更新日: 2024.04.25 その他相続

不動産の相続税はいくら? 計算方法から節税ポイントや売却時期を解説

不動産の相続税はいくら? 計算方法から節税ポイントや売却時期を解説
「相続税」について知ることは、財産を引き継ぐ際に重要です。特に、不動産の相続には複数の注意点があり、詳細な税金計算方法、節税のポイント、そして売却の最適なタイミングの判断が必要です。
 
本記事では、これらの要素に焦点を当て、「相続税」の基本から具体的な計算例、節税方法にいたるまで解説しています。
 
ぜひ、この記事を参考に、相続税に関する知識を深め、賢い財産管理と相続計画を立ててみてください。

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相続税とは?

相続税とは、故人(被相続人)の死亡により、相続や遺贈を原因として財産を取得した人(相続人)全員に課される税金です。
 
この税金は、相続する財産の種類によって評価方法や特例があり、不動産を相続する場合は特に計算方法、特例に注意が必要です。まず、現金以外の財産の相続税を計算するには、相続開始日(被相続人が亡くなった日)時点での、その財産の「時価」を知ることが必要です。
 
相続税評価における時価とは、市場で実際に売買される価格のことを指します。不動産については時価の評価が難しいため、路線価・固定資産税評価額を利用した評価方法となります。
 
これについては次の項目で詳しく説明します。
 
また、相続税の税率は、相続財産の総額と相続人に応じて段階的に設定されています。税率は10%から最高55%までとなっており、相続財産が大きいほど高い税率が適用されます。
 
また、配偶者、直系卑属(子どもや孫)への相続の場合、一定の条件下で税率の軽減措置が受けられることもあります。これだけで大変な相続税ですが、申告期限は相続人が相続開始を知った日から10ヶ月以内に申告が必要です。
 
申告期限を過ぎると受けられない特例もありますので、余裕を持って準備しましょう。
 

不動産を相続する時の相続税は?

不動産を相続する際には、相続税と登録免許税が課税されます。相続税は既に紹介したとおり、被相続人の全ての財産を相続や遺贈により受け取った人全員にかかる税金です。
 
そして、登録免許税は法務局で不動産の名義変更を行う際に必要な税金です。法定相続人が土地建物を相続する場合は固定資産税評価額の1000分の4、法定相続人以外が遺贈(遺言書による譲渡)や死因贈与(被相続人の死亡を原因とする贈与)で土地建物を受け取る場合は固定資産税評価額の1000分の20が課税されます。
 
令和7年3月31日までは、一部の相続登記について登録免許が免除される特例があります。条件等は、法務局もしくは司法書士にご確認ください。
 
合わせて、相続登記は令和6年4月1日から義務化されますので、不動産を相続する方は登録免許税も相続に必要な税金となります。
 

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現金と不動産で相続税の計算は違う?

相続税の計算は、相続する財産の種類によって異なる点があり、特に現金と不動産では計算方法に違いがあります。
 
これは、これらの財産の評価方法と流動性の違いに起因しています。ここでは、現金と不動産の相続税における計算の違いを説明します。
 

現金の相続

「現金の相続」に関しては比較的単純です。現金はその額面通りの価値があるため、相続税の計算においては現金の総額をそのまま相続財産の価値として計上します。例えば、5000万円の現金を相続した場合、その5000万円が直接相続財産の価値に影響を与えます。
 

不動産の相続

土地・建物といった不動産について相続税を計算するための評価方法は、時価評価ではなく、土地は国税庁が定める路線価に基づく路線価方式か、地域と地目ごとに設定された倍率に応じて固定資産税評価額を参照して計算する倍率方式が使われます。
 
気になる土地が路線価方式の地域か、倍率方式の地域かは、国税庁の公式サイトに掲載されています。
 
また、建物については固定資産税評価額が使われます。さらに、不動産を相続する場合、特別な減額規定や評価減が適用されることがあります。
 
例えば、小規模宅地等の特例は、自宅用地や事業用地の一部に適用され、評価額を最大80%減額できます。このような特例は現金には適用されないため、同じ額の財産を相続しても、最終的な相続税の負担が異なることになります。
 

