非課税の「一括贈与」への対応は急いで 相続対策は待ったなし

配信日: 2023.11.25

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非課税の「一括贈与」への対応は急いで 相続対策は待ったなし
最も一般的な贈与は「暦年贈与」といわれるもので、毎年110万円の控除額を利用しながら、子どもなどに財産を移転していく方式です。
 
しかし、実際の相続が発生した場合、それ以前7年間分の贈与としては認められず、相続財産として再計算されるように制度改正となります。相続が近いと考えられるときに利用しづらくなっています。相続対策として、何か他の方法はあるでしょうか。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

非課税で可能な3種類の一括贈与

一度に大きな金額を贈与できる「一括贈与」の仕組みはありますが、数年後に廃止される可能性もあり、対応を急ぐ必要があります。またそれぞれ贈与の方法などに制約があり、これをクリアしなければなりません。
 
しかし暦年贈与では、多額の財産移転が難しいため、条件を満たせる方は、この一括贈与はぜひとも活用したい仕組みです。
 
現在、一括贈与ができる制度としては3種類があります。子どもや孫などを対象としており、贈与額も1000万円以上になっています。
 
まず代表的なものは、「教育資金」の一括贈与です。1500万円まで非課税で贈与ができ、子どもと孫が対象です。次が「結婚・子育て資金」の一括贈与で、1000万円まで非課税で贈与でき、子どもと孫が対象です。さらにもう1つが「住宅取得資金」の一括贈与で、上限1000万円まで可能で、これも子どもと孫が対象になります。
 
一度に多くの金額を贈与できるメリットはありますが、必ずしも使い勝手がよいとはいえません。
 
2023年の税制改正で、「教育資金」の贈与は2026年3月末まで、「結婚・子育て資金」の贈与は2025年3月末まで、それぞれ延長されることになりました。しかし「住宅取得資金」については延長されずに、2023年12月末で打ち切られます。
 
いずれにしても長期に利用できる制度ではなく、実施期間が限られており、利用したいと考える方は急がなくてはなりません。とくに「住宅取得」の贈与は、延長がなされなかったため、これからの利用は難しいかもしれません。他の2つの一括贈与にしても、今後2~3年の延長のため、準備手続きを考えると早めの対応が大切です。
 

利用にあたり制約も多い

非課税で1000万円以上を贈与できる制度ですが、仕組みを知らないと困った事態に直面します。
 
まず「教育資金」ですが、これを受け取る側の条件として、年齢が30歳未満の子どもと孫、受贈者の年間所得が1000万円以下との条件があります。「結婚・子育て資金」の場合は、年齢が18歳以上50歳未満で、受贈者の年間所得が1000万円以下になります。また「住宅取得」に関しては、18歳以上の子どもと孫で、年間所得1000万円以下が対象です。
 
いずれも受け取る側の年齢や年間所得が決められており、まずこの条件をクリアしていることが前提です。
 
受け取る側の条件に加えて、利用目的以外に資金が使えません。例えば「教育資金」の例でいえば、まず金融機関に専用口座を開くことが必要です。その上で支払った入学金や授業料などの領収書を添えて始めて、教育資金専用口座から出金ができます。教育資金のうち、学校以外の習い事にも500万円まで利用可能です。
 
ただ注意が必要なのは、贈与を受けた方の判断で、例えば少額の学習参考書や文房具などの購入を、「これは教育費だから」として自由に引き出せません。そのため、小学校から大学まで私立学校に通う、私立大学の医学部へ進学するなど、教育費がかかる方は恩恵を受ける仕組みですが、すでに大学に通っているなど、今後計画的に教育費を使いにくい方は、使い残しが起こる可能性があり、利用は難しいといえます。
 

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今回新たに変更になった点

さらに、今回の延長に伴い2点が新たに変更になりました。
 
まず1つめは、相続時点で使い残しがあった場合に、かかる税率が変わります。延長が決まった「教育資金」と「結婚・子育て資金」について、贈与を受けた方が一定年齢以上になり、贈与対象者から外れた時点で資金に使い残しがあった場合、その残金には「贈与税」がかかります。
 
これまでは、残された金額に対して、親族への贈与に適用される特例税率が認められてきましたが、今回の改正では、より高い「一般税率」が適用されることになり、使い残しがあると不利になります。
 
2つめは、教育資金を受けた受贈者が、相続時点での財産が5億円超の場合、年齢を問わず課税対象になります。これまでは23歳以上に限られていました。ただし、どちらの変更点も対象者は限られます。制度自体が富裕層の特権といった批判を、多少考慮した手直しにも見受けられます。
 

制度内容を確かめ早めに着手

住宅資金の贈与は、ほとんど時間がない状態ですが、教育資金と結婚・子育て資金については、まだ時間的余裕があります。ご自分の子どもや孫に対して、贈与できる条件が備わっているかを確認することが大切です。
 
例えば、大学卒業間近の孫に対して、1000万円の教育資金の贈与をしたとしても、使い残しが出ことは眼に見えています。100万円の少額贈与では手間だけが増え、お小遣いを増額したほうが実利的かもしれません。年齢が小学生以下で私立に通学しているなど、今後教育資金の利用が確実に見込める場合には、かなりの効果があります。
 
さらに、この制度自体が、贈与を受けた場合の使途が限定され、受贈者の勝手な判断では資金の利用ができないことです。領収書が必要なケースがほとんどで、それがあってはじめて専用口座から出金できます。先に専用口座から出金し、経費を支払うことはできません。贈与を受けた側も、こうした制度の仕組みを理解していないと、多くの使い残しを発生させる結果となってしまいます。
 
以上のことを留意しておきましょう。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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