「暦年贈与」が大きく見直しへ!? 生前贈与はどう進めればいい? 

配信日: 2022.06.16

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「暦年贈与」が大きく見直しへ!? 生前贈与はどう進めればいい? 
暦年贈与とは、毎年110万円を超えない範囲で、誰にでも非課税で財産移転ができる制度です。
 
相続税対策として多くの方が利用していますが、今後は、暦年贈与の利用が厳しくなり、相続時精算課税の選択が増える見込みです。
 
制度改変の予定は2023年以降ですが、暦年課税が使いづらくなるかもしれません。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

多額の相続税より小まめに払う贈与税

誰かが亡くなり相続が発生すると、遺産相続額が多い場合には、相続人に相続税が課税されます。控除額もありますが、遺産が多いほど相続税も高額になります。
 
そのため相続が発生する前に、子どもや孫に財産を「生前贈与」する方がいらっしゃいます。
 
現在の税制では、贈与税は、年間110万円を超えた額に対してかかります。贈与金額が多いと相続税より税率は高いのですが、贈与税を支払ってでも贈与を行うという方もいらっしゃるでしょう。
 
生前贈与の方法として、子どもや孫に対し、何年かかけて行う「暦年贈与」がこれまで多く利用されてきました。
 
また、暦年贈与と並行して、例えば教育資金や住宅資金の特例贈与が、非課税で行える制度も活用されてきました。
 
しかしこの枠組みに対しては、富裕層に対する優遇策ではないかとの批判もあり、暦年贈与を中心に見直しが現実化しつつあります。
 
最も一般的な贈与の方法は、年間110万円まで非課税で行える暦年贈与です。非課税額が110万円となっているため、財産額の多い方は、長期間かけて早めの準備が必要になります。
 
ただ、制度の改正が準備されており、現行制度での贈与は制約されそうです。
 

贈与税を制限し相続税中心の体系に

現在、政府・与党では、相続税と贈与税を一体化させる議論が進んでいます。早ければ2023年の税制大綱から、暦年贈与に対する見直しが行われる公算大です。
 
現在の法体系でも、暦年贈与を実施中に相続が発生すると、相続前3年間分の贈与額はいったん戻した上で、本来の相続額と合算して再計算され、相続税として課税されます。
 
この考えの延長上で、贈与額全体を相続時に合算して相続税として支払う「相続時精算課税」制度(非課税枠は2500万円)が、今後は軸となると思われます。
 
これまでは暦年贈与と並行して、「相続時精算課税」制度もあり、贈与に際してはどちらも選択できました。
 
110万円までは非課税の暦年贈与の仕組みは、非課税枠を超えても贈与税を支払えば財産移転が可能で、しかも誰にでも贈与できるメリットがあり、多くの方に利用されてきましたが、今後は使いづらくなりそうです。
 
政府・与党で議論されている改正案は、下記のとおりです。
 

(1)暦年贈与制度自体は残すが、相続税との合算期間を、相続前3年から変更し5年以上に延長、かつ非課税枠も縮小する
(2)暦年贈与の仕組み自体を廃止し、相続時精算課税制度の非課税枠を拡大して一本化する

 
現在では、暦年贈与が相続時精算課税より広く定着しているため、(2)案を採用して一気に暦年贈与を廃止すると、抵抗感が強くなる可能性があるため、制限を加え数年間は存続させる(1)案の採用が有力かと思われます。
 

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暦年贈与と相続時精算課税の相違点

贈与税から相続税中心の税体系に変更される方向で進んでいますが、暦年課税と相続時精算課税の違いを確認しておきましょう。
 
まず贈与を受ける人(受贈者)の対象はどうでしょうか。
 
暦年贈与の受贈者は、血縁者だけでなく、誰でもいつでも贈与が受けられます。これに対して相続時精算課税では、受贈者は18歳以上の直系卑属(子や孫)、贈与者は60歳以上の直系尊属に限られます。
 
次に非課税枠については、暦年贈与は、年間110万円まで非課税で、何年に渡っても実施可能です。これに対して相続時精算課税は、合算して相続時点だけで、2500万円まで非課税です。
 
さらに税率は、暦年贈与では、贈与の度に10~55%の累進税率の贈与税がかかります。贈与額が多いと税率も高くなります。相続時精算課税では、非課税枠を超えた分に、一律20%の相続税がかかります。
 
現在では暦年贈与に関して、相続時点から3年間はさかのぼって贈与した額自体を相続財産として再計算されます。
 
この3年という期間が、2023年以降の改正で、5年以上に延長され、さらに非課税枠も、現在の110万円から50~60万円に縮小される案の採用が有力です。
 
相続が近いことを感じて行う、急な暦年贈与に対して制約がかかる見通しで、相続人以外の親族(例えば孫)に贈与するなども1つの対応策になります。
 
暦年贈与の申告者数に比べ、相続時精算課税の申告者の数は多くありません。相続のことを考えると、早い時点から着手できる暦年贈与は非常に使い勝手がよく、相続時より3年以上前の贈与に関しては、相続税の対象にはならないからです。
 
しかし制度の改変が実施されると、仕方なく相続時精算課税を選択する方が増えることが推察できます。
 

多額の贈与ができる非課税特例も見直し

現在、非課税で子どもや孫に贈与できる別の特例もあります。「住宅資金贈与」「教育資金贈与」「結婚・子育て資金贈与」の3つの非課税特例です。
 
専用口座の開設など、資金移動の透明化が不可欠な条件がありますが、住宅資金贈与は最高1000万円まで、教育資金贈与は最高1500万円まで、子育て・結婚資金贈与は最高1000万円まで、非課税枠があります。大きな金額を、子どもや孫へ移転可能な仕組みとなっています。
 
住宅資金贈与は、2022年から減額されましたが、今後も微調整されて継続の予定です。教育資金、結婚・子育て資金の贈与に関しては、2023年3月末までの継続が確定しています。
 
しかし運用条件が厳しくなっており、一定年齢を過ぎて使い残した金額に対して、相続税が通常の2割の増額になりました。
 
2023年以降に、見直しがあるかもしれません。特に結婚・子育て資金の非課税特例は、利用がかなり少ないため廃止の可能性があります。
 
こうした非課税制度は、本来の相続税自体の減収にもつながるため、継続的に見直しの対象になります。
 
子どもなどへの贈与を検討している方は、条件を満たしているかを確認し、早めに進めることをお勧めします。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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