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不動産相続税の計算方法

既にご紹介したとおり、相続税は被相続人の全ての財産に課税される税金ですので、不動産の相続税計算を単独で計算することはできません。他の相続財産と合わせて、次の手順で行います。
 

不動産相続税の計算手順(1)各財産の評価額を算出する

各財産の評価額を算出する不動産については路線価・固定資産税評価額から土地建物それぞれの評価額を算出し、小規模宅地等の特例や山林・農地に関する特例が使える場合には、その特例を適用した額で評価額を算出します。
 
例)被相続人が相続開始直前まで住んでいた8000万円の自宅の土地(特例居住用宅地等、路線価8000万円、300㎡)と固定資産税評価額1000万円の自宅建物、現金・預金・株式合計8700万円、生命保険金6000万円、借入金が700万円、葬儀費用が300万円、相続人は被相続人(亡くなった方)の妻と子ども2人、の相続を考えます。
 
土地は居住用宅地の条件を満たすものとして、特例の減額後の金額(1600万円)となります。
 

土地の評価額:(路線価)8000万円×(1-0.8)=1600万円・・・減額後の評価額
建物の評価額:固定資産税評価額1000万円

 

(1)不動産の合計評価額:2600万円
(2)現金・預金・株式:8700万円
(3)生命保険金6000万円は、相続人1人あたり500万円の控除がありますので、
  6000(万円)-(500万円×3人)=4500万円
(4)特例や控除後の総財産額は、1億5800万円です。
(5)負債の合計は、借入金700万円と、葬儀費用300万円の合計1000万円です。
(6)総財産額から負債を差し引いた残り、1億4800万円が今回の正味の相続財産となります。
  1億5800万円(総財産額)-1000万円(負債)=1億4800万円(正味の相続財産)

 

不動産相続税の計算手順(2)正味の相続財産から基礎控除を差し引く

相続税には基礎控除があり、3000万円と法定相続人1人につき600万円が控除されます。今回は相続人が妻、子ども2人の合計3人ですので、基礎控除額は4800万円となります。
 

  3000万円+600万円×3人(法定相続人の数)=4800万円(基礎控除額)

 
そして、正味の相続財産から基礎控除額を引いた金額、1億円が最終的な課税金額です。
 

1億4800万円(正味の相続財産)-4800万円(基礎控除)=1億円

 

不動産相続税の計算手順(3)法定相続分で分割した場合の相続人ごとの相続税額を算出して、一度合計する

前項で出てきた1億円を妻、子ども(長男、長女とする)2人で法定相続分(妻:2分の1、長男:4分の1、長女:4分の1)で分割する場合、それぞれの相続分は次のようになります。
 

妻:5000万円   長男:2500万円   長女:2500万円

 
相続税の税率表は図表1のとおりです。
 
図表1

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1000万円以下 10%
1000万円超から3000万円以下 15% 50万円
3000万円超から5000万円以下 20% 200万円
5000万円超から1億円以下 30% 700万円
1億円超から2億円以下 40% 1700万円
2億円超から3億円以下 45% 2700万円
3億円超から6億円以下 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円

※国税庁 No.4155 相続税の税率を基に作成
 
各相続人の相続税と合計はこのようになります。

 妻:5000万円×20%-200万円=800万円
長男:2500万円×15%- 50万円=325万円
長女:2500万円×15%- 50万円=325万円
合計(相続税額)       1450万円

 

不動産相続税の計算手順(4)相続税額を実際の相続割合で分割して、それぞれの相続税額が決定する

ここまでくると、相続税の計算はほぼ完了です。今回の例の場合、相続税は1450万円なので、これを遺産分割協議で決めた実際の相続分の割合で配分すると、それぞれの相続人が支払うべき相続税額となります。
 
極端な話、長男が全てを相続した場合には、長男が相続税1450万円を納付することとなります。それ以外の分け方をした場合も見てみましょう。
 
実際の相続割合が妻70%、長男20%、長女10%、だった場合
相続税の総額は1450万円と変わりませんが、各人の負担する相続税額が変わります。
 
<各人の相続税額>

妻:1450万円×70%=1015万円⇒0万円(配偶者控除の適用)

※配偶者には配偶者控除という制度があり、配偶者が相続した遺産に対する税金は、法定相続分もしくは1億6000万円までのいずれか多い方の金額に対する税額まで控除されます

長男:1450万円×20%=290万円
長女:1450万円×10%=145万円

 
こうなると、妻が全て相続すると相続税が0円になるので相続税を逃れられたように見えますが、二次相続(妻の相続)の際には配偶者控除が使えないので、かえって相続税を多く収めることになるおそれがあります。
 

どうすれば不動産の相続税を節税できる?

