”もしものとき“は同居中の長女に自宅を「相続」させたいです。独立した長男もいますが、遺言に「全財産を長女に相続させる」と書いても問題ありませんか?
配信日: 2025.02.09


執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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遺留分とは
遺留分とは、被相続人の遺産のうち、兄弟姉妹を除く法定相続人に対して保障される、最低限確保できる相続分であり、被相続人の遺言や生前の贈与によっても奪うことはできません。具体的には、遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、これ以外の場合は法定相続分の2分の1です(民法1042条)。
遺留分を主張できる人(遺留分権利者)は、被相続人の配偶者、子およびその代襲相続人、子およびその代襲相続人がいなければ直系尊属(父母、祖父母など)です。兄弟姉妹は、相続人となる場合であっても、遺留分はありませんので留意してください。
遺留分を侵害された遺留分権利者は、受贈者や受遺者に対して、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを請求できます(遺留分侵害額請求、民法1046条)。遺留分侵害額請求は、裁判上の請求による必要はありません。相手方へ意思表示の到達を証明できる配達証明付内容証明郵便を送付しましょう(民法97条1項)。
この請求は、遺留分権利者が相続開始および遺留分を侵害する贈与、または遺贈があったことを知った日から1年間、相続開始から10年間が経過した場合には遺留分侵害額請求権は時効により消滅し、行使できなくなります(民法1048条)。
遺留分は、金銭の支払いで解決します(1046条第1項)。しかし、金銭を直ちには準備できない受遺者または受贈者のため、受遺者等の請求により裁判所は金銭債務の全部または一部の支払いにつき、相当の期限を許与できます(民法1047条1項・5項)。
生命保険の活用
ご相談のケースのように、遺言書に全財産を長女に相続させると書いても無効にはなりません。しかし、長男には遺留分があり、遺留分侵害請求が行われるとトラブルに発展する可能性があります。
令和元年(2019年)7月1日以前(改正前)は、遺留分減殺請求に対して現物での返済も認められていましたが、改正後は遺留分侵害額請求に名称が変わり、金銭のみの支払いとなりました。
例えば、相続財産が住宅のみの場合、長女自身の財産から金銭を支払う必要があります。土地建物の評価額が4000万円とすると、長男の遺留分は1000万円(4000万円×1/2×1/2)です。長女に1000万円を支払う現預金等がなければ、自宅を失うことになります。
そこで、検討したいのが、「契約者:親、被保険者:親、死亡保険金受取人:長女」とする終身保険に加入する方法です。これにより、万一のとき長女は死亡保険金を受け取り、これを遺留分侵害請求に充てることが可能となり、遺贈や贈与の目的財産を長女に与えたいという遺言者の意思を尊重できます。
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まとめ
相続財産が土地・建物など現金化が容易でない場合であっても、遺留分侵害額請求に対しては現金での対応が必要です。したがって、ある程度、流動性資産を準備しておくことが必要です。
遺留分侵害請求に備えて、現金の準備として生命保険に加入しておくのが、兄弟姉妹間のトラブルを避けるための有効な手段のひとつといえるでしょう。
出典
デジタル庁 e-GOV 法令検索 民法
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。