相続対策の「3つの柱」とは?

配信日: 2023.07.25

この記事は約 6 分で読めます。
相続対策の「3つの柱」とは?
筆者の相談者さまなどに「相続対策」と聞くと、「相続税対策」を思い浮かべる方は多いです。「うちにはそんなに資産はないので相続対策は必要ない」と言う方がほとんどなのはそのせいでしょう。
 
しかし、相続対策で大切なのは「スムーズに次の世代に資産を継承すること」。相続税対策は相続対策のほんの一部です。
 
今回は、相続対策を考えるときに念頭に置いておくべき「3つの柱」についてご紹介します。
西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役
 
http://www.nishiyama-ld.com/

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/

相続対策の「3つの柱」とは

相続対策を考えるときには

1. 分割対策
2. 納税資金対策
3. 相続税対策

の3つを順番に考える必要があります。
 
いくら相続税対策に力を入れても、実際に相続が発生したときに相続人同士がもめてしまったら、スムーズに相続手続きが進められなかったら、相続対策としては「失敗」といえます。
 

「分割対策」を最初に考えなければいけないワケ

相続が発生すると、遺された相続人で遺産を分割します。遺言書があれば原則は遺言書どおりに。遺言書がなければ相続人全員で遺産の分け方を話し合います(遺産分割協議)。
 
民法では、「法定相続分」として被相続人(亡くなった人)の財産を相続する際の、各相続人の取り分を定めています。ただし法定相続分は、相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の持ち分ですので、必ずこの法定相続分で遺産分割をしなければならないわけではありません。遺産分割協議ですべての相続人が分け方に合意すれば自由に定めることができます。
 
亡くなられた方の財産が「金融資産」だけならば比較的容易に分けることができるでしょう。しかし、相続財産に「不動産」や「非上場株式」などがある場合、トラブルにならないよう慎重に検討しておく必要があります。
 

【PR】「相続の手続き何にからやれば...」それならプロにおまかせ!年間7万件突破まずは無料診断

資産リストの作成

「相続対策」の最初のステップは「大まかに資産の状況を把握すること」です。
 
保有する資産の一覧を作成します。不動産は漏れがないようにします。非上場株式がある場合にはその評価を税理士などと相談し算出します。その他の金融資産は大まかに把握できれば大丈夫ですが、どの金融機関に口座があるかはわかるようにしておきます。
 
ご存命の間は不動産も株式の評価も金融資産の残高も変動します。1円単位できっちり把握する必要はありません。100万円単位くらいで把握できれば十分です。
 
相続税の基礎控除額は「3000万円+法定相続人の数×600万円」。財産の相続税評価額の合計が基礎控除額を下回れば「相続税の申告・納税」は不要ですので、納税資金対策は必要ありません。
 
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用した結果、相続税がゼロになる場合には納税は必要ありませんが、申告は必要なので注意が必要です。
 

納税資金対策の必要性

次に考えるのが納税資金対策です。相続税も含め納税は原則として現金です。
 
資産はあるものの、その資産が容易に換金できない不動産や非上場株式などである場合は納税資金確保の方法も検討する必要があります。現金化できる保有不動産の売却や生命保険の活用なども選択肢ですが、どのような方法があるかは人それぞれです。
 

最後に相続税対策

「分割対策」「納税資金対策」にめどが立ってやっと「相続税対策」に着手できます。
 
夫婦のどちらかが亡くなり、相続人は配偶者と子2人の場合、法定相続分は配偶者2分の1、子はそれぞれ4分の1となります。夫婦のどちらが先に亡くなるかはわかりませんが、多くの場合、親が2人とも他界すると、最終的にその財産を2人の子で分け合うことになるでしょう。
 
結果的に2人の子に仲良く、かつ相続する財産を少しでも多く残すために支払う相続税を少なくしたい。そのためにはどんな方法があるかを考え、実行するのが相続税対策です。
 

相続税対策の例

相続税対策の方法はいろいろあります。よく用いられる方法の1つが「不動産を用いた節税」です。
 
相続税を算出する際には「相続税評価額」を用います。不動産の「相続税評価額」は実際に市場で取引される価格(実勢価格)よりも小さな金額になる場合が多く、また、その不動産が「賃貸用」ならばさらに評価額を圧縮できます。「不動産を用いた節税」はこの価格差を利用する節税策ですが、先述のように、「不動産は分割・換金しにくい資産」です。分割対策も考えておかないともめる可能性も増大しかねません。
 
ほかの節税対策の例として、節税効果の大きい特例、例えば「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」などの活用があります。
 
配偶者の税額軽減は、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、1億6000万円、あるいは配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。
 
「配偶者の税額軽減」は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されます。もし、相続税の遺産分割協議が申告期限までに完了していない場合は適用できません。
 
申告期限までに遺産分割が完了しない場合、申告期限内に、この制度を使わずに相続税を算出し、申告・納付します。その際「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、申告期限から3年以内に分割が完了すれば、更生申告をすることで税額軽減の対象になり、払いすぎた相続税を取り戻すことができます。
 
「小規模宅地等の特例」は、相続財産のうち一定の条件の土地を、一定の基準を満たす相続人が相続した場合に適用できる特例です。
 
例えば、被相続人が所有する土地を同居している配偶者や同居している親族が相続した場合に最大80%の評価減が受けられます。(その他にも適用対象、条件が個別に定められています)
 
節税効果としては非常に大きいのですが、誰が相続するかにより、適用できるかどうかも変わります。ここでも分割の仕方でもめる可能性があります。詳しくは国税庁のホームページでご確認ください。
 

まとめ

相続は必ず発生します。そして、身内の相続が原因で親族がもめることは望まないでしょう。
 
しかし、実際には、相続が原因で親族がもめ、裁判所で調停に持ち込まれるケースも少なくありません。しかも、調停に持ち込まれるケースのうち遺産額5000万円以下が占める割合は多く、必ずしも遺産額が多いケースばかりではありません。
 
どのような相続対策が必要かは家族の状況、資産の多寡や内訳により異なります。相続税がかかってももめずに分割できることのほうが大事、という場合もあるでしょう。円満に、スムーズに相続手続きが進められるようにする「相続対策」は今回ご紹介した「3つの柱」を念頭に考えることが重要です。
 
また、自身の判断で思い付きの相続対策を行うことはかえってトラブルを招いたり、思ったような効果が得られなかったりすることもあります。対策の内容によっては、しっかりと専門家に相談しておく必要があるものもありますので注意しましょう。
 

出典

国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役

PR
FF_お金にまつわる悩み・疑問 ライターさん募集