更新日: 2024.04.01 その他相続

遺産分割協議書の基本を解説! ひな形や自分でできる作成方法も紹介

執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部 / 監修 : 柘植輝

遺産分割協議書の基本を解説! ひな形や自分でできる作成方法も紹介
遺言書がない場合は原則として法定相続割合で相続しますが、相続人全員が合意すれば、欲しい遺産を選んで分け方も自分たちで自由に決められます。その際に作成する書類が「遺産分割協議書」です。
 
遺産分割協議書には特に決まったひな形はありませんが、もしも記載内容や成立要件に不備があれば、法的に無効になって遺産相続手続きで使用できない可能性があります。
 
この記事では、遺産分割協議書の具体的な書き方を、ひな形(文例)を示しながら解説します。
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執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)

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遺産分割協議書とは

「遺産分割協議書」は、遺産相続がある場合に必ず作成すべきものではありません。

遺言書が残されていた場合や全てを法定相続割合で分割するなら不要であるため、あくまで「相続人の意向によって作成すべきかどうかを決めてよい書類」です。

遺産分割協議書を作成する理由

遺言書がないものの法定相続割合どおりに分配したくない場合や、遺言書で相続割合の指示があるもののそれとは異なる割合で分配したい場合には、全相続人が合意すれば別の相続割合で分配できます。

そのような場合には、全相続人が参加した協議で全員がその相続割合に合意していることを証する遺産分割協議書が必要になるのです。

なお、法律上は遺産分割協議は口頭だけでも成立するため、絶対に作成しなければならないわけではありません。

しかし、口約束では第三者からその合意の確証がとれないことや、後になって合意していないと協議結果を覆す相続人が出てくれば遺産分割が終わらなかったり遺産の取り合いで揉めるリスクがあります。

こうしたトラブルを避けるもっとも効果的な方法は、協議の結果を全員が署名捺印した書面で記録を残すことなのです。

また遺言書がなく法定相続割合どおりで相続する場合でも、遺産分割協議書がなければ全相続人が法定相続割合に合意しているかどうかを証明するものはありません。

そのため、不動産や預貯金その他の財産を名義変更する際に、遺産分割協議書がなければ手続きに時間がかかる場合がほとんどなので、迅速な手続きのために作成することも多いのです。

遺産分割協議書の作成期限

遺産分割協議書の作成自体に法的な期限はありません。

ただし、相続税の申告期限や相続税の納税期限が「相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常は被相続人の死亡日)の翌日から10ヶ月以内」と定められています。

例えば、被相続人が1月11日に死亡した場合にはその年の11月11日が申告期限になります。

相続税の申告期限までに遺産分割協議が整わなければ相続税の計算ができないため、申告も納税もできません。また、納税期限をすぎて納付されない下記のような場合には、利息に相当する延滞税が自動的に課されます。

・申告で確定した相続税を納期限までに全額納税しないとき
・期限後に申告書または修正申告書を提出した場合で、納付すべき税額があるとき
・更正または決定の処分を受けた場合で、納付すべき税額があるとき

いずれの場合も、申告期限および納税期限の翌日から納付日までの日数に応じた延滞税を納付しなければなりません。

相続税の申告期限ぎりぎりに協議書が完成しても申告や納税が間に合わない可能性が高いため、余裕のあるスケジュールで遺産分割協議を進めていくことが望ましいでしょう。例えば、相続開始から6ヶ月経ったくらいに遺産分割協議の完成が見えている状態ならひとまず安心といえます。

遺産分割協議に必ず参加すべき人

遺産分割に参加すべき人は相続人全員です。

遺産相続手続きにおいては、身近にいる親族以外からも相続人が出てくる場合があるため、被相続人の戸籍を出生までたどって相続人の存在を調査します。

なぜなら、後から相続人が出てきた場合には、すでに確定したはずの遺産分割協議が無効になるからです。つまり、相続人全員参加とは相続人調査の結果出てきた相続人全員ということになります。