不動産の相続税を節税する方法にはいくつかあり、生前に行うものと、相続開始後(死後)に行うものがあります。相続開始後にできる不動産に関する節税は、小規模宅地の特例や農地の特例など限られている上、節税対策というよりはそのまま受けられる特例を受けているだけ、となります。
 
ですので、不動産の相続税を積極的に節税するためには何より、生前対策が重要です。ここでは生前の不動産の節税対策について詳しく説明します。
 

不動産相続税の節税対策(1)贈与税の110万円控除を使って不動産を早めに減らす

前述の家庭で、被相続人(亡くなった方)父親が生きていた時に節税対策を行う場合は、土地や建物の生前贈与を行うことがベストです。
 
相続時には正味の相続財産は1億円に対して相続税は1450万円と、実質14.5%の相続税が課税されることとなりました。もしも、建物を1000万円分生前に妻や長男に贈与していると、正味の相続財産は9000万円に減り、相続税額は1275万円と、相続税が175万円節税されます。
 
しかし、この1000万円の生前贈与には贈与税が課税されます。せっかく相続税が175万円減ったのに、贈与税で同程度の税金を納めているため意味がありません。
 
では、実際に贈与税も計算してみましょう。
 
贈与税には年間110万円の基礎控除があるので、それを使って、妻と長男に1000万円の自宅建物を4分の1(時価250万円)ずつを2年に分けて贈与します。その場合の贈与税の計算式は次のとおりです。
 
※200万円以下の贈与税の税率は10%、控除額は0です
 
(1)1年目の贈与  贈与税額合計 28万円

(贈与額)   (贈与税の基礎控除)    =  (課税金額)
 妻  250万円  -    110万円           140万円
   (課税金額)   (税率)   (控除額)    (贈与税額)
    140万円  ×   10%  -   0   =   14万円

(贈与額)   (贈与税の基礎控除)       (課税金額)
 長男 250万円  -    110万円       =   140万円
   (課税金額)   (税率)   (控除額)    (贈与税額)
    140万円  ×   10%  -   0   =   14万円

 
(2)2年目の贈与  贈与税額合計 28万円

(贈与額)   (贈与税の基礎控除)       (課税金額)
 妻  250万円  -    110万円       =   140万円
   (課税金額)   (税率)   (控除額)    (贈与税額)
    140万円  ×   10%  -   0   =   14万円

(贈与額)   (贈与税の基礎控除)       (課税金額)
 長男 250万円  -    110万円       =   140万円
   (課税金額)   (税率)   (控除額)    (贈与税額)
    140万円  ×   10%  -   0   =   14万円

 
(3)2年間での贈与税額の合計は、14万円×2(妻、長男)×2(回)=56万円
 
(4)このように、年間110万円の贈与税の控除額を上手に使うと、支払った贈与税56万円を差し引いても、175万円-56万円=119万円の節税となります。実際には、さらに登録免許税(不動産価格の2%、今回は20万円)と2回分の司法書士報酬等がかかりますが、それでも数十万円の節税となります。
 
司法書士報酬についても、2回の登記手続きを年末と年始に行えば、報酬を安くしてもらえる場合もありますので、相談してみましょう。
 

不動産相続税の節税対策(2)贈与税の110万円控除を使って現金を贈与してもらう

前述の不動産の代わりに、現金を贈与してもらって相続税を節税する方法もあります。こちらの場合は司法書士への報酬や登録免許税が不要であり、また、現金なので誰が受け取っても困ることはないので、比較的手軽な節税方法と言えます。
 
