贈与税の「暦年課税」と「相続時精算課税」どちらが有利なのでしょうか? 親が相続のことを考えるようになり、アドバイスしてあげたいです

配信日: 2025.01.26

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贈与税の「暦年課税」と「相続時精算課税」どちらが有利なのでしょうか? 親が相続のことを考えるようになり、アドバイスしてあげたいです
相続対策と聞くと多くの方が「節税」を思い浮かべますが、最も重要なのは「次の世代に円滑に財産を引き継ぐこと」です。そのためには、「分割対策」「納税対策」「節税対策」の3つをバランスよく考える必要があります。
 
とはいえ、少しでも多くの資産を次の世代に残したいという方にとって「節税対策」は興味があるでしょう。相続税の節税策にはいろいろありますが、その中でもよく利用される方法として「生前贈与」があります。
 
2024年から「生前贈与」に関する「税法」が改正されました。今回は、2024年からの改正点と、「暦年課税」と「相続時精算課税」の違い、さらに、生前贈与を行う場合の注意点について考えます。
西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役
 
http://www.nishiyama-ld.com/

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
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「節税」にはいくつか方法がある

相続が発生した際、亡くなられた方(被相続人)の財産の額(相続税評価額)が基礎控除(3000万円+法定相続人の数×600万円)を越える場合、財産を受け取る人に相続税が課されます。相続税は、課税対象となる財産が増えるほど税率が上がる「累進税率」が適用されます。
 
このような仕組みであることから、支払う相続税を抑えるために、

(1) 相続財産を減らす
(2) 相続財産の相続税評価額を下げる
(3) 相続税が軽減される「特例」の活用を検討する

などの方法を考えます。
 

「生前贈与」によって被相続人の財産を減らす

相続財産を減らす方法として、「使ってしまう」というのもありますが、今回は、節税策の検討の前提として、「少しでも多くの資産を次世代に渡す」という目的と考えます。
 
「生前贈与」は文字どおり、存命のうちに資産をほかの人に渡す(あげる)ということです。贈与する人を「贈与者」、受け取る側の人を「受贈者」といいます。
 
受贈者は将来想定される「相続人」だけとは限りません。「相続人の妻(夫)」や「相続人の子(贈与者の孫)」のほか、「内縁の妻」や「贈与者の会社の従業員」なども対象です。
 
民法第549条で、「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」と規定されています。渡す側と受け取る側の双方が合意している必要があるのです。
 
例えば、孫などの名義の預金口座を贈与者が開設し、毎年110万円ずつその口座に資金を移す、ということをされている方がいらっしゃるかもしれません。しかし、この場合の預金口座の印鑑や通帳などを贈与者が管理している場合、この口座は贈与者側が管理している口座になります(「名義預金」といいます)。
 
相続が発生し、税務署の調査で名義預金の口座が見つかると、贈与とはみなされず、被相続人の財産として扱われ、申告していないと追徴課税や加算税の対象になるので注意が必要です。
 

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贈与税の目的と仕組み

贈与税には、相続税を補完する目的があります。贈与税がなければ、相続人などの人にどんどん贈与することで被相続人の財産が減り、相続税が減っていきます。相続税の課税逃れを防止する目的で「贈与税」があります。
 
贈与税は原則として毎年、1月1日から12月31日までの間に受贈者が受けた贈与財産に対して課税されます。暦の上での毎年の贈与額から贈与税を算出するので「暦年贈与」といわれます。贈与税には110万円の「基礎控除」があることから、毎年110万円以内で贈与を行う節税策は広く浸透しています。
 
贈与税も相続税と同じく「累進税率」が適用されますが、贈与税の税率は相続税の税率よりも高く設定されています。一方、贈与税は原則として年ごとに算出されるため、正月を超えるとリセットされます。
 
つまり、毎年110万円ずつ贈与を続けると、贈与税がかからずに被相続人の財産が受贈者に移動し、贈与者の財産が減るので、節税につながります。
 

「相続時精算課税」とは

現在の贈与税は「暦年贈与」が原則ですが、もう1つの仕組みとして「相続時精算課税」があります。
 
相続時精算課税は、原則60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対して、財産を贈与する場合に選択できる制度です。
 
「相続時精算課税」を選択する場合、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に税務署に「相続時精算課税選択届出書」を提出します。一度この制度を選択すると、暦年課税には戻れなくなることに注意が必要です。
 
「相続時精算課税」は文字どおり、贈与された財産について相続が発生したときに相続財産として課税される仕組みです。この制度を使うと、贈与額の累計で一定額(2500万円)まで「贈与税」が課されない代わりに、相続が発生した際には、この制度を適用した後の贈与財産は相続財産に加算し、「贈与税」ではなく「相続税」として課税されます。
 