なお、全員参加するとは同時に同じ場所で一堂に会するという意味ではなく、全員が協議内容を理解して合意し、それを証する全員分の署名捺印を揃えるという意味です。

遺産分割協議に必要な書類

遺産分割協議書には、被相続人の情報と死亡した日や場所、相続財産の特定や分量・割合など、勘違いが起こらないように確定した詳細な情報を記載する必要があります。

遺産分割協議書は以下の図表1のような資料を参考に、確実に財産を特定できるように作成します。

図表1

遺産の種類 記載内容の根拠になる書類
不動産 登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産税納税通知書
金融資産 残高証明書、Eメール、保有証券、照会依頼の結果通知書
車、貴金属、美術品、骨董品 登録証、鑑定書、領収書
生命保険 保険証券
売掛金・買掛金・借金 決算書、出納台帳、借用書、個人信用情報照会の通知書
相続人の意思確認 印鑑証明書

筆者作成

相続人全員が実印で署名押印する

遺産分割協議書への実印の押印に法的根拠はなく、認印でも書類の効力に影響はありません。

しかし、多くの名義変更手続きで実印の押印と印鑑証明書の添付を要求されることが多いため、手続き書類と遺産分割協議書の印影を揃えるために、遺産分割協議書にも「実印」を使ったほうがよいとされています。

遺産分割協議書が必要になる場面

遺産分割協議書が必要になる場面について解説します。

相続税申告のために相続割合を決める時

相続税の申告手続きでは遺言書ではなく遺産分割協議書を添付することもあります。

遺言書は最終的な相続割合が記載されていない場合があることや、財産の記載漏れや特定情報不足および最終的な相続人の人数や関係が分からないことがあるからです。

相続税の節税ができる特例には「配偶者控除」、「小規模宅地等の特例」その他があり、それらの要件を満たす根拠としても、戸籍その他の根拠になる資料が添えられた遺産分割協議書が適しているのです。

したがって、遺言書ではなく遺産分割協議で決定した内容で相続税を計算して申告する場合には、遺産分割協議書を添付することになります。

不動産や車などの名義変更が必要な時

遺産の種類によって名義変更の申請先が異なり、手続きでは前出の図表1のように遺産分割協議書とあわせて、最適な必要書類を添付しなければなりません。そして、以下の図表2のような手続きを行います。

図表2

遺産の種類 名義変更の申請先 手続き内容
不動産 不動産がある地域を管轄する法務局 相続による所有権移転登記、法定相続情報証明書の発行(※1)
株式 取引がある証券会社 相続人の名義に書き換え、相続人の証券口座に株式を移動
生命保険 保険会社 保険金の請求、被相続人が受取人の保険は受取人の変更
預貯金 預貯金がある銀行 預金の名義変更、解約払い戻し
運輸局 登録名義変更

筆者作成

(※1)法務局で入手できる「法定相続情報証明書」は、その後の預貯金や株式の名義変更で使えて便利なので、相続登記の手続きにあわせて相続人関係図(いわゆる家系図、自由書式)を提出して取得しておくとよいでしょう。

銀行で預金の払い戻し手続きが必要な時

口座名義人(被相続人)が亡くなった場合は、親族もしくは遺言執行者が預金の払戻しの手続を行う必要があります。

その際に、いったん凍結した口座を復活させる根拠や、預金を相続する者が誰で、その者が全ての相続人の総意で指名されているのかを確認するために、銀行は手続きをする者に遺産分割協議書の提出を要求します。

遺言書どおりの相続で揉める可能性がある時

遺留分とは、相続放棄や欠格事由に該当しないなどの例外を除いて、必ず遺産を相続できる法定の割合です。

例えば、夫が亡くなり妻と2人の子どもが遺産を相続する場合、法定相続割合と遺留分は以下の図表3のようになります。

図表3

法定相続割合 遺留分(法定相続割合の半分)
1/2 1/4
子ども1 1/4 1/8
子ども2 1/4 1/8
割合の合計 1/1 1/2

法務局 法定相続人(範囲・順位・法定相続分・遺留分)を基に作成

全てのパターンの遺留分が法定相続割合の半分になるのではなく、なかには例外もあります。

法定相続や遺言と異なる割合で相続したい時

相続人が1人しかいない場合や、遺言書に記載された財産と割合どおりに相続する場合は、遺産分割協議は行わないため協議書は作成しません。しかし、法定相続割合や遺言書の記載内容とは異なる内容の相続を行う場合には、必ず遺産分割協議書を作成します。

<代償分割をする場合>
代償分割とは、不動産を共有せずに単独で所有する目的のために、他の相続人の所有権持分の価値に相当する金銭を単独所有する相続人から持分を手放す相続人に対して支払い、遺産相続の均衡を図る分割方法です。

