目先の相続だけでなく、その後に訪れる2次相続も考えた行動を
配信日: 2022.09.13
特に配偶者に関しては、相続時には非常に優遇されるため、どうしても多く相続するケースが見られますが、問題はその後の2次相続です。
配偶者の相続税制は非常に有利
誰かが亡くなると、財産を相続した方に対して、相続額に応じて相続税がかかります。相続する際は、全相続財産の中から「3000万円+600万円×相続人の数」にあたる金額が、相続税の控除額です。
例えば、親が亡くなって際に、相続人が子ども3人だとすると、3000万円+1800万円、すなわち4800万円が相続財産から控除されます。以前に比べ、この控除額は減額されており、相続税の納税者は増えています。
しかし、相続人の中に配偶者が含まれていると、事情が異なります。配偶者はこれまで住んでいた家に住み続けることができると同時に、配偶者自身の相続税の控除額は1億6000万円まで認められています。夫とともに共同で財産を築いてきたことが評価されており、税法上かなり優遇されています。
非常に多くの土地や家屋を所有する資産家でない限り、通常の方の相続であれば、正味の相続財産は、1億6000万円の範囲内で収まるケースがほとんどだと思います。そのため、当面の相続税から逃れる目的で、子どもなどが相続をせずに、正味の相続財産の大部分を、配偶者が相続して取りあえず収めてしまうケースもあります。
まず配偶者が全額相続をすると
例えば、非課税財産や葬儀費用を除いた正味の相続財産が1億6000万円の相続で、配偶者と子ども2人で相続するケースでは、配偶者だけでなく、子どもが一部を相続すると相続税が発生します。
しかし全額配偶者が相続する(1次相続という)と、配偶者に相続税は一切かかりません。そのため、配偶者がすべて相続した後にこの方が亡くなった際の相続(2次相続という)が、かなり厄介になります。
当面は相続税を先送りでき、納税の必要はありませんが、全額を相続した親が亡くなった際に、相続額によっては多額の相続税が発生します。子ども2人が1億6000万円を等分に相続することになり、通常の控除額しか認められません。1次相続の段階で、子どもたちが一部を相続して、相続税を支払っておいたほうが、トータルで支払う相続税は少なくなります。
小規模宅地特例など優遇税制を一切考慮せずに考えた場合、正味の相続財産1億6000万円を配偶者がすべて相続し、配偶者の死後、子ども2人が等分に相続したとします。1次相続では、誰にも相続税はかかりません。2次相続で子ども2人が正味財産1億6000万円を、等分に相続すると、1人が約1070万円の相続税を支払うことになります。そのための心構えと準備が必要になります。
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子どもも最初から相続に加わると
一方、最初の相続から子どもも加わり、配偶者が2分の1、子ども1人が4分の1ずつを相続するケースでは、どうなるでしょうか。
配偶者に相続税の負担はありませんが、子ども1人あたり約370万円の相続税がかかる計算です。配偶者が亡くなった後の2次相続では、正味の相続財産8000万円を子ども2人で法定相続するため、子ども1人の支払う相続税は約240万円になります。
1次相続、2次相続の相続税合計が、子ども1人あたり約610万円となり、2次相続で1億6000万円を相続した場合の相続税1070万円に比べ低く抑えられます。ただし1次相続をした子どもが、親よりも早く亡くなると、子どもに相続させた意味がなくなります。
親が亡くなった時点で、配偶者に取りあえず相続したとしても、その後の相続を考えると、避けることが賢明です。相続財産の額が多いほど、かかる相続税も多額になりますので、1次相続の時点で、将来の納税についても考慮しましょう。そのため、1次相続で配偶者が全額相続した場合は、2次相続の前の時点で、1次相続した財産自体を減額する努力も必要になります。
相続税を軽減する方法もある
相続税に関する特例を考慮しませんでしたが、相続税を低く抑えるための工夫もいくつかあります、具体的な方法としては、財産総額自体を生前から子どもなどに移転しておくことと、財産の評価を下げる工夫をすることが考えられます。
前者は、子どもなどが多少の贈与税を支払っても財産移転を進めることです。その代表例が「暦年贈与」です。相続とは異なり、贈与のメリットは子どもに限らず誰にでも、年間110万円以内なら無税で贈与できます。多少の贈与税を支払っても移転を進めておくことも効果的です。
また教育資金や住宅資金の一括贈与は、一定の条件をクリアすることで、子どもと孫に対する財産移転をすることができます。ただし制度の見直しも検討されているため注意が必要です。
所有財産の評価を下げる方法も有効です。金融資産よりも評価の低い不動産の持ち分を増やすことや、利用しない不動産を賃貸することによって、財産評価額を下げることができます。また所有する土地の面積や形状しだいで、相続時に小規模宅地の特例が利用できれば、相続財産の評価減に大きく貢献します。実際に評価額が最大80%減になる場合もあります。
最近では、専門家の知恵を借り、あの手この手の節税対策を講じる方もいます。拡大解釈をした減税対策も行われています。そのため税務当局も、行き過ぎた相続税対策には、厳しい目を光らせています。
相続が近いと予想される場合、相続人となる方同士で、相続の方法について協議しておくことも重要です。特に相続財産の大部分が、現在親の生んでいる自宅の土地と家屋で、配偶者以外に複数の相続人がいる場合は、分割方法などを考えておくのが賢明です。
家屋には配偶者が住み続けるとしても、かなり広い土地がある場合、土地の分筆をするなどの対応を検討しておく、小規模宅地の条件が実現可能な住まい方を子どもたちがしておく、といったことを実行し、いざ相続となっても慌てないで済むと思います。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。