また、教育資金贈与や住宅資金贈与といった贈与税の特例もありますので合わせて利用すると、かなりの金額の節税対策となります。
 

不動産相続税の節税対策(3)相続開始日から7年前までの贈与財産

前述のとおり、贈与税の暦年課税を使った相続税の節税対策は有効ですが、被相続人の相続開始日(亡くなった日)から7年前までの期間に贈与を受けていた場合は、その贈与金額が相続財産に加算されますので、相続開始直前の贈与については節税対策が無駄になってしまうこともあります。
 
人はいつ亡くなるかは分かりませんので、特に暦年贈与を使った相続税節税対策は、できるだけ早い時期から行いましょう。
 
この7年前まで遡る制度は令和6年1月1日以降の贈与について適用されます。令和5年12月31日以前の贈与については3年間、令和6年1月1日以降の贈与についても過去3年より前の4年分は100万円の控除が受けられます。
 
相続税の節税対策は申告の要否、日付や細かい条件がありますので、税理士などの専門家に相談して行うようにしましょう。
 

不動産の相続税を抑えられる特例とは?

不動産の相続税を抑えるための特例には、小規模宅地の特例の他に、「農地等についての相続税の納税猶予及び免除等農地の特例」があります。
 
この特例は、広大な農地を持つ方の相続の際、相続人が継続して広大な農地を耕作するのに、農地の維持管理が大変な上、宅地のように簡単に貸すことも売ることもできない。それなのに宅地並みに路線価等で評価されてしまうと高額な相続税を納めることになるので、そういったことを防ぐための制度です。
 
この特例を利用すると、相続税額の計算の際に農地の評価を宅地の数十分の1で評価してもらえます。しかし、特例を受ける条件は厳しく、相続人が引き続き最低20年以上は営農しなければならず、場所によっては終身営農(亡くなる日まで農業を続ける)義務を課せられ、途中で営農を辞めてしまったら、遡って宅地と同様の評価を行い、利子税も発生することになります。
 
この特例はあくまでも相続税の「納税猶予」で、厳しい条件も課せられます。農地を相続する予定の方は、早めにご家族で相談しておくことが必要です。
 

不動産を相続するメリット

不動産を相続する最大のメリットは、土地や建物といった資産価値の高い物件を獲得できることです。また、賃貸経営などを行えば収入源にもなり得ます。さらに、不動産は売却や資産の担保としての利用も可能です。
 
このように、不動産を相続することには、いくつかの明確なメリットがあります。これらの利点は、不動産の持つ固有の価値と、投資や資産運用の面での可能性に大きく関係しています。順番に解説します。
 

不動産を相続するメリット(1)資産価値の保存ができる

不動産は長期的な資産価値の保存という点で大きなメリットがあります。
 
不動産は、経済の変動に対して比較的安定した価値を保つ傾向があり、特に良好な立地にある物件は、時間が経過してもその価値を維持することが多いです。これに対し、現金やその他の金融資産はインフレなどの経済変動により価値が目減りするリスクがあります。
 

不動産を相続するメリット(2)収益を生む資産

不動産は収益を生む資産としての役割も果たします。賃貸物件として運用することで、定期的な賃料収入を得ることができます。入居者さえ確保できれば、長期にわたって安全な収入を生み出すことが可能です。
 

不動産を相続するメリット(3)税制上もメリットがある

不動産を相続する場合は、贈与で受け取る時よりも税制上のメリットがあります。図表2で、相続する場合と贈与で受け取る場合をまとめました。
 
図表2

相続 贈与
相続税・贈与税の
基礎控除
基礎控除が3000万円+相続人の人数×600万円 暦年課税で1年に110万円
相続時精算課税を使うと2500万円までは非課税ですが、相続時に精算されます
基礎控除後の税率
(最低ライン)
相続人1人につき1000万円までは10% 受贈者の1年間1人につき200万円までは10%
評価額の特例等 小規模宅地の特例、農地の納税猶予 農地の納税猶予
不動産取得税 不要
※遺贈の場合は必要
必要
(固定資産税評価額の1.5~4%)
登録免許税
(不動産の名義変更時に必要)
固定資産税評価額の0.4% 固定資産税評価額の2%