例えば、法定相続割合で相続する前提で、夫を亡くした妻がその家を単独相続しそのまま居住し続けるような場合、2人の子どもの持分である1/4ずつに相当する金銭をそれぞれの子どもへ支払う方法で、子どもが相続する予定だった持分を妻が買い取る手続きです。

この場合には、妻が家を単独で相続すると子ども2人が合意したという遺産分割協議内容にして、家の名義を妻の単有にする遺産分割協議書などを添付して法務局で所有権移転登記を行います。

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相続開始から遺産分割協議書作成までの流れ

相続がはじまってから遺産分割協議書を作成するまでは、下記のような流れになります。

・STEP1. 全ての相続人を確定させる
・STEP2. 全ての相続財産を調査する
・STEP3. 誰が何をどれだけ相続するか確定
・STEP4. 署名捺印して各自が保有する

それぞれについて解説します。

STEP1. 全ての相続人を確定させる

まずは相続人が誰なのかを確定させますが、相続人全員が被相続人の死亡時の行動圏内にいるとは限りません。

そのため、最新の戸籍(除籍)へ転入してきた際の元の住所地へと順にたどりながら、被相続人の出生が記録された戸籍(除籍)まで遡りながら集めていきます。その過程で、子どもを授かったり養子縁組があれば相続人が増えることになり、その方の戸籍もたどって現住所を突き止めます。

なお、戸籍は「改製」、「転籍」、「分籍」、「養子縁組」、「婚姻」、「除籍」などの原因によっては新たに作成される戸籍へ移りますので、これらの記載を注意深く探しながら確かな調査で相続人を確定させましょう。

ちなみに、戸籍の取り寄せは自治体へ郵送で請求するのが主流ですが、すでに一部の自治体では電子化が進んでおり、2024年(令和6年)3月1日に施行される戸籍法の改正によって、最寄りの自治体窓口で一括取得できるようになります。

電子化された戸籍は、下記のように呼び名が変わります。

・戸籍謄本から全部事項証明書へ
・戸籍抄本から一部事項証明書へ

※元の戸籍は改正原戸籍(かいせいげんこせき )と呼ばれる

STEP2. 全ての相続財産を調査する

全ての財産を確定させてから遺産分割協議を開始しなければ、もっともよい遺産分割にならないばかりか、新たな財産が見つかるたびに遺産分割の話し合いを持たなければならないため、とても煩雑です。

不動産や株式および高額の商品や美術品などは時とともに価値が変動するため、相続時点の価格を査定しなければなりません。

以下の図表4は財産の種類に応じた一般的な調査方法の一覧です。

図表4

財産の種類 調査方法
預貯金 ・通帳、キャッシュカード、クレジットカード、通知書、電子メールアドレスを調べる
・各金融機関への一括照会を弁護士に依頼する
・金融機関を特定して残高証明を取得する
不動産 ・固定資産税の納税通知書、権利証(登記識別情報)を探す
・役所の固定資産台帳を照会する
・賃貸借契約書や通帳の入金履歴から借家権や借地権を探す
貴金属、宝石
ブランド品、美術品や骨董品
・鑑定書、領収書、中古市場を調べる
・査定を依頼する
車、動産 ・再取得価格に対して経年に応じた減価償却で補正する
株式、債権、
FX、仮想通貨
・通知書、電子メール、取引所や販売所を調べる
・証券会社、銀行へ問い合わせ、残高証明書を取得する
・会員権の証券や会員証から調査する
生命保険 ・通知書、Webサイト、控除証明書、電子メールを調べる
・保険会社へ照会する
売掛金、買掛金 ・出納帳、決算書、電子メールを調べる
借金 ・ローン契約書、請求書、返済計画書、督促状、領収書、通帳の支払い履歴を調べる
・各信用情報機関(CIC、JBA、JICC)へ照会する

筆者作成

STEP3. 誰が何をどれだけ相続するか確定

相続人と相続財産が確定したら、次は相続人全員で遺産分割協議を行います。ただし、実際に同じ場所で会議のように話し合う遺産分割協議はそれほど多くありません。

遺産分割協議は、全員の合意があれば法定相続割合や遺言書の指示さえも変えて新たな相続割合を決められます。新たな遺産が発見された場合の分割方法もこの時点で決めておきましょう。

なお、遺産分割協議によって遺留分の侵害があっても「遺留分侵害額請求権」を主張することはできませんが、不満があれば署名捺印を保留して意見を主張すべきです。そうして、将来に遺恨を残すことのないように、全員に配慮した丁寧な協議を心がけましょう。

