更新日: 2023.10.11 相続税

税金が高いから対策したい! 相続税、どうやったら節税できる?(後編)

執筆者 : 西山広高

税金が高いから対策したい! 相続税、どうやったら節税できる?(後編)
前編(※)でお伝えしたとおり、相続対策は「分割対策」「納税資金対策」「相続税対策」の3つの柱で検討します。相続税対策は、相続対策のほんの一部。節税しても相続が発生した際にもめてしまっては相続対策としては失敗といえます。
 
とはいえ、もめないで相続できるめどが立ったのであれば、相続税は少ないに越したことはありません。その分、残された人に多く資産を残せます。
 
前編のコラムで、相続税対策の基本「資産を減らす」「評価額を減らす」「控除額を増やす」のうち、「資産を減らす相続税対策」についてお伝えしました。相続財産が減れば、おのずと相続税も減ります。有利に贈与などを活用することで、資産を減らすことができる方法について解説しました。しかし多くの人は、「資産を減らさずに相続税を下げる方法はないか」を知りたいでしょう。
 
今回は、「評価額を減らす」「控除額を増やす」ことによる相続税対策についてお伝えします。
西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役
 
http://www.nishiyama-ld.com/

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/

評価額を減らす節税策

よく使われる「評価額を下げる節税策」の主なものに「不動産の活用」があります。相続税を算出する際には、「相続税評価額」を用います。不動産では多くの場合、実勢価格よりも相続税評価額のほうが小さくなります(地方では、実勢価格を相続税評価額が上回っているケースもあります)。この「実勢価格」と「相続税評価額」の差額を利用するのが、不動産を活用した節税策です。
 
そして、その不動産が賃貸用であれば、さらに評価額の圧縮を図ることができます。アパートやマンションによる節税がこれにあたります。
 
マンションの相続税評価額については、見直しが予定されていることが明らかになりましたが、そもそもマンションの相続税評価額は一戸建てやアパートと比べて、実勢価格との乖離(かいり)が大きかったことからこれを補正するものです。多くの場合、現金で持っているよりも不動産のほうが、評価額を下げる効果があることには変わりありません。
 
「評価を下げる節税策」には、「自社株の評価を下げる」というものもあります。未上場会社の株式を保有されている方が亡くなられた場合、その会社の株式等は相続財産です。
 
売却することができないものの、会社の状況によっては高額に評価される場合もあります。評価方法は状況により異なりますので、詳細は割愛しますが、そうした財産をお持ちの方は専門家に早めに相談することをお勧めします。
 

控除額を増やす節税策

もうひとつの節税策は、「控除額を増やす」ことです。相続税ではいくつかの特例等によって課税遺産から控除できるものがあります。
 
<生命保険等の節税枠の活用>
生命保険金には、「法定相続人の数×500万円」の控除があります。相続人が2人の場合、2人の相続人が受け取る生命保険金1000万円までは非課税になり、節税できます。
 
「退職金」にも同様の控除があります。現役で働かれていた方が亡くなった場合、「死亡退職金」が給付される場合にも「法定相続人の数×500万円」の控除があります。すでに退職金を受領してからお亡くなりになり、その金額がまったく手につかず残っていてもこの控除は適用できません。
 
<小規模宅地等の特例の適用>
お亡くなりになった方が住んでいた家(自宅)や、賃貸不動産を所有されていた場合などでは、「小規模宅地等の特例」を適用できる場合があります。
 
この特例は、一定の条件の不動産(土地)を一定の条件を満たす相続人等が相続や遺贈により取得した場合に適用できる特例です。この特例の活用の効果は大きく、自宅では土地の相続税評価額を最大80%減にできるため、活用できるならばぜひ検討したい対策です。
 
適用の対象となる不動産(土地)や相続人等についての詳細は、国税庁のホームページに詳しく記載されていますのでご確認ください。
 
<養子縁組によって法定相続人を増やす>
先述のように、相続税の基礎控除は3000万円+法定相続人の数×600万円です。養子縁組により法定相続人が増えれば、相続税額が減少する可能性があります。よくあるのは、「孫」や「子の配偶者」などを養子にするケースです。
 
基礎控除が増えるだけでなく、相続税額の総額も圧縮が図れる場合があります。相続税の計算では、法定相続分どおりに相続した場合の税額を計算し、その合計が相続税の総額になります。相続税は「累進課税=課税額が増えるほど税率が上がる」を採用しています。そのため、相続人の数が増えることで、税率も抑えられる場合があります。
 
ただし、いくつか注意点があります。
 
税法上、養子として認められるのは実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までという制限があります。民法上は何人とでも養子縁組を行うことができますが、税法上は制限があることに注意しましょう。
 
また、孫を養子にした場合、孫の相続税は2割増しになることにも注意が必要です。
 
さらに、仮に養子縁組をしているにもかかわらず、その養子にまったく、あるいはほとんど財産を相続させず、当初の法定相続人だけで財産を分割した場合、税務署から「節税目的のためだけの養子」と指摘され、法定相続人であることを否認される場合があることも注意してください。
 

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相続時精算課税制度を活用する

前編のコラムで「資産を減らす」節税策として「贈与の活用」についてお伝えしました。相続時精算課税制度は贈与と相続の両方に関係し、上手に活用すれば節税につながる場合があります。
 
相続時精算課税制度とは、贈与したときには2500万円まで贈与税を課税せず、相続発生時にその贈与財産を相続財産に持ち戻して課税する制度です。最終的に相続財産に持ち戻されますので、その贈与財産の評価額が変わらなければ、相続税だけで考えれば節税にはなりませんが、上手に活用すれば節税になる場合があります。
 
この制度を利用して贈与を行った場合、相続発生時の評価は「贈与時の評価額」になります。評価が変わる資産としては、自社株式や土地などがあるでしょう。値上がりする可能性が高い資産(株式など)や、果実を生む資産(家賃収入がある不動産や配当金がある株式など)ではこの制度による節税効果が期待できます。
 
相続時精算課税を適用する場合、税務署に申告が必要です。また一度、相続時精算課税を選択した場合には暦年課税は使えません。これまで、相続時精算課税を選択すると暦年課税の基礎控除(110万円)も使えなくなってしまったのですが、令和6年の税制改正により、相続時精算課税でも110万円の基礎控除が認められることになりました。
 
相続時精算課税制度はこれまで「使い勝手が悪い」ともいわれていましたが、今後は相続時精算課税も有力な選択肢になりえると思います。
 

まとめ

後編では「評価額を減らす」「控除額を増やす」節税策についてご紹介しました。国・政府は「税収を増やしたい」と考えています。一方で高齢化が進み、相続でも「老老相続」が増えるなか、「資金需要が旺盛な世代への資産の移転を促したい」と考え、贈与税の特例などの制度を設けたりもしています。
 
相続対策は、まずご自身の資産状況を把握し、相続人たちとの関係も考慮したうえで検討する必要があります。また「最良の策」はひとつとは限りません。
 
節税したい、という気持ちは理解できますが、節税ばかり気にして分割対策や納税資金対策がおろそかになってしまっては元も子もありません。相続が発生した際に「もめずに、スムーズに」進められる相続対策が第一です。
 
自分に、あるいは身内のどなたかの相続を想定した場合にどのような対策をしておくべきかは、それぞれの家庭で異なります。もめない相続対策を進めるためにも、相続全般に精通した専門家にご相談されることをお勧めします。
 
(※)ファイナンシャルフィールド 税金が高いから対策したい! 相続税、どうやったら節税できる?(前編)
 

出典

国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、宅建マイスター(上級宅建士)、上級相続診断士、西山ライフデザイン代表取締役

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