筆者作成
 
計算方法に違いはありますが、相続税は相続人1人に対して1000万円までは10%ですが、贈与税は10%で計算できるのは200万円までです。また、不動産を相続で受け取ると小規模宅地等の特例があったり、不動産取得税がかからない、名義変更の時の登録免許税は贈与の時の5分の1と、さまざまな面で相続時に不動産を受け継いだ方が税制上は有利です。
 

不動産を相続するメリット(4)将来的に売却したり、再開発という選択肢がある

不動産を相続していると、将来的な資産の売却や再開発のチャンスも発生します。特に立地が良い場合は、将来的に高い価格での売却や、不動産開発によるさらなる価値の高騰が考えられます。
 

不動産を相続するメリット(5)家族が帰る「家」としての価値

相続した不動産には家族の資産としての意味合いも持ちます。特に、代々受け継がれてきた土地や建物は、家族の歴史や記憶を保持する象徴となり得ます。このような精神的価値は、金銭的価値だけでは測れない重要な要素です。
 

不動産を相続するデメリット

一方で、不動産を相続するデメリットも存在します。最も影響がある点は、相続税の負担が大きいということです。また、維持管理にはコストがかかり、不動産の場所や状態によっては売却が難しいこともあります。
 
さらに、共有で相続した場合は、共同相続人間での意見の相違が生じる可能性もあります。不動産を相続する際のデメリットも紹介します。
 

不動産を相続するデメリット(1)不動産は簡単に売れない

不動産は固定資産であり、流動性が低い点が大きなデメリットです。預貯金や株式のようにすぐに現金化することは難しく、売却する際には時間とコストがかかります。
 
景気にも左右されるので、希望する価格で速やかに売却することができない場合もあります。相続税の支払いのために売却するような時は、期限が迫っても希望価格の購入者が現れないと、買取業者などに安く買われてしまうこともあります。
 

不動産を相続するデメリット(2)維持管理が大変

不動産の維持管理にはコストと手間がかかります。特に、使用されていない空き家や老朽化した建物でも、年に数回は法事などで家族が集まる場合は、電気と水道は解約できず、さらに定期的な修繕、固定資産税、火災保険など、相続人には大きな負担となります。
 

不動産を相続するデメリット(3)遺産分割で分けにくい

不動産は相続の遺産分割協議において、最も取り扱いの難しい財産です。相続税での評価、売買での評価、万が一調停や裁判になった場合の評価、それぞれ一律ではないので、遺産分割協議の際にも、不動産を相続する人は「できるだけ安く」、不動産を相続しない人は「できるだけ高く」評価された方が、自分たちにとっては有利になりますので、評価方法を決めるだけでも揉める場合があります。
 

不動産を相続するデメリット(4)課税評価が複雑

相続税の申告が必要な場合は、特例が使えるかどうか、土地の形状による加減などで、課税評価額が大きく変わり、内容も複雑なので専門家である税理士などに依頼しないといけないのもデメリットです。
 

不動産を相続するデメリット(5)家族間の不和の原因になることがある

自宅を相続する場合は、誰かが住むか、売却して現金化するか、簡単に解決しない問題に発展することもあり、それが原因で家族間に不和が生じることもあります。決定打が出るまでは不動産がそのままで、解決できないまま数十年経ってしまうということもあります。
 

不動産の相続トラブルを減らすためには計画的な相続プランを

不動産の相続は、計画性の欠如が原因になり問題が起こりやすいです。相続する人が決まっていれば、現在の所有者は遺言書を残して、引き続き自宅を守って欲しいなり、好きなように売却して欲しいといった、方針を伝えておくことが大切です。
 
こういった遺言がない場合は、相続人が不動産の適切な扱いについて決定を下すのが困難になり、相続人に不利益をもたらすおそれがありますので、できるだけ避けられるように対策をとりましょう。
 