ちなみに、万一遺産分割協議が整わなければ、家庭裁判所が介入して「調停」や「審判」の手続きを経て最終決着を迎えることになります。

STEP4. 署名捺印して各自が保有する

遺産分割協議書は、相続人全員分を作成して全員が全てに署名捺印をして、それぞれが手続きで使用しその後は印鑑証明書とともに手元で保管します。

財産目録などが多いために複数枚が合綴された遺産分割協議書になった場合には、折ったページや製本テープ部分にまたがった契印、複数冊ある場合には全部を重ねて全冊にまたがった割印を押して、念のため加工や変造ができないようにしておきましょう。

ただし、契印や割印の有無と法的効力とは無関係です。

遺産分割協議書のひな形と書き方(文例付き)

遺産分割協議書の記載方法に決まりはありませんが、記載内容に不備があれば協議書が無効になり相続手続きに使用できなくなるため、文例を示しながら書き方を解説します。

ひな形の入手窓口やダウンロードサイト

遺産分割協議書のひな形がダウンロードできる公的機関のWebサイトはありません。

ただし、弁護士、司法書士、行政書士、税理士などのWebサイトで、PDF形式やWord形式などのファイルをダウンロードできるようにしているケースはいくつも見られます。

サイトによっては、内容が適切でないことや、個別の事情次第ではそのまま使用すると不備が生じることもありますのでご注意ください。

ここでは東京法務局のWebサイトにある「相続登記の申請書記載例に含まれる遺産分割協議書の例」を、以下に図表5として引用掲載しています。

図表5


東京法務局 【相続登記ガイドブック】

なお、上記の遺産分割協議書の例はかなりシンプルなものであり「後日判明した財産の取扱い」などを別途定める場合には、「上記以外の被相続人にかかる遺産が新たに発見された場合、相続人〇〇〇〇が相続することに合意した」などと記載しておけば、新たに財産が見つかっても再度遺産分割協議を開かなくてよくなります。

ただし、高額すぎる財産が見つかった場合には相続人のあいだで不公平感が出るため「本遺産分割協議の成立後、上記以外の被相続⼈にかかる遺産が新たに発⾒された場合、相続人全員で協議して取得者を決定する」としておいてもよいでしょう。

遺産分割協議書を自分で書く際のポイント・注意点

自分で作成する際のポイント・注意点について解説します。

手書きでなくパソコンで作成できる

遺産分割協議書の書き方に法的な決まりは特になく、縦書き横書きの区別もパソコン印字と手書きの選択も作成者の自由です。

ただし、金融機関のなかには相続による名義変更や解約払い戻し手続きの際に、必要書類の要件として直筆で署名した遺産分割協議書しか認めてくれない場合があるため、署名だけは直筆で記入しておくほうが安心でしょう。

なお、必要事項が記載されていない場合は内容に不備があるとして協議書の法的効力が否定されてしまう場合があります。再度遺産分割協議を行って協議書を作成しなおさなくても済むように、ここから遺産分割協議書の要件について解説します。

成立要件や利用先の要件を満たす

遺産分割協議書には日付を書き入れましょう。

日付は最後の相続人が署名をし終えた日を記入します。この日は、相続人全員の署名が揃って実際に書面が完成した日ですが、遺産分割協議書の効力は相続開始の時点まで遡って発生することになります。

故人(被相続人)の情報も記載

「誰が財産を残したのか」という情報を最初に記載します。下記のように、被相続人名、生年月日、死亡年月日、本籍地、最後の住所などを記載しましょう。

被相続人名 遺産太郎
生年月日  昭和〇〇年〇〇月〇〇日
死亡年月日 令和△△年△△月△△日
本籍地   東京都〇〇区・・・
最後の住所 東京都△△市・・・

この情報は、さまざまな手続きの際に添付している戸籍の記載と比較し、死亡の事実や人物を照合します。

どの財産を誰にどれだけ分配するかがもっとも大切

次に「誰がどの財産をどれだけ取得するのか」について記載します。調査によって見つかった遺産は、省略することなく正確に記載しなければ事実と相違して特定できなくなるため、間違いのないように、紛らわしくないように注意しましょう。

