500万円を全額利用するのではなく、少ない額での利用も検討すべきです。
 
非課税制度の利用額を、例えば500万円~800万円程度抑え、高校・大学の入学時や卒業時にお祝いをあげる、月々少額のお小遣いをあげる、といった小まめに対応する方法を選ぶのも賢明な選択です。
 
遠方に居住している孫へのプレゼントとして、一度に100万円以上の金額を振り込む、定期的に決まった額を振り込むのは、贈与税が掛かる可能性もあるので、避けたほうがよいでしょう。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

ライターさん募集