累計2500万円を超えて贈与した部分には一律20%の贈与税が課されますが、支払った贈与税は相続発生時に相続税から差し引けます。
 
結果的に「相続税」が課されますので、これまで「相続時精算課税制度」には節税効果はない、といわれてきました。実際には、贈与するモノによっては節税効果が期待できる場合があります。
 
相続税は相続が発生したときの価額で評価して計算しますが、相続時精算課税の制度を適用した後に行った贈与財産は、贈与時の価額が相続税の評価額です。
 
そのため、贈与後の価格上昇分(株式や不動産などのキャピタルゲイン)や、贈与財産から生じる果実(株式の配当や家賃収入などのインカムゲイン)などは相続税が課されないため、節税になります(逆に価値が下がってしまった場合でも贈与時の価額で評価することになるので注意が必要です)。
 

2024年からの新制度1 (暦年贈与の持ち戻し期間の延長)

2023年までの相続税法では、被相続人の財産を相続または遺贈により取得した人が当該相続の開始前3年以内に被相続人から贈与によって財産を取得していた場合、その人は、その贈与により取得した財産(加算対象贈与財産)を相続税の課税価格に加算して相続税を計算することになっていました。
 
対象となる「加算対象贈与財産」には贈与税の基礎控除分に該当する110万円以下の部分も含まれます。これを、一般的には「贈与財産の持ち戻し」といいます。
 
この持ち戻す期間が今年の税制改正で3年から7年に延長され、事実上の増税になりました(経過期間が設けられており、持ち戻しの期間が2024年から1年ずつ延長され、7年になるのは2031年(令和13年)です)。
 
ここでも注意点があります。相続税を支払う義務のある人は、相続または遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下同じ)により財産を取得した者、と規定されています。
 
相続税を支払うのは、法定相続人とは限りません。「相続または遺贈により財産を取得した者」に課税されるので、法定相続人以外の人も相続(または遺贈)によって何らかの経済的恩恵を受けた場合には相続税の課税対象です。
 
例えば、遺言書で「孫に遺贈する」「相続人の妻〇〇に遺贈する」などと書かれていたり、孫などを受取人にした生命保険などがある場合には、この「孫」や「相続人の妻」なども相続税の納税義務者です。これらの人に過去7年以内に行った贈与も持ち戻しの対象になることに注意が必要です。
 
逆に言えば、相続または遺贈により財産を取得していない人への贈与は持ち戻しの対象になりません。相続人でない人に贈与をした場合、その受贈者は相続発生時に財産価値のあるものを受け取らないようにしておく必要があります。
 

2024年からの新制度2 (相続時精算課税に「基礎控除」が新設)

もう1つの大きな改正点は「相続時精算課税」に「基礎控除」が新設されたことです。暦年贈与の基礎控除と同じく110万円の基礎控除が設けられましたが、暦年贈与の基礎控除とは別物です。
 
相続時精算課税の制度は維持されていますが、基礎控除が設けられたことにより、毎年110万円までは暦年贈与と同じように、贈与税も相続税も課されずに贈与できるようになりました。また、相続時精算課税を適用して行った贈与は前述の持ち戻しの対象になりません(基礎控除以内の贈与も含む)。
 
前述のように、相続時精算課税は、原則60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対して、財産を贈与した場合に選択できます。
 
ここでも注意事項があります。相続時精算課税を適用して孫に贈与を行ったような場合、相続発生時にその孫は「相続によって財産を取得した者」になります。
 
法定相続人でない孫の相続財産に対する相続税は2割増しの対象にもなります。結果的に、かえって納める税金が増えてしまうことにもなりかねません。一度「相続時精算課税」を選択すると「暦年課税」には戻せなくなりますので、慎重な判断が必要になります。
 

「暦年贈与」と「相続時精算課税」どちらが有利?

では、「暦年贈与」と「相続時精算課税」どちらが有利なのでしょうか。
 
これは、残念ながら一概にはいえません。誰に、何を、いくら贈与するのか、贈与する期間はどのくらいかによって、どちらが有利かは変わってきてしまうためです。また、生前贈与を行う場合で、相続人が複数いる場合などは「遺産分割でもめないか」についても考慮する必要があります。
 
相続対策では「節税対策」以上に「分割対策」「納税資金対策」についてもバランスよく考えなくてはいけません。ひょっとすると明日、相続が発生してしまうということもあり得ないわけではありません。
 
贈与のし過ぎで老後資金がひっ迫してしまっては元も子もありません。高齢化が進む中、「老後」と言われる期間も長くなり、その間の生活費の確保も重要です。
 
シミュレーションするにも、前提条件が必要になりますが、相続対策に関する相談をお受けする際も悩ましいのは、いつ相続が発生するかはわからない、ということです。
 
相続対策を考えるうえで考慮すべきことは数多くあります。聞きかじった知識で安易に判断するのではなく、相続に強い専門家とも相談しながら、慎重に考える必要があるでしょう。
 

出典

国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
国税庁 令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし(令和6年1月1日施行)
 
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役

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