それでは、遺産の特定方法について遺産の種類ごとに解説します。

(1)預貯金

銀行名  〇〇銀行
支店名  △△支店
預金種別 普通
口座番号 11223344
名義人  遺産太郎

なお、預金口座ごとに相続人を分けて指定することはできますが、相続後に実行された引き落とし振り替えで残高が変動することがあり、当初想定していた金額と異なってしまう場合があります。

その場合でも配分が変わらないように、口座の残高もしくは全預金額の1/2など割合で指定しておくと揉めることはないでしょう。

(2)不動産
「自宅」のようなあいまいな表記では、離れや付属倉庫をどうするのか、また底地が複数筆あった場合にどこまでを指すのか確定できません。

しかし、履歴事項全部証明書(登記簿謄本)に記載されたとおりに書いておけば、判断が分かれることは絶対にないのです。

さらには、法務局へ相続登記(相続した不動産の名義変更)の登記原因証明情報として提出する際にも、不動産の特定ができていなければ法務局は登記手続書類として受理してくれません。

土地なら「所在地、地番、地目、地積」で、建物なら「所在地、家屋番号、種類、構造、床面積」つまり、土地も建物も履歴事項全部証明書(登記簿謄本)の「表題部」をそのまま記載しておけば問題ありません。

(3)株式などの有価証券
株式や有価証券は、証券会社名、支店名、口座番号、名義人を記載して証券口座を指定し、その後に個別の株式の識別情報を下記のように記載して確実に特定します。

証券の種類 株式、債権、投資信託、
銘柄    株式会社名や商品名
銘柄コード 特定の数字コード(日本の上場企業なら4ケタ)
数量    株式の数(個数や口数)

(4)債務や負債(借金や未精算の支払い義務)
遺産分割協議書には資産だけでなく負債も記載しなければなりません。下記のように、契約種別、借入残高、債権者について記載しましょう。

相続人:遺産花子 は日宇相続人名義の次の負債を承継する

契約種別 金銭消費貸借契約
借入残高 金123万円
債権者  〇〇信用金庫 

(5)記載しなくてもよい財産がある
死亡保険金や死亡退職金は、下記の理由により記載不要です。

<死亡保険金>
被相続人の死去にともなって受け取る死亡保険金は受取人の固有財産であるため、遺産分割を行う際の相続財産に含みません。

<死亡退職金>
被相続人が死亡にともなう退職によって支給される死亡退職金は、遺族の生活保障が目的の金銭支給であり受取人の固有財産です。

遺産分割協議書を自分で作成するメリット・デメリット

自分で作成するメリット・デメリットについて、それぞれ解説します。

自分で遺産分割協議書を作成するメリット

遺産分割を専門家に依頼すると報酬を支払わなければなりません。しかし、一連の手続きを全て自分で行えば、最低限の費用しかかかりません。

難しい手続きなら時間や労力の負担が大きくミスの可能性も高くなりますが、遺産が預貯金のみなど少なく、相続人の確定が簡単で人間関係にも特に問題なければ自分で手続きをしてみてもよいでしょう。

自分で遺産分割協議書を作成するデメリット

相続開始から10ヶ月以内に遺産分割協議書の作成を済ませ、相続税の申告と納税まで終わらせなければなりません。忙しい相続人が、時間を見つけてひとつひとつ調べて勉強しながら手続きをするのは、時間も手間もかかり大変になるでしょう。

しかも、手続きのなかで別の相続人や相続を1人に集中させる遺言書もしくは巨額の負債が出て来た場合には手続きの難易度が一気に上がるため、専門家に手続きをやり直してもらうことになるかもしれません。

遺産分割協議書の作成を専門家に依頼するメリット・デメリット

専門家に依頼するメリット・デメリットについて、それぞれ解説します。

専門家に遺産分割協議書の作成を依頼するメリット

遺産分割協議を専門家に依頼するメリットは下記の点です。

自分で手続きをする場合には、難しくて専門的な相続関連の手続きを一つひとつ調べながら行わなければならず、間違った理解に基づいて間違った手続きをする可能性も少なくありません。

しかし、相続を専門にしている専門家が介入してくれれば、ミスをして無駄な時間を費やすことはないのです。

ちなみに、司法書士は登記の専門家であるため、遺産分割協議書の作成以降に必要な相続登記手続きまで依頼できます。

また、弁護士は法律のスペシャリストであり、揉めごとが起きても依頼者と相手方の間に入って解決してくれます。しかも、職権で迅速な手続きができる場合があるため、相続人の確定や遺産の調査も自分で行うより何倍もスムーズに行えるのです。