不動産を相続するベストな時期

不動産の相続は、多くの場合、被相続人の死後に発生しますが、生前贈与を含めた相続計画において「いつ不動産を相続するか」は重要な問題です。ベストな時期を判断するには、不動産の条件(誰か家族がこれからも住む予定があるか、貸家・貸し土地か、空き家で老朽化が進んでいるか)や、不動産の相場や景気、個人の税金対策を考慮して判断する必要があります。
 
ここでは各項目について、詳しく見ていきます。
 
(※厳密に表現すると、不動産の所有者が生きている間に無償で子どもや他の人に不動産を譲ることは「贈与」、不動産の所有者が亡くなって不動産を受け取ることを「相続」または「遺贈」と言います。ここまでは、イメージしやすいように不動産を受け取ることを全て、「不動産を相続する」と表現しました。ここからは、使い分けて説明します。)
 

税制面から考える不動産の贈与と相続

税制の面で考えると、生前贈与による不動産の移転は相続税の節税につながる可能性があります。既にご紹介したとおり、現在の税制では正味の相続財産の額によっては、数百万円の生前贈与に対する税額が相続時よりも低い場合がありますので、暦年課税の控除額を上手に利用すれば、節税が可能です。
 
しかし、所有者が亡くなった後の不動産の相続については、贈与税の選択肢が無くなっているので、検討すべき税金は相続税のみです。相続税については既に紹介したような特例を使って節税するかどうか、となります。
 
なお、贈与・相続・遺贈のどの方法を取っても節税方法はなく、贈与・遺贈の時には固定資産税評価額の2%、相続の時は固定資産税評価額の0.4%が必要です。生前贈与を考える際は、司法書士費用と共にどの選択が最善か考えてみるとよいでしょう。
 

不動産の市況・景気から考える不動産の贈与・相続

不動産市場の市況・景気も重要です。不動産市場が活況を呈している時期や、地域的な開発計画によって不動産価値が上昇している時期は、相続や贈与のベストなタイミングとなることがあります。
 
市場価値が高い時に不動産を相続または贈与することで、資産価値の高い状態を維持することができます。逆に、売り時を逃してしまうと、「あの時売っておけば」という後悔だったり、相続人同士の不和の原因となったりします。
 
不動産相場は知識がない状態で判断するのは難しいので、不動産業者などの専門家のアドバイスをもらってから決めましょう。例えば、相続人が不動産の管理や維持を行う準備が整っていない場合や、相続人が住宅ローンなどの財務負担を抱えている場合は、相続の時期を見直すことが必要です。
 

不動産を渡す側、受け取る側の財務状況から考える不動産の贈与・相続

個人の財務状況・計画も考慮に入れるべき要素です。不動産の所有者が高齢になり健康状態が不安定になった場合や、相続人が経済的に自立したタイミングなどは、生前贈与を検討する良い機会となることがあります。
 
しかし、それぞれの財政状況や計画された将来の支出に応じて、贈与をすべきか、または贈与をせずにそのまま最期の時まで所有者名義でいるか、時期を慎重に決定する必要があります。
 

不動産の種類や条件による検討要素

最後に、不動産の種類や条件によっても、相続のベストな時期は変わります。例えば、利用されていない空き家や老朽化した建物を相続する場合、早めの時期に相続して売却を検討することが望ましいです。このような不動産は維持管理のコストがかさむため、長期にわたる保有は経済的負担を大きくします。
 
しかし、まだ住んでいる人がいたり、もしかして誰かが住む可能性がある場合には、他の諸条件と合わせて検討する必要があります。
 

不動産を相続する際の注意点

不動産を相続する際には、まず正確な不動産の評価額を把握することが重要です。また、相続税の計算方法や納税の準備、他の相続人との円滑で十分なコミュニケーションも大切です。
 
そして、法的な手続きや納税方法に関しては、税理士・弁護士・司法書士といった専門家に相談することも必要です。注意点とその理由について解説します。
 

不動産を相続する際の注意点(1)不動産の正確な評価額

最も注意すべきものは、不動産を正確に評価することです。不動産は一物四価と呼ばれ、目的に応じて固定資産税評価額・路線価価格・公示価格・実勢価格という4つの方法で評価されます。
 