自分の専門外の手続きは、提携している別の先生へと連携してくれることがほとんどですので、わざわざ自分で別の先生を探さなくて済むのも大きなメリットといえるでしょう。

専門家に遺産分割協議書の作成を依頼するデメリット

専門家に依頼すれば、手続きにかかる手間や時間から解放されて完全な手続きのサポートが得られる安心感と引き換えに、下記のような相応のお金がかかります。

・司法書士への依頼費用の相場:3~5万円
・弁護士への依頼費用の相場 :5~10万円

 

遺産分割協議書に関してよくある質問

 

Q. 遺産分割協議書の用紙はどこで入手できますか?

遺産分割協議書の定型の用紙はなく、各種続きで必要な遺産分割の内容が記載されていれば足ります。用紙サイズや色にも特段のきまりはないものの、パソコンで作成するならA4サイズがよいでしょう。

Q. 遺産分割協議書を紛失した場合には再度遺産分割協議が必要ですか?

遺産分割協議書をなくした場合は、他の相続人に遺産分割協議書の原本を借りれば各種手続きができます。

ただし、原本を再取得したい場合はその他の相続人に再度署名捺印してもらわなければなりません。ですから、署名捺印を拒絶する相続人が1人でもいれば再取得はできません。

紛失しないためにも、遺産分割協議書は施錠して簡単に出せない場所に保管するか、第三者が保管してくれる公正証書で作成するとよいでしょう。

Q. 遺産分割協議書は遺産ごとに作成できる?

遺産分割協議書は、一部の遺産のみを対象として作成可能です。分配する相続人メンバーと相続割合が確定した遺産から名義変更手続きが進められる点でメリットがあります。

ただし、その遺産を引き継ぐ相続人が1人であっても必ず全相続人が参加した遺産分割協議書にしなければならず、残る遺産について追加で作成する場合も同様に相続人全員参加を要するというのでデメリットです。

なお、財産目録の記載は毎回全遺産を記載する必要はなく、対象となる遺産についてのみの記載で足ります。

Q. 相続人が海外に住んでいる場合は?

相続人が海外に住んでいても日本に住民票や印鑑証明が残っている場合は、遺産分割協議書を郵送でのやりとりして直筆の署名と実印の押印を依頼します。

ただし、すでに海外に住所が移っていて日本に住所がないなら、印鑑登録証明書ではなく「サイン証明(署名証明)」が必要です。

Q.欄外にあらかじめ捨印を押す必要はある?

遺産分割協議書では、捨印があることよって遺産分割協議書の完成後に内容が書き換えられるリスクが高まります。そのため、捨印を使うなら「捨印で加筆修正できる範囲は誤字脱字に限る」など、捨印の使用方法を遺産分割協議書内で定義しておくとよいでしょう。

一方で、司法書士や弁護士などの専門家が遺産分割協議書を作成する場合は「専門家が捨印を悪用する可能性は極端に低い」と考えられるため、捨印を使用することは通常だと解されています。

Q.遺言があれば遺産分割協議書の作成は不要?

遺言があれば、原則として遺産分割協議書は作成せずに遺言どおりに遺産相続しますが、遺言に記載されていない相続財産が見つかった場合や遺言と異なる内容で遺産分割を希望する場合には、遺産分割協議書を作成しなければなりません。

揉めごとや手続きミスを防ぐなら弁護士や司法書士への依頼を検討しよう

遺産分割協議書があれば、相続トラブルが抑えられて相続手続きがスムーズに進められます。

遺産分割協議書は、法律の専門家でなくてもひな形を参考にしながら自分でパソコンなどを使用して作成できますが、過不足のない記載内容でなければ書類が法的に無効になったり、名義変更手続きで使用できなかったりする恐れがあります。

もしも、作成に不安がある場合や相続人間で揉めごとが起きて専門家の介入が必要になりそうなら、費用がかかっても司法書士や弁護士などの専門家に相談して作成を一任すると安心でしょう。

出典

国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
国税庁 No.9205 延滞税について
法務局 法定相続人(範囲・順位・法定相続分・遺留分)
法務省 戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)
東京法務局 【相続登記ガイドブック】
弁護士法人デイライト法律事務所 遺産分割協議書の文例集|弁護士が財産別に書き方を解説

執筆者:FINANCIAL FIELD編集部

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