それぞれを簡単に説明すると次のとおりです。
 
・固定資産税評価額:市町村が固定資産税を徴収する根拠として、土地建物を評価した時の金額です。固定資産税の算出の他、所有権移転の際の登録免許税、贈与税・相続税では倍率方式の地域の課税価格の根拠として使われます。原則、不動産の所有者が市町村役場で知ることができます。
 
・路線価価格:贈与税・相続税の課税価格の根拠となるもので、道路に面する標準的な宅地の1平方メートルあたりの価格のことです。国税庁の公式サイトから閲覧可能で、毎年7月上旬に発表されます。
 
・公示価格:一般の土地取引の指標や公共事業用地を取得する際などに基準となる価格で、毎年3月下旬に国土交通省から公表されます。
 
・実勢価格:周辺で同様の不動産の売買が成立した価格。不動産売買で参考にされる。
 
相続税や所有権移転登記に使う評価方法は決まっていますが、遺産分割協議の際に、どの評価方法を使うかは法律で決まっていません。ですので、相続人全員で遺産分割協議をする場合には、どの評価方法を使うかを決めることが最優先となります。
 
これさえ決めておけば、相続財産がいくらあって、誰がどれだけもらうかを決めやすくなります。そのためにも、調べやすい路線価と、相続人なら誰でも調査できる固定資産税評価額は必ず調べておきましょう。
 

不動産を相続する際の注意点(2)相続税の試算

相続税の申告が必要な場合は、不動産以外の財産も合わせて相続税がいくらになるかの試算をします。既に説明のとおり、不動産の価格だけでは相続税の算出ができないので、不動産以外の現金・預貯金・株式・負債等を全てまとめます。
 
こうして、それぞれが相続税の負担を理解した上で、今後の計画をすることが重要です。特に、高額の不動産を相続する場合、相続税の額も大きくなるおそれがあります。
 
相続税を支払うだけの現金がないと、せっかく相続した不動産を手放すことになるかもしれません。できるだけ早い段階で税理士や専門家と協力し、相続税の試算と支払える金額かの検討をしなければなりません。
 

不動産を相続する際の注意点(3)遺産分割協議

相続財産とおおよその相続税が出揃ったら、相続人全員の合意が必要です。不動産の相続は、そこに現在住んでいる人がいるかどうか、今後事業で利用したい人がいるかどうか、そして相続した人には維持管理費用が重荷となることがあることを考慮しつつ、相続人それぞれの資産状況や収入を踏まえて、全員でじっくりと話し合うことが大切です。
 
この段階でコミュニケーションをしっかり取っていないと、後々トラブルになったり、相続税の申告期限に間に合わなくなることもあります。なお、遺産分割協議が完了していなくても相続税の申告は必要で、一部の特例などは受けられないものもあります。
 

不動産を相続する際の注意点(4)不動産の相続には専門家を入れる

不動産の相続には、法的手続きの正確な情報と流れを管理する専門家が必要です。不動産の相続には、戸籍収集、遺産分割協議書の作成が必要な上、令和6年4月1日からは相続登記が義務化され、期限も決められます。
 
相続税、相続登記、場合によっては遺産分割調停や裁判になることもあるので、税理士・司法書士・弁護士といった専門家に依頼して、正確なアドバイスを受けて進めましょう。
 

不動産の相続税まとめ

この記事では、不動産の相続に関連する相続税の計算方法、節税方法、適切な不動産の相続と売却の時期について詳しく説明しています。また、不動産を相続する際に知っておくべき税制、計算方法や特例、不動産の評価、相続税の申告期限とその準備、遺産分割の重要性についても触れています。
 
不動産の相続税は複雑であり、専門的な知識が必要なので、税理士・弁護士・司法書士といった専門家に依頼して、スムーズな相続手続きを行いましょう。そして何より不動産の相続は相続人全員の問題ですので、相続人間のコミュニケーションを円滑に進めることが重要です。
 

出典

法務局 相続登記の登録免許税の免税措置について
法務省 相続登記の申請義務化に関するQ&A
国税庁 No.4155 相続税の税率
国税庁 農地等についての相続税の納税猶予及び免除等(相続税の申告のしかた(令和5年分用)(抜粋))
国土交通省 地価公